242 変異混成魔法陣
「……本当にありがとうございます……まさかこれだけの数が捕らえられてているとは……」
「街に戻ってからその話しましょ……」
俺たちに連れられて街へと帰還した『苗床』とされていた女性……その数は一五人ほどおり、その他に死体となっていた人数を合わせると三桁近い女性がその砦の中に閉じ込められていた計算になる。
流石に多すぎるということで、すぐに冒険者組合へと連絡を行い現在砦には数多くの人が集まっている状況だ。
俺に話しかけてきた受付嬢に軽く愛想笑いを浮かべて手を振ると、彼女は頭を下げてから慌てて砦へと走っていく……事後処理というのも大変そうだな。
集まっている冒険者組合の職員、および駆り出されてきた受付嬢もその状況に真っ青になって砦の中を調査している……俺とロスティラフは何故か「お二人は人質の女性に怖がられるかもしれないので」という謎の理屈で砦の近くで並んで座っている。
二人でポツンと座っている俺たちを、見つけたヒルダが笑顔で手を振るのを見て手を振りかえした後、傍で尻尾で不満そうに地面を叩いていたロスティラフが軽くため息をつく。
「クリフやアドリアが特別なんだ、と今更ながらに思い知りますね……一人で旅をしていた頃を思い出しました」
「俺はロスティラフの顔好きだよ、カッコいいじゃん」
「……そういうことをいうのはクリフだけですよ」
そんなもんかねえ……竜と同じ外見なんてなりたくてもなれないものだと思うんだけどなあ……前世の世界でも差別とかが問題になっていたが、この世界ではより一層そういったものが顕著である気がする。
砦の捜索がひと段落したのか、数人の冒険者が俺たちが休憩している方へと移動してくるが、その中でも年配の男性冒険者が俺の顔を見てニカッと笑うとこちらへと歩いてくる。
「……夢見る竜のクリフ・ネヴィルっていやあ、とんでもねえ性欲の権化で出会った女を全部口説いて回っている悪の魔法使い、なんて言われてるが実物は随分色男だな」
「……ちょっと待って、何そのイメージ……俺は割と紳士で通ってると思ったんだけど……」
「俺もその噂聞いた時は笑っちまったよ、ああ、俺はジョンって呼んでくれ。ブランソフ出身の冒険者で最近戻ってきてな、一時期は大荒野にもいたんだぜ」
大荒野……俺を冒険者として何段階も成長させてくれたあの不毛の荒野が今では懐かしい……何も考えずに冒険を続けていることが楽しくて仕方がなかったはずなのに、帝国へと呼ばれてからどうも違う方向に人生が進んでいるような気がしてならない。
ジョンと名乗る年配の冒険者は腰に下げていた水袋から軽く中身を呷ると、軽く口元を拭って笑う……ああ、酒入れてんのか。
彼は俺の隣に座ると、頭をガリガリと掻いてから砦の方向を寂しそうに見つめて、それから俺に聞かせるわけでもなく一人で喋り始める。
「……少し前からこの王国内で神隠しが勃発してたんだ。俺が国に戻ってきたのは冒険者組合の要請があったからなんだが、正直お手上げだね」
「……この国って昔からこんな感じなのかい?」
「いや、昔は割と平和だったけどな……こんな事件が起きるような国じゃなかった。混沌なんて御伽話の中だけでしか見たことなかったよ。しかも今回囚われていた女は一〇年前に規制されたはずの麻薬で頭をやられててな……正直回復の見込みすらない」
ジョンは再び水袋から酒を呷ると、深いため息をつく……この国出身だからこそ何故こんなことになっているのか、という葛藤や苦しさもあるのだろう。
国から出た冒険者が再び国許に戻ったとき、故郷は変わっていてほしくないと思うのは誰でも一緒だ……俺ですらサーティナ王国が平和にずっと続いていて欲しいとは思うくらいだから。
「……ただ、戻ってきて思ったんだけどよ、なんか雰囲気が違うんだ、俺が知ってるブランソフと少しつづ変わり始めている気がする……何となくなんだがよ……あ、すまねえお前さんに話すことじゃねえな」
ジョンがじっと自分を見つめる俺の視線に気がつくと、苦笑いをして立ち上がる……そのまま彼は冒険者組合の職員たちの方へと歩き出す……彼がいう雰囲気が違う、というのはもしかしたら混沌の侵蝕により何かが起きていることの証左なのかもしれないしな。
俺は隣で黙って話を聞いていたロスティラフと目を合わせると軽く頷く……やはりここには何かがあるに違いないという確証めいたものを感じて俺はゆっくりと立ち上がり、ロスティラフもそれに倣って立ち上がると俺たちは並んで歩き始める。
「少しは手伝わないとな……あとで酷い目に遭いそうだ」
「そうですな……荷物運びでもやりに行きますか……」
「……強大な魔力の集中、拡散……使徒、いや今は新たなる魔王か……」
国境沿いの事件から数日後、ブランソフ王国王都のどこかにある石造の部屋で、各地の様子を映し出す水晶を眺めながら、混沌の戦士であるクラウディオは儀礼用の礼服を身に纏った状態で一人呟く。
この部屋は強固な防護魔術により護られた場所で、よほど練達の術者でもない限り王都に混沌が潜伏しているだろう、などとは考えないほど完璧なものとなっている。
「クラウディオ様……レヴァリア戦士団を通じて、シェルリング王国の使者が王への面会を求めています」
「……この時期に……面倒な……」
クラウディオの背後にあった別の水晶からの声に、軽く舌打ちをするとその水晶に映る初老の男性……それはクリフが白昼夢で見た騎士団長、ジャコブ・レスコーその人であった。
だがクリフが夢で見た時よりも印象が変わっており、おどおどしたような表情は浮かべておらずどちらかというと感情の起伏が感じられない冷たいものとなっている。
「問題がもう一つ、国境沿いで夢見る竜がガラタンを倒したようです、冒険者組合の報告の中に紛れておりました」
「ガラタン如きでは無理か……やはりこちらに有利な場所へと引き込まないと手がつけられんな」
クラウディオの言葉に少し驚きの表情を浮かべるジャコブを前に、彼は黙って羊皮紙に軽く何かを書き込んでいくと、合図のように軽く手を叩く。
その合図に応じて、クラウディオの背後に暗闇から滲み出るように一人の人物が現れてひざまづくと、クラウディオはその人物に羊皮紙を軽く丸めて渡すと、堂々とした声で言葉を発する。
「使徒が都市に入り、油断したところを叩く……そのために各地に設置した変異混成魔法陣を展開する……最終的には王国ごと混沌の空間へと変化させ、すべての生命を原始の海へと沈めるのだ」
_(:3 」∠)_ 究極大魔法を登場させて、とりあえず世界の危機だ!(白目
「面白かった」
「続きが気になる」
「今後どうなるの?」
と思っていただけたなら
下にある☆☆☆☆☆から作品へのご評価をお願いいたします。
面白かったら星五つ、つまらなかったら星一つで、正直な感想で大丈夫です。
ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。
何卒応援の程よろしくお願いします。











