十五話
ルミナは顔を真っ赤にしながら深呼吸をすると、シャロンを真っ直ぐに見て言った。
「ふ、不敬ですよ!もし殿下に知られたら。」
「もちろん、殿下の仮とはいえ婚約者である君を18歳までは愛さない努力はする。ただ、ハッキリ言ってルミナ嬢はとても・・その・・とても可愛らしいから、愛さないのは、無理かもしれないから・・・だから、秘密に思っておくようにする。そのくはいならば許されるだろう?」
「何をいっているのです?!」
「思ったことをそのまま言っている。」
「ちょ、ちょっと待ってください。もし殿下がそのまま私と婚約したらどうするのです?」
あり得ないと分かってはいても、シャロンに言葉を撤回してほしくて口が動く。
「ちゃんとその時には男らしく潔く身を引く。それでいいだろう?」
何がいいのであろうか。
いや、ちょっとまて。
殿下はどうせ私を愛さない。ならば、いいのではないか?
いいのか?
いや、どうなのであろうか。
わけがわからず混乱してくる。
「俺は・・殿下がちゃんと君を愛してくれたなら、それが君にとっては一番の幸せなのだろうと思う。俺も出来る限り、お膳立てはするつもりだ。でも。」
シャロンはそこで言葉を切ると、ルミナの手をそっと握った。
「君が、悲しい思いをするならば、この分、いずれ幸せにしてみせる。」
ルミナの心臓が、とくりと鳴った。
少しずつ、それは大きくなり、ドキドキと胸が脈打つ。
静まれ。
ダメよ。
信じてはダメよ。
どうせ私は誰にも愛してもらえない。
だから。
自分を諌めようとするのに、握られた手から温かさが伝わってくる。
「ダメだろうか。」
首を横には振れなかった。
初めて感じる感覚に抗うことなど出来ない。
「シャロン様は・・愛されないかもしれないことを不安には思いませんの?」
その言葉にシャロンは苦笑を浮かべた。
「そんな不安よりも、ルミナ穣が涙を堪える姿を見る方が不安になる。だから、俺のことは気にしなくていい。」
ルミナは、ダメだと思いながらもシャロンの手を握り返していた。
もう、嫌だったのだ。
愛されずに惨めに婚約破棄される女になるのは。
だから、この優しい手を離せない。
「不安になったら、俺が話を聞く。だから、堪えなくていい。」
止まったはずの涙が流れ、そしてしばらくの間シャロンは何も聞かずに手を握っていてくれた。
花の香りが記憶に残り、初めて、もうループはしたくないと思った。
この、瞬間が、夢のように消えてなくなるのが嫌で、どうか神様、これが最後になりますようにと願わずにはいられなかった。




