表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Future in an oblong box  作者: 鳴海 酒
第2話 ノゾミさん、マニフィコへ
2/91

02-1


 照明がゆっくりと明るさを増し、朝を告げるさわやかな音楽が聞こえてくる。

 暗闇の宇宙(そら)が終わり、約一か月ぶりの朝がやってくる。

 ノゾミ・ランバードは、ゆっくりとカプセル型のベッドから起き上がる。頭はまだ寝ているが、すぐに回復するだろう。それよりも宇宙船の微細な振動の方が問題だ。寝ている間も延々と感じていたせいか、少し酔ったような感覚が続いている。


『おはようございます、ランバード様。間もなく目的地であるメルクリオ第39番惑星、通称マニフィコに到着いたします。

 今回はジェリー・アンド・フランク社のワイルド・ホース・ツアーをご利用いただきまして、誠にありがとうございます』


「はいはい、おはようございますっと」

 人工音声のアナウンスを聞き流し、丸い窓から船外を眺める。ぼんやりと淡く光る、青い星があった。

 地球よりも一回り小さい星だという話は聞いていた。コロニー育ちのノゾミにとっては判断がつかないが、どうでもいいことだ。どうせ酒と同じで、ラベルの違いなんて酔ってしまえばわからないのだから。


 熱いシャワーを浴びると、ようやく目が覚めてくる。

 美しく長い銀髪は、ノゾミの自慢だった。ただ、こういう時はいただけない。背中を刺される不快な感覚を湯で流そうとすると、今度は柔らかな前髪がうざったく顔に絡みついてくる。


 ぐうと腹の虫が鳴いた。軽くふらつくのは、シャワーの熱のせいだけではないだろう。

 風呂上がりに軽い食事を取り、ノゾミは旅の準備に入る。これで最後だと思うと、味気ないジャーキーすら名残惜しかった。


 薄手の黒いインナーに、白いブラウスと茅色のベスト。簡単に髪をまとめると、ヘッドギアを付ける。インカムと小型モニタのついた鉢金だ。腕と脚にはパワードアーマー。見た目は古びた革製の具足。中身は、型落ち品の安物だ。ノットマン・スーツと呼ばれている、冒険者用の基本武装だった。

 肩落ち品と言っても悲観はしない。重要なのは各種マスタリーなどの内部ソフトと、本人の度胸なのだ。


 ノゾミは鏡を舐めるように見た。その格好は派手過ぎも地味過ぎもせず、最低限の基準――現地の人ごみに溶け込めること――をクリアしている。

 口元がにやけるのは隠せなかった。いつだったか、友人のクリスