271 友人は変わらない
「クリフ殿……ッ! 某はもう……感激ですぞッ!」
「……ト、トニーは変わらないね……それと筋肉すごいね」
俺の前で前よりもパンプアップされ、鍛え上げられた肉体を見せつけるようにダブルバイセップスをしてみせる旧友トニー・ギーニ。
シャアトモニアの一画に建てられた小さな館……ここはシェルリング王国の所有物として、ブランソフ王国の各地に建設されたものだそうだ。
シェルリング王国と、ブランソフ王国は古くから交流のある国だそうで、他国からすると『何もない国と交易している変わった王国』として扱われているのだという。
シェルリング王国は北方の小国ではあるが、北方海賊の血を引いており海洋国家としても知られている……そのため南方の国との交易は重要だったらしく、ブランソフとの関係は重要視しているのだという。
数年会っていないとはいえ、彼の強烈さは変わっていないな……ただ魔法大学で一緒にいた頃より、お互い大人になったのかな、という気はする。
そんな彼を見てアイヴィーとアドリアはどう声をかけていいのか分からないとばかりに、もじもじしていたのだがトニーはずずい、とポーズを変えながら彼女達との距離を詰める。
「アイヴィー殿もアドリア殿も久しいですな! 某はみなさんのことを一日も忘れないでおりましたぞ!!」
「え、ええ……久しぶり……」
「トニーさん、変わらないのはいいですけど女性の前で脱ぐのやめた方がいいですよ?」
「……だそうだよトニー」
そんな二人の様子を見て針葉樹の槍がクスクス笑いながらそう告げると、トニーは少し不満げな顔をしつつも脱ぎ捨てた上着を拾い黙って服を着直した。
着直した服がかなり仕立ての良いものだという点からも、彼自身がシェルリング王国の特使として一定の地位を築いているのだと気付かされる。
元々奇行さえなければ整った顔立ちだし、魔法の能力もとても高い……そして魔法使いとしては珍しく、筋骨隆々な肉体を持っていることで運動能力は俺以上の逸材なのだ。
服を着直したトニーは改めて、シェルリング貴族風のとても優雅なお辞儀を見せると、アドリアへと頭を下げた。
「改めて……トニー・ギーニ、シェルリング王国大使見習いとしてここにいますぞ」
「トニーさんがまともな挨拶してる……!」
「某は元々貴族出身ですから……夢見る竜のみなさんですな、改めて初めまして」
魔法大学時代にはあまり気にしていなかったけど、トニーの実家であるギーニ家はシェルリング王国でも有数の外交官を生み出している名門なのだとか、本人がそんなことを喋っていた気がする。
トニーはアイヴィーとアドリアへと視線を動かしたあと優しく微笑み、そして改めてロラン、ヒルダ、ロスティラフへと再度一礼した。
それに合わせてロランは胸へと拳を当て、ヒルダは少しぎこちないカーテシーを、ロスティラフはシンプルに頭を下げる。
この辺りも仲間の出身がバラバラなのが如実に出ている気がするな。
「しかしこんな場所で会うとはね……」
「某も同じことを言いたいですぞ、ブランソフ王国に皆さんがきているとは……」
「偶々なんだよね……混沌を追いかけてて……」
「ふむ……それでいくと某達の情報も役に立つかも知れませぬな、居るかね」
俺の言葉にトニーは少し考えるような仕草をしたのち、軽く手を叩いて侍従を呼ぶ……扉を開けてさっと入ってきた初老の男性は、黙ったままトニーの側へと近づくと彼は何事かを男性へと伝える。
何度か頷いた後男性は俺たちの人数を数えるような仕草を見せた後、何度か頷いて何かを納得したかのような表情を見せた。
男性はトニーへ、そして改めて俺たちへと頭を下げるとすぐに部屋を出ていく……それを見届けた後、トニーはにっこりと微笑んでから壁に背中を預けていた針葉樹の槍へと話しかけた。
「師匠にも色々話を聞きたいですな、一席設けますのでそこで話をしましょう」
「そうだね、どうもきな臭いことが多いからね」
「もうすでに冒険者組合への報告は済んでおりますよね?」
「ああ、明日また話をする予定だよ」
「承知しました、では本日はシェルリング王国風のディナーを馳走しましょう」
トニーは微笑んでから、改めて手を叩く……今度は扉を開けて、若い女性メイドが入ってくると先ほどの男性のように彼のそばへと小走りに近づく。
メイドに対してトニーは何かを指示すると、彼女は深く頭を下げた後すぐさま小走りで部屋を出ていった。
何を命令したんだろう? と思ってトニーを見ると彼は自ら大きなテーブルのある場所へと率先して歩いていき、俺たちへと振り返ると優しく微笑み、そして手招きをした。
「まずはお茶を一杯……準備ができるまで、昔話でもしましょうかクリフ殿」
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