114 ゲルト村防衛戦 05
「さて、俺の相手はどいつだ?」
ロランは槍と大盾を構えて、獣魔族の様子を見ている。正直いえば、ここにいる全員がロランへと襲い掛かったとしても、彼は切り抜ける自信がある。
別の方面ではアイヴィーが蠍人族と戦っているようだ。まあ、彼女であれば問題はないだろう。
見回すと巨人並みに体の大きい獣魔族がこちらに向かってきているのが見える。ああ、そういえば最初にそういうのを見たな……とロランは考えて武器と盾を構える。
向かってくる巨大獣魔族は、鹿の頭をしており手には巨大な両手持ちの槌矛を握っている。腕は二本のみだが、額にぎょろりと動く赤い目が見える。獣魔族の目は金色の瞳が多いため、何かの特殊能力を持っている可能性が高い。
「こういう時は出方を見た方が安全……」
ロランは大盾を構えたまま鹿頭へと近づいていく。ロランが向かってきたことで、鹿頭は咆哮をあげて槌矛を振り回して一気に攻撃を仕掛けてきた。
凄まじい衝突音と共に大盾に槌矛が激突する。衝突の瞬間、ロランは咄嗟に大盾の下部に備え付けている爪を地面へと食い込ませると、盾ごと薙ぎ倒されるのを防ぐ。
「なんて力だ……」
盾を支える腕が軋む。それでも傭兵として染み付いた修正で槍を相手に向かって繰り出す。防御を考えていなかったようで鹿頭の腕に突き刺さる槍。痛みで鹿頭が咆哮し、怒りのままに槌矛を何度も大盾へと叩きつける。
どうやら体の大きさは驚異だが、知能がそこまで高くないらしい。ほぼ動物と変わらないと言っても良いだろう。しかし激しい攻撃が何度も大盾に加えられ、徐々に地面へと食いこんだ爪ごとロランはジリジリと後ろへと下がっていく。
「あ、こ、このぉ! この盾は業物なんだぞ!」
あまりに激しい衝突音にロランが焦り始める。聖堂戦士団に所属していた時に作ってもらった大盾で、表面から聖堂戦士団の紋章は取り払っているものの何度もロランとその仲間達の命を救った盾なのだ。
しかしお構いなしに何度も大盾に槌矛を叩きつけていく鹿頭の獣魔族。これはもう我慢くらべのようなものだ。
反撃を! と手に持った槍を相手の胴体へと繰り出す。数回の攻防で押し切れないと悟ったのか獣魔族がステップして後退した。
ロランは一息つくと地面へとめり込んだ大盾を抱え直し、相手の様子を観察する。胴体の数カ所と腕に槍による傷ができている、血は流れているが鹿頭はそんなものはお構いなしに怒りで咆哮を上げている状態だ。
ついでに槌矛を振り回して近くにいた他の獣魔族が薙ぎ倒されている。
「どっちの味方だ? あいつは……」
鹿頭の獣魔族がこちらを見る……額の赤い瞳がぎらりと光った気がした。違和感を感じて慌てて大盾の影へと身を隠すロラン。
それと同時に輝く赤い瞳から不可思議な光線が解き放たれた。赤い光線は地面を焼き焦がしながら下から上へと薙ぎ払う。盾の表面に光線がぶつかった時に、強い衝撃を感じてロランは体を沈み込ませて耐える。
「ぐ、ぅうううっ!」
彼の背後にあった石壁の一部が、切断されて音を立てながら崩れ落ちる。そして石壁だけでなく、その背後にあったはずの木製の建物までもが切り裂かれた。
「な、なんだと……」
ロランが盾の表面を見るとそこには焼き焦げたような跡がついていた。そして後ろを見ると崩れた石壁と建物が綺麗に切断され、さらに切断面が燃え焦げて煙をあげているのが見える。自警団が慌てて消火の準備を始めているが、何度もこの光線を放たれると街そのものが火の海になるだろう。
「コロスゥゥゥッ!」
鹿頭の獣魔族が大きく咆哮する。
『あ、しゃべれるんだ』とロランは変な意味で感心するが、相手の意識を街の方へと向けるわけにはいかない。
槍を地面へと突き立て、大盾の裏にかけてある小型の投擲槍を手に持つと鹿頭へと投げつけた。投擲槍は放物線を描いて鹿頭の肩口へと突き刺さる。
「はっ、こっちだ! ウスノロ!」
ロランは槍を再び手に取ると大盾の表面を叩いて挑発する。その音に反応して鹿頭が槌矛を振りかざして突進する。ロランは槍を構えて迎撃の態勢を取る。これだけ大きな相手は片手の突きだけでは倒すことが難しい……相手の力を生かした形で攻撃しなければいけない。
「こい!」
挑発で頭に血が上っているのか、ロランへとまっすぐ突進する鹿頭。ロランは慎重に相手との距離を計算しながら相手の突進を待つ。槌矛を振りかざし、鹿頭が一気に飛びかかってきた瞬間。
ロランは前に大きく踏み出すと大盾を手放し両手で槍を構え直した。そこへ飛び込んできた鹿頭の獣魔族が大きく目を見開いたまま突き刺さる。
自らの自重と勢いで槍が体へとめり込み、血飛沫をあげて背中へと貫通する。悲鳴をあげて何度かもがき槌矛を取り落として苦しむが、ロランは腰に予備として下げていた小剣を引き抜き、鹿頭の額へと突き立てた。
「これでおしまいだ!」
断末魔の悲鳴をあげて、地面へと倒れた鹿頭。突き立てられた槍を足を使って引き抜くと、ロランは額の汗を拭う。
傭兵時代に騎兵対策としてよく練習していた動きだったが、あの瞬間の前進はかなりの恐怖を感じた……ほんの少しだけでも遅れていたら槌矛がロランの顔面を捉えたのだろう。
賭けに勝った……とため息をつく。鹿頭の獣魔族が倒されたことで、及び腰になった他の個体を見ながら、ロランは槍を振るう。
「あとは一体づつ片付けていくだけだな」
_(:3 」∠)_ 個人的に槍がさいつよ
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