247 夢見る竜結成前のアレ
「というわけで、今回は命失われし沼地とかいう場所に不死者と一緒に引きこもってるらしい魔女を退治ししにいきます」
「沼地……ええ……?」
翌日……仲間にシャアトモニアの冒険者組合から受けた依頼について食堂で話したところ、俺の言葉にアドリアが露骨に嫌そうな顔をしている……今俺の目の前にいるのは夢見る竜のメンバーのみで、カレン、ベッテガは一足早く王都へと向かってもらっているのでおそらくすでに王都内で色々動いているのだろうとは思う。
アドリアが露骨に嫌な顔をしているのは、まあ理解できる……沼地の冒険って碌なことがないからな……湿気と虫と泥濘に塗れる場所なんかで冒険したいと思っている冒険者なんかいないからだ。
「大荒野に行く前に三人で一度行きましたよね? その手の沼地」
「はい、アドリアさん虫に噛まれて大変なことになりました」
「……私二度と行きたくないって言いましたよね?」
「はい、仰いました、そういうの受けたら今度こそ殴るって言われました」
「わかってんのに、なんでそういう依頼受けるんですか? 新手の嫌がらせかなんかですか? あーもう、私また虫に噛まれて酷い目に遭うんですよ……そんなの、嫌に決まってるじゃないですか!」
アドリアが血の涙を流しそうなくらいの表情で俺の胸ぐらを掴んでくるが……もう受けちゃったし仕方ないじゃん! 俺はアドリアを顔を合わせないようにしつつ、言い訳を考える。
沼地でアドリアが虫に噛まれた……というのも夢見る竜結成前の割と苦い経験の一つで、俺たちの顔くらいある巨大な甲虫が沼地に潜んでおり、なんとか沼地を脱出しようとした俺たちに襲いかかってきて……アドリアは顔に張り付かれてそれまで聞いたことのない悲鳴をあげてぶっ倒れ、アイヴィーはその声に驚いて沼の中に顔をダイブさせ……俺はアドリアの顔に張り付いた甲虫を引き剥がすのに大変だった。
泥だらけになって俺たちは這々の体でそこから逃げ出し川の中に飛び込んで泥を落として……若かりしころとはいえ数年前のことだが、あれは二度と経験したくないな、うん。
まあ、本質的な部分でいくとモーガンという魔女が神話の再現をしているため、それを止めなきゃいけないって話なんだけど……肝心の神話の再現については夢見る竜のメンバーにどう説明したほうがいいものか、と俺は悩んでいる。
その時、突然ヒルダが俺を庇うように前に立つと、アドリアに話しかける。
「アドリア、クリフが決めたことなんだよ? リーダーがクリフなんだから私たちはその決定に従った方がいいと思う」
いきなりヒルダが俺の援護射撃を始めたことで、アドリアとアイヴィー……それとロランが口をあんぐり開けて驚いている……ロスティラフはまあ、そうだねといった表情ではあるのだが。
ヒルダが俺たちの行動に口を出したのは初めてではないか……? 彼女は仲間になった経緯もあって今まで口出しを避けていた気がするのだが。
「ちょっと、ヒルダが口を出すような問題では……」
「私だって夢見る竜の仲間じゃない、私はクリフに救われたから彼のことを信じてるし、彼のいうことは絶対だと思ってる……みんなが行かないなら私だけでもついてくわ」
ヒルダの真剣な顔に、呆気に取られたような表情を浮かべるアドリア……まあ、こんな反抗を受けるとは思ってなかったんだろうな……しかし、俺たちはこのメンバーで夢見る竜なのだから、他のメンバーがついていかないなんてことはないんだけど……どうしてヒルダは急にこんなことを。
そこで俺は昨日のヒルダの行動を思い出す……お礼とか言ってたけど、まさかね……悪戯だよね? そうに違いないよね……彼女の後ろで考え込む俺をみて、アイヴィーは怪訝そうな顔になっておりその視線に気がついた俺は慌ててアドリアとヒルダの間に割って入る。
「ちょっと待ってくれ、俺がその依頼を受けるって決めたのは、これを放置しているとこの国に滞在している俺たちにも多大な影響が出ると感じたからだ。沼地のアレは、昔のことなんで忘れてて……ごめん」
「……わかりましたよ、私一人のわがままで何かをしようとは思ってません……今回私がついていかなかったのも悪いですし……」
アドリアがため息をついて近くの椅子に座るが、俺も軽くため息をついてしまう……アドリアを不快にさせる気は全く無かったのに。
そんな俺に振り返るヒルダは何故か誇らしげな表情だ……やめて、なんか他の人にいらぬ疑惑を持たれそうだ……ヒルダの周りに年が近い男性がいないからそういう気持ちになっているだけで、俺はそんな彼女の憧れなど受け止める余裕なんかないのだから……。
「出発は明日にしよう、不死者を使役しているって話だから相当に厄介な相手なんだと思う」
「そのモーガンって魔女のことを聞き取りしておく必要があるわね……ヒルダ、冒険者組合に一緒にいきましょう」
アイヴィーがヒルダを誘って部屋から出ていく……ロランとロスティラフは武器の手入れがあるから、と部屋へ戻っていく……食堂に残っているのは俺とアドリアの二人だけになった。
この場所も個室ではないから今のやりとりは他の冒険者も聞き耳立てていただろうし、何故か俺自身が居た堪れない気分で彼女の前に突っ立っている。
「……あなたが規格外なのは理解してます、それでも仲間である私たちのことをちゃんと考えてもらわないと……それと、なんかしましたね?」
「何もしてない……してないよ!」
俺がドキッとして顔が強張ったのを目ざとく見つけたアドリアは、大きくため息をつく……嘘をつくわけじゃない、ただ一方的にどうやらヒルダから好意を向けられているのだから、俺が何かをしたわけじゃない、と思う。
それでもアドリアは少し頭が痛そうな仕草をした後、立ち上がって俺のローブや衣服を軽く直していく……まるで前世でスーツを初めて着た時に母親に直してもらった時のような気分にもなるが……。
「……嘘が下手ですよ。クリフが何かしてなくてもヒルダから何かあったんでしょ? 最近ヒルダがクリフを見る目が少し変わってました。憧れよりももう少し強い……昔の私と同じです」
「……う、うん……」
アドリアは俺の胸元に頭をコツン、とつけるとそのままじっと黙ってしまう……アイヴィーと恋愛関係が進み始めた後、アドリアが抱えていた本当の気持ちを知らされて……一度は拒絶したが、大荒野へと向かって色々あって、結果的に俺とアドリアはそういう関係になった。
アイヴィーは気にしないだろう……だけどアドリアはその関係に負い目をずっと感じており、その気持ちをヒルダに感じて欲しくないという彼女の優しさもあるのだろうな。
「最終的にどうするかはあなたが決めることです、でも……私はヒルダに私と同じ気持ちを味わって欲しくないです」
_(:3 」∠)_ そのうち幕間みたいな話も書きましょうかねえ……
「面白かった」
「続きが気になる」
「今後どうなるの?」
と思っていただけたなら
下にある☆☆☆☆☆から作品へのご評価をお願いいたします。
面白かったら星五つ、つまらなかったら星一つで、正直な感想で大丈夫です。
ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。
何卒応援の程よろしくお願いします。











