151 混沌の戦士(ケイオスウォリアー)の集結
「そうそう、良く鍛えておりますな。もう少し狙いを丁寧につけるように練習してくだされ」
ロスティラフが帝国内における馬車での移動の合間にヒルダへの弓の指導をしている。
ロスティラフの混合弓は流石に引けなかったものの、彼女は短弓の扱いが相当に上手いとロスティラフは評価していた。
「城の戦士に子供の頃から教えてもらっていて……その時も褒められたの」
ヒルダは少し寂しそうな笑顔でロスティラフに微笑むと、その笑顔を見たロスティラフは大きな手を彼女の頭に乗せて、優しく撫でる。
「私もヒルダ殿が素晴らしい射手になると思いますよ。体が成長すれば、もっと大きな弓を引けるようになるでしょう。今はその短弓で腕を磨きましょう」
弓という武器はいくつか種類がある。ロールプレイングゲームでも中には弓自体の種別が分かれているものもあるが、この世界では大体三種類に分類される。
短弓、小型で持ち運びのしやすい弓で射程が少し短いものの、威力としては十分で軍隊ではあまり使われていないものの、冒険者は持ち運びや取り回しが良いという理由で使っているケースが多い。
次に長弓、帝国の斥候カルティスや聖王国で共闘したプロクターもこの弓を使っていた。射程も十分に長く、威力も出やすいということで各国の軍隊で採用されている。森人族の弓もこれが多い。
最後の混合弓は複合材などを使って作られた長弓より一回り大きい弓で、ロスティラフは竜骨と金属を組み合わせて作られた特殊なものを使用している。威力も射程も出るが、とにかく硬いため腕力がないとそう簡単に扱うことができない。
最近は習熟に時間がかからず、威力も高い弩を使うものもいるが、弩は再装填に時間がかかるため、冒険者が使うケースはそれほど多くない。
ヒルダはまだ体が成長しきっていないということもあり、短弓を使用している。練習をしているところを見ているが、ロスティラフほどではないがかなりの腕前だな、と思う。
野営の準備が終わったようで、アドリアとアイヴィーがこちらへ向かってくる。ロランは馬車の影で昼寝をしていて、その横には御者として派遣されてきた初老の男性……名前をカールさんというそうだが、彼もパイプを蒸している。
馬車の旅……初めて帝国製の馬車に乗ったが恐ろしく乗り心地が良かった。縦長で四頭引きの大型馬車で、内部は縦に長く……ソファーなどを合わせると八人の男性が乗れるゆったりサイズだ。
そして軽く下回りを見せてもらって俺は驚いたのだが……一般的な車軸直結式の馬車ではなく、鎖と楕円形の板ばねを利用した原始的だが簡単な緩衝装置が装着されていたのだ。
前世での緩衝装置付き馬車の利用は一四世紀ごろから始まっているが、実際に一般化したのは一六世紀に入ってからだ。
この構造を見て俺は混乱した……帝国の技術力の高さというか、これはすでに過剰技術の域に入っていると言う点について。しかし……仲間の手前あまりここで騒ぐわけにもいかず……この疑問はそっと心の奥にしまうことになっている。いつかこの疑問が解消されることを願うが……。
しかし平和だ……帝国内はとても治安が良いと聞いていたが、キールを離れてから四日目。俺たちはカスバートソン伯爵家から派遣されてきた馬車に乗りアイヴィーの父親が統治する伯爵領への移動中だ。
その間、俺たちが見たのは……定期的に巡回している帝国のパトロール部隊くらいで、大荒野の移動で起きていたような不意の襲撃などもなく……とてものどかな街道を移動しているのだった。
今は野営の準備をアイヴィーとアドリアが担当しており……男性陣は暇な時間を過ごしていた。野営の準備を女性二人に任せるというのもどうかと思って相談をしたことがあるのだが、彼女たちも一緒に旅をしているのだから野営の設営を理解したいという二人の熱意に負けて……半ば押し切られる形でおまかせしている。
「クリフできましたよ、一度確認してください」
