250 平和なんて儚いもの
「さ、出かけるかー……」
俺は仲間と共に荷物を持って歩き出す……馬車は冒険者組合へと預け、命失われし沼地へと向かうための最小限の荷物へとまとめ直した軽装とも言っていい格好だ。
というのも命失われし沼地とやらはシャアトモニアから数日の距離にあり、途中に村などは存在せずしかも馬車が通れるような街道は整備されていないのだとか。
まあ不死者がいる沼地なんかに街道を通したところで、というのもあるだろうし仕方ないことだろうとは思う。
ということで馬は戦闘に向いていないし、いざ不死者と戦闘になった際にどこかへ逃げてしまっても困るため、街に預けておくという選択となったわけだ。
とはいえ徒歩での冒険というのはかなり久しぶりで、最近は長距離移動なども多かったために徒歩での移動などは本当に少なかったが、割と懐かしい気持ちで俺は目的地まで歩き出している。
「元気ねえ……ったく……」
「あれ、すぐに疲れますよ、断言します」
アイヴィーとアドリアがやれやれと言った様子で俺を見ており、ロランとロスティラフも苦笑いを浮かべて俺の後をついてきている。
ヒルダは少し元気がなさそうだけど、その後ろをとぼとぼと歩いておりまあこちらも問題ないだろう。
俺は歩きながら不死者のことを思い返してみる……実は冒険者人生の中で不死者と本気で戦闘になったケースは割と少ない気がしている。
低級の不死者である骸骨戦士あたりは割とメジャーなんだけど、今の俺からすると強敵ではないし苦労するような相手でもないからな。
モーガンが再現しようとしている神話、命なき王の伝説はおとぎ話にもなったくらいメジャーな話で、子供達が寝ない時に「不死の魔法使いが来るよ!」と脅かして泣かせるのは万国共通だったりするのだけど、果たしてその伝説となった命なき王が本当に存在しているのかどうか、というのは実は未確認の話だって聞いたことがある。
死霊魔術が邪悪な魔法ではなく、単なる魔法学問の一つでしかないことは魔法大学での勉強で理解しているし、忌避感もないんだけど一般の人たちからすると死体を操るなんて邪悪な存在でなければ考えないと思うのだろう。
魔法大学にいた死霊魔術研究の先生も割と変わり者だったことがあって、俺はこの魔法学問に関しては少し疎い。
「なあクリフ、命なき王って本当にいるのか?」
なぜか不安そうな顔をして俺に尋ねてくるロランだが、あれ? この人こんな表情をするような人だっけ? と今更ながら少し意外な気分になるが、魔法に精通している俺たちと違ってロランは普通に命なき王は恐ろしいもの、死霊魔術は邪悪という価値観のもとに育ってきているのかもしれない。
「伝説の存在だけど、本当にいるかどうかってのはわかってなかったと思うよ」
「そっかー……俺さガキの頃によく不死の魔法使いが来るよ! って脅かされて……人間相手の戦闘なら遅れを取る気はないんだけど、命なき王なんて想像の範囲外だからさ……」
「あれ? なんですロランはもしかして不死の魔法使いが怖いんですか?」
アドリアはイタズラっぽく笑顔を浮かべてロランに微笑む……まあ彼女も魔法学は散々学んできているから、実際に不死の魔法使いなんてものが存在していないというのは頭で理解できているわけだしな。
だがロランはそんなアドリアに黙って頷くと、大きくため息を吐く……あれ? 戦士として勇敢な彼にしてはかなり珍しい表情だな。
「そりゃガキの頃に散々刷り込まれてんだぞ、怖くない訳あるか……アドリアだってそういうのあるだろ?」
「私は全然怖くないですねえ……不死の魔法使いなんてものが存在しないって学びましたからね、あくまで伝説でしかないって」
「そういや魔法大学でもそんなこと言ってたね」
アイヴィーとアドリアはお互いに顔を合わせて同意するように微笑んでいるが、まあ俺が子供の頃に学んだ命なき王の伝説も実在するかどうかわからんとか教えられたら現実的になるよな……。
だが俺の知識、いや取り込んだアルピナの知識になるがそれが間違いだ、と知らせてきている……命なき王は本当に存在していた、いや実際に存在していると知識が教えてくれている。
それはまごう事なき現実であり、いつか俺たちの前にも姿を現すかもしれないという警鐘を鳴らされている気がしている。
「ま、冒険してりゃそのうち出会うかもしれないでしょ……今は目の前のモーガンとかいう魔女だよ」
「あら……ずいぶん強い魔力……」
傅く骸骨戦士の手にある水晶を眺めて、妖艶でグラマラスなスタイルを黒いドレスに押し込めた女性がそこに映る映像を眺めて赤い眼を輝かせながら笑う。
魔女モーガン……ブランソフ王国の暗部とも言える命失われし沼地を拠点とする魔法使いは興味深げにその推奨に映るクリフをじっと見つめる。
「……冒険者にしてはずいぶん強力な魔力、もしかして冒険者組合の差金かしら」
モーガンは少しの間考え込む……確かにこの沼地を拠点にして数十年、彼女は死霊魔術を極めるために様々な実験を施し、命なき王の伝説を再現しようとしてきた。
つい先日、混沌の戦士たるクラウディオがこの地を訪れ、変異混成魔法陣の成立に手を貸せと話を持ちかけてきたのをやんわりと断ったばかりなのに、なんと面倒な。
命なき王伝説の成就意外になんの意味があろうか……だが遅いくる火の粉は払わねばなるまい。
モーガンが軽く指を鳴らすと沼地全体の雰囲気が一気に変わる……自らの身を守るために配置してある不死者達の命令を伝播させる。
彼女の支配下にある不死者達は普段人を襲うことはなく、ただ徘徊しているだけ……運の悪い人間が紛れ込みお仲間になってしまうことはあるのだが、意図して襲わせたことはないのだ。
「でもまあ、冒険者組合から見たら同じようなものか……平和なんて儚いものね。切り札も使わないとダメかもしれないわね……こいつは何か違うものを感じるわ」
水晶に映るクリフを眺めながら、自らが感じたことのない言いようのない不安と違和感を認めてモーガンはゆっくりと研究室を出て目の前に広がる広大な沼地の前でほくそ笑むとその見事な白髪をかきあげる。
その魔力の高まりの応じて沼地の奥底からゆっくりと巨体が姿を表していく……腐り切った肉体と泥に塗れた白骨が露出した巨体、一〇メートル以上の巨大な体を揺らしながら沼地より超大型の不死者が姿を表した。
「さあ、無粋な冒険者を駆逐しましょう……全ては命なき王伝説成就のために!」
_(:3 」∠)_ おん年何十歳の妖艶な美女……これもう不死の王でしょ!?(白目
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