263 魔王の目的とは?
「多面結晶体が共振しているな……」
ネヴァンは寝台から起き上がると枕元に置かれていた簡素な布を裸体に巻き付けてから立ち上がり、机の上で鈍い点滅を繰り返している多面結晶体に手をかざす。
一度強い光を放つと多面結晶体がその場でゆっくりと回転し始める……まるで不思議な動力でも入ったかのような動きは異様だったが、中を軽く覗き込んで山羊のような黄金色の瞳を何度か回転させたネヴァンはニヤリと笑みを浮かべる。
「あー、なんだよ……いい感じに寝ていたってのに……」
「十分楽しんだだろ? ……クリフを捉えるいいチャンスが訪れたぞ、今あの古き血の娘と媾っているが」
「なんだよ取り込み中ってことじゃねえか、他人がヤッてるところに飛び出すほど俺は野暮じゃねえよ」
寝台の上で上半身を起こしたカイだが、先程までの情事の名残なのか裸で、鍛え込まれた見事な肉体と体の各部に刻み込まれた複数の傷跡が歴戦の戦士であることを物語っている。
首筋や腕には人間の歯形のようなものなども刻み込まれているが、それらは血がまだ滲んでおり先程までの行為でつけられたものだというのがわかる。
「終わったら踏み込むか……わかっているな? お前が口説くのだぞ?」
「な、なあ……いいアイデアないか? いい言葉ってなんだろう?」
カイは寝台から降りると、ネヴァンの桃色の髪の毛をそっと手に取って軽く匂いを嗅ぐような仕草をするが、そんな彼の行動に呆れたような表情を浮かべると彼女は軽くため息をつく。
いつからだっただろうか、この大陸でも有数の戦士で快楽を満たすようになったのは……クリフ・ネヴィルに一度倒されてから幼子の姿で復活してからの付き合いだが、この法螺吹き男爵のことは嫌いではないと思えるようになってからだ。
「お前なあ……最近思うんだが、お前と団長は割と似たもの同士だろう……」
「そんなこと言うなよぉ……俺だって不安になることもあるんだよ……ぐへえっ」
アルピナがクリフに執着しその肉体や愛情を求め、与えていたようにネヴァンもまた同じように執着する対象を欲していた……本来はクリフに興味を持って良さそうだが、彼女にとって法螺吹き男爵の素質に惹かれるものがあったのだ。
じっと金色の目でカイを見上げるが……あまり締まりのない表情で困ったように苦笑いを浮かべる彼になんとなくイラッとして彼の脇腹に思わず肘打ちをしてしまう。
「……なんか今ものすごくイラッとした……」
「……あの……少しだけお話を聞かせていただいて良いですか?」
アイヴィーが少し緊張した面持ちでのんびりと紫煙を燻らせる針葉樹の槍に、木の皿に盛った携帯食を渡して尋ねる。
なかなか戻ってこないクリフ達を待つうちに、あたりは少しずつ暗くなってしまい夢見る竜のメンバーと針葉樹の槍は野営の準備を終わらせていた。
焚き火の周りでアドリア達がいつもの明るさで談笑をしているのをみてから、針葉樹の槍はそちらを指差してアイヴィーに尋ねる。
「君は彼方に混ざらないのか?」
「いつも話してますし……それよりも針葉樹の槍さんが先程話していた魔王の話を聞かせて欲しくて……」
アイヴィーから皿を受け取ると針葉樹の槍はやはり少し作ったような笑顔で頷く、それをみた彼女は許可がでたと判断し彼から少し離れた場所にあった倒木の上に座り自分の分の皿から乾燥した肉を手に取ると軽く齧る。
森人族の勇者は受け取った皿に乗せられた乾燥肉を口に運びつつ、興味深そうに談笑しているアドリア達の様子を眺め微笑むが、その様子を見てアイヴィーが不思議そうな表情を浮かべるとそれに気がついたのか、少し寂しそうな表情で話し始めた。
「トニーから聞いていたが、君たちは良き仲間なのだな」
「トニーは今何しているんですか?」
「シェルリング王国の特使としてブランソフ王国へと来訪している……彼の父君にはお世話になったことがあってね、護衛として同行しているんだ」
トニーが聖王国より帰還した後、彼が針葉樹の槍と面会したのは一年ほど前になる。
特使を任命されたトニーは少し変わった性格ということもあるが、持ち前の生真面目さから彼は外交官としてのキャリアを成功させつつあり、王国にとっても重要な人物へと変わりつつあった。
そこで針葉樹の槍が護衛と各国の諜報なども兼ねて同行することになったが……当初はトニーの奇天烈な行動に振り回されていた面もあり苦労が絶えなかったという。
「トニーは教えることなども多かったが良い生徒だ、それと彼はずっと君たちとの友情を誇らしげに語っていてね……私もどんな人物なのか気にはしていた」
「トニーらしいといえばらしいですね……でもあの時共に混沌との戦いに参加していなければ、私は帝国に戻って冒険者はやっていなかった気がします」
「今では金髪の剣姫だったか……君の名声は遥か北方のシェルリング王国にも響いているよ、それと同時にクリフ・ネヴィルの名声も高い……さて魔王の話だったな」
針葉樹の槍の言葉にアイヴィーが少し緊張した面持ちで頷く。
そんな彼女を見てそっと微笑むが、その笑みは非常に自然で先ほどまでの表情とかなり差があったことにアイヴィーは内心驚く。
そしてアドリアやベアトリクスがそうであるように森人族の血が入った人物は端正な顔立ちと神秘的な雰囲気を持っていることに感心してしまう。
「教えてください、私はクリフのことを信じていますが彼からは詳しく魔王のことは教えてもらっていません……」
「魔王とは何か、を答えるのは難しいからな……悪ではなく純粋に己の目的に忠実な存在としか形容できないのだ、私たち勇者と称される存在とは一線を画している」
「己の目的に忠実?」
「世界を滅ぼす、己の能力を研鑽する、道を極める、それらはすべて同じことだ。勇者はそうではない、大いなる意志のもとにあるのが我ら、だが魔王はあくまでも己を中心に組み立てる」
「……クリフの目的は何になるんですか?」
「彼と話さないとわからない、ただ伝え聞くところで考えるのであれば彼の目的は魔を極める者だと思っている」
アイヴィーは訳がわからないという表情を浮かべるが、針葉樹の槍は手のひらに魔力を集中させると仄かな緑色の魔力が生み出され、そこからふわりといくつかの光球が空へと立ち上る。
光球は次第に姿を変えると小さな羽を生やした人影……妖精となって辺りへと飛び去っていく……その軌跡は不思議なくらいに温かな光を帯びており、周囲の汚染されたはずの木々がゆっくりとその姿を変えていくのが見える。
アドリア達も驚いてその様子を見ているが、針葉樹の槍はそんな夢見る竜のメンバーを見ながら微笑む。
「この森はモーガンによって長らく汚染されているからね……こうやって治癒をする必要があるんだ、驚かせてすまないね」
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