アドリアが笑顔で俺に話しかけてくる……そっか……一応彼女たちにお願いをしたときに最後の確認は俺が行っている。俺もこの世界に転生して、下積みも含めて何千回も野営の設営をしているので、信頼はされているのだ。
ちなみにうまく設営ができずに、当時所属していたパーティリーダーに暴行を受けたこともあるので……冒険者家業はやはりヤクザな家業だなとは思う。
「ヒルダの様子はどうですか?」
アドリアが少し心配そうな顔で俺に尋ねる。
「そうだな……少し元気にはなってきているけど、まだまだ初めて会った時のような感じではないね」
俺は思ったことをそのまま伝える……俺から見てもヒルダはまだ無理をしていると思う。
とはいえ、訓練の様子を見ているとよく鍛えられているなと思う。マーロ城の山賊たちは魔法に対する知識などは微妙なものだったが、基本的な訓練などはちゃんと継承されていたのだなと思う。
「まあ……時間が解決すると思うな」
「そうですか……私たちが支えになれればいいんですけどね」
アドリアは少し心配そうな顔で……ロスティラフに師事されているヒルダを見ている。これから先ヒルダを鍛えながら伯爵領に行って……その後どうしたらいいのだろう?
俺はアイヴィーが召喚状を受け取ったのでついてきているが……帝国内で何かしらの揉め事が起きているとして、自分たちの手に余るような出来事があった場合、俺はどうするべきなのか? とても悩んでいる。
「何考えているんです?」
皆の目を盗むようにアドリアが俺の頬に軽く口づけをして……笑う。おっと随分と積極的ですな。俺は口づけられた頬の感触を指で確かめる。
「んー……帝国で何が起きているかわからないからさ……俺たちはどうするべきかな、って」
その答えにアドリアも少し……表情を曇らせる。
「そうですね……何が起きているのか、まだわかりませんしね……」
「……何が起きているのか分かって、私以外の人が関係ない事態だったら私を置いて行ってもいいのよ」
いつの間にか俺の横に来ていたアイヴィーが俺の横に腰を下ろして、手にそっと触れて俺を見つめる。両手に花というのはこういうことを言うのだろうか。
「それは出来ないな。君もいてこその夢見る竜だし……最後まで付き合うよ」
トゥールインの城門が開く。
開いた城門の先に……二人の人影があった。一人は板金鎧を着用した長身で筋肉質の男……混沌の戦士クラウディオだ。手には巨大な槌矛と凧盾を持っている。
凧盾の表面には紋章が刻まれている。この紋章は帝国では20年ほど前に滅びたブラックモア伯爵家の紋章だったが、すでに人々の記憶からは風化しつつある。
もう一人は年端も行かない少女の姿をした……桃色の髪に黒いローブを着た混沌の戦士のネヴァンだ。クラウディオに手を繋がれ……トゥールインの兵士たちはクラウディオの娘なのか? と疑問に思った。しかし……金色の不気味すぎる目を向けられて、兵士たちは戦慄する。
「人ではない……」
誰かがこぼした独り言……そう援軍として最初に到着した二人は明らかに人間ではなかった。
「そうですよ……私たちは混沌の使徒。ですが皆様と共に戦う同志でもあります」
兵士の背後から……当主ヴィタリ・ラプラスが信頼する女性……アルピナの声が響き、兵士たちは一斉に振り返ると跪く。
悠々とその間を歩くアルピナは……クラウディオとネヴァンへと歩み寄るとそっと頭を下げる。
「遠路はるばる……お越しいただきありがとうございます」
その言葉にクラウディオが、不気味すぎる顔で笑うと兵士たちへと聞こえるような大音声で叫ぶ。
「混沌の戦士クラウディオ……及びネヴァン。ラプラス家のために推参……憎き帝国を滅ぼすため……我は力を尽くそう」
_(:3 」∠)_ な なんと こんとんのせんしたちが……! どんどん あつまっていく!
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