256 竜撃の牙(ドラゴンボーン)
「まずはぁ……死者に囲まれて死ぬといいわ! 死霊の蠢きッ!」
ニヤニヤと笑うモーガンの宣言と共に、彼女が俺に向かって伸ばした左手を起点に魔力が集中していく……その魔力は闇を印象付ける黒色へと変化していき渦を巻く。
渦が実態を伴って苦しみと悲哀を湛えた表情を浮かべる顔が幾つも顕現し、俺に向かって放たれた。
その顔はまるで俺を捕食対象とでも思っているのか、それとも命の痕跡を感知したのかまるで弾丸のように回転しながら叫び声を挙げつつ迫ってくる。
「趣味悪いなぁ! ちくしょう……ッ!」
死霊の蠢き……死霊魔術のことはあんまり勉強していないので詳しくはないのだけど魔法大学で教えられた魔法の一種だったはず。
……この世界では死後の世界、神界の存在を信じられており、その世界に滞留する普通の霊魂は何をするでもなく世界をただ彷徨っていると伝えられている。
魂には希少性が存在しており、俺はそのおかげで神性への道に至ったのだけど一般人にもこれが当てはまるらしい……というのが神を知る者達がたどり着いた真実。
神界……特に霊魂がそのまま漂うような前世の地獄に近い場所に存在する魂は希少性が低いと認識されており、死霊魔術ではこういった魂を死体に取り込ませて屍人や死霊として活用する物だという。
この魔法はそういう霊魂を強制的に呼び出し、対象へと打ち出すかなり悪趣味な魔法の一つで、霊魂は命じられるまま対象を食い破る……そして罪を重ねたことでさらに希少性を失い、神界のさらに下層へと堕とされる。
死霊の蠢きが俺に向かって飛んできているのはまだマシだ……俺の近くにいるヒルダには見向きもせずに一直線にこちらへ向かってきている。
「黒の腕ッ!」
俺の言葉と同時に漆黒に鈍く光る魔力の腕が俺の背中に出現し体の前で両手をクロスさせて飛来した死霊の蠢きを受け止める。
言葉にならないような悲鳴をあげながら黒の腕に衝突した霊魂と俺の魔力が一瞬にして蒸発していくが、魔王として覚醒している俺は大きく息を吸い込むことで膨大な魔力を回復していく。
攻撃を消滅させた俺をみてモーガンの表情が明らかに歪む……それは怒りというよりも呆れのような物を含んだ物だが。
「……随分無茶苦茶ねえ……これだから人じゃない存在は厄介なのよ」
「アンタだってあんまり変わらないだろ? 第一その姿……真実ではないんだろ?」
俺の言葉にモーガンの顔に恐ろしく歪んだ笑顔……混沌の戦士達が浮かべるようなひどく堕落した歪み切った笑顔が浮かぶ。
<<限りなく混沌の戦士に近く、それでいて異質なもの……クハハッ……伝説の命なき王に限りなく迫っている。この時代の矮小な魔法使いにしては随分と高い素養があるのねえ……血筋がそうさせるのかしら>>
頭の中に響くアルピナの声はまるで懐かしい物を見るかのような優しい物だ。
おそらく俺のまだ認識していない彼女の知識の中にある友人が知人か……その人物に対しての懐かしい思い出なのだろう、ほんの少しだけノスタルジーな気分にさせられる。
「クハハハッ! 女性に歳を尋ねるのはよろしくなくてよ! 死者の槍ッ!」
モーガンと俺の間に直線的な勢いで、骸骨の腕がその進路上にあるものを貫くかのように天に向かって突き出していく……死者の槍とはよく言ったものだが、俺は黒の腕を大きく振りかぶると地面に叩きつけるように両手を振り下ろす。
それと同時にモーガンの放った死者の槍が黒の腕と衝突し、骨が砕ける嫌な音と共に消滅していく。
「思っているよりも俺が知らねえ魔法ばっか使いやがるなっ!」
俺が右手を突き出すと無詠唱で生成された一〇数本の火炎の槍が出現し、そのままモーガンに向かって投射される。
絨毯爆撃のように彼女の周りの空間を炎に包み込んで爆発四散していくが、その燃え盛る炎を突き破って無傷のモーガンが骨を組み合わせ作られた槍を片手に飛び出してくる。
なんだあの槍……? しかもあの骨は人間のものじゃ……彼女の手に握られた武器に込められた不気味な感覚に一瞬俺の動きが鈍る……ほんの一瞬の隙。
だがモーガンの動きは魔法使いにあるまじき凄まじく鋭く、次の瞬間俺は腹部に何か熱いものが食い込むような感覚を覚え、ゆっくりとその方向を見ると、槍が俺の腹部に深く食い込んでいるのが見えた。
貫かれた腹部から何かがずるり、と抜け出すような感覚……痛みと熱が俺の体から魔力を奪い取っていくのを感じる……耐えきれずに口元から血を吐き出して膝をついた俺を見下ろし、モーガンが歪んだ笑みのまま高笑いを始めた。
「ケハハッ! 油断したわね? この武器は神話の時代に作られた神話級武具……竜撃の牙そのものよ!」
( ゜∀゜)o彡° どゔぁきん! どゔぁきん!(違
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