112 ゲルト村防衛戦 03
「さあ、かかってきなさい!」
アイヴィー・カスバートソンは師匠であるセプティム・フィネルから受け取ったミスリル鋼製の刺突剣を振るって獣魔族を切り倒している。
三年の間に彼女の剣術は大きく洗練されたものとなっており、デルファイ近郊でも『金髪の剣姫』として名が知られるようになってきている。そしてその異名に相応しいだけの実力を彼女は持っている。
「ガァアアアア!」
「遅いわ……」
羊頭で斧を持った獣魔族がアイヴィーへと攻撃を仕掛ける。単調な攻撃を彼女は難なく避けると、すれ違いざまに刺突剣を羊頭の背中へと突き立てて、引き抜く。血飛沫をあげて倒れる獣魔族。
さらに数頭の獣魔族が武器を片手にアイヴィーへと襲いかかるが、その攻撃をかわして的確に、無慈悲に最小限の動きで急所を切り、貫いて倒していく。
相手との実力差、というものをまざまざと見せられて獣魔族達が尻込みをするように武器を構えたまま後退する。
「フフフ……金髪の剣姫だったか? ここで戦えるとはな……」
アイヴィーが声の方向へと顔を向けると、そこには異形の姿をした生き物が立っていた。上半身は人間の姿だ。筋骨隆々の男性の上半身には申し訳程度の金属製の鎧を着用しており、その手には長剣と円形盾を持っている。異様なのは下半身だ。目は爛々と輝いており、頭髪を半分剃り落とした頭には不気味な刺青が刻まれている。
下半身には甲殻類……蠍のような姿をした複数の足を持ち、鋭く尖った棘を持つ尻尾が生えている。
「蠍人族……」
アイヴィーは目の前の蠍人族へと向き直る。以前クリフとアドリアが話していた混沌の眷属。異形の邪神を信奉し、儀式によって喰らった相手を同族として転生させる怪物だ。
「如何にも……我は蠍人族のダビド。この姿となって数年、ようやく強者と巡り会える幸運を得た」
ダビドは長剣を垂直に立て、騎士風の礼を行う。アイヴィーはその姿を見て、目の前の蠍人族がどこかの国に仕えていた騎士であることを理解した。アイヴィーも刺突剣を垂直に立てて返礼する。
「混沌の眷属に儀礼を知る者がいるとはね……」
「我はこの姿になる前は、西方シャランドラ王国の騎士である。いざ勝負ッ!」
ダビドが蠍の足を蠢かせてアイヴィーへと長剣を振るう。ゴウ! という風切り音とともに力強く速い攻撃が迫り、アイヴィーはステップして距離を取る。そこでこの目の前の蠍人族が騎士であった、という言葉に偽りがないことをアイヴィーは理解した。
西方シャランドラ王国は、騎士の国としても知られた西の強国である。帝国の騎士領の文化の源流となった王国であり、軍事力の大半を専業戦士である騎士団に頼っていると言われている。
騎士団は大小あるものの、最大の騎士団は数万人規模となり、その騎士団による突撃は竜ですら粉砕すると言われている。帝国との小競り合いは古くから続いており、セプティムの出身でもある『帝国騎士領』を帝国が版図に納めた際に一度戦争をしていたはずだ。
アイヴィーは刺突剣を水平に構えて、一気に距離を詰め連続した突きを繰り出す。その攻撃を円形盾を使って受け流し、再び長剣で反撃を繰り出すダビド。その攻撃を刺突剣を使って受け流すと、再びお互いが攻撃の届かない距離へとステップする両名。
電光石火の早技に周りにいる獣魔族も唖然とした顔で傍観する。この二人の間に割り込もうものなら……一刀の元に切り捨てられてしまうだろう。
再び刺突剣を眼前に垂直に立てたアイヴィーは名乗りを上げる。
「私はアイヴィー・カスバートソン。カスバートソン伯爵家の剣士! そして帝国剣聖の弟子である」
ダビドはその名乗りに応えるように、応! と再び礼を返すと一気に長剣を振りかざしてアイヴィーへと踊りかかった。アイヴィーも真紅の眼を輝かせてダビドへと応戦する。
ダビドの戦闘スタイルは剣を攻撃に、盾は防御に使う非常にオーソドックスなスタイルだ。基本に忠実で、剣筋が非常に良くアイヴィーは感嘆する。もしかしたらこの蠍人族は相当に名のある騎士だったのかもしれない、と思った。剣の運び方、薙ぎ払い、突き全てが洗練されており、一撃一撃に殺気が籠っている。
刺突剣を使って相手の剣を払うと間髪入れずに突きを繰り出すが、その必殺の突きも円形盾に阻まれる。受け流しの技法はセプティムもよく使っていたが、それに匹敵するレベルの防御技術だ。
「強いわね……でも」
アイヴィーは刺突剣を振るって一気に手数を増やしていく。ダビドの防御能力は高いが、今までは様子見の単発に近い攻撃のみだった。高速で一気に薙と突きを繰り出し、次第にダビドを後退させていく。嵐のような攻撃にダビドがたまらず盾を弾かれ、尻餅をつく。
目の前に突きつけられる刺突剣を見てダビドが驚愕した顔で切先を見ている。
「……剣の技量では私の敵ではないわ」
「ふっ……強いな流石に……だが」
ダビドの顔が歪んだ笑顔に代わり、アイヴィーがその表情の変化に危険を感じて距離をおこうとしたその瞬間、彼女の太ももに激痛が走る……。
アイヴィーが自分の足を見ると、そこには視界外から迫っていたダビドの尻尾……そしてその先端についている鋭い棘が突き刺さっていた。
「ククク……蠍人族の武器は両手だけではないのだよ……」
「くっ……」
必死に刺さった棘を引き抜き、足から血を流しながらも距離を取るアイヴィー。着地と同時に、視界がぐらりと歪む。
「な、なにこれ……」
傷ついた足から痺れがまわり、ひどい目眩が彼女を襲う。立っていられなくなったアイヴィーは腰を落とす。その姿を見てダビドはニヤリと笑う。
「知らなかったのか? 蠍人族の毒のことを」
_(:3 」∠)_ 殺陣シーンが難しくて毎回四苦八苦しています……。
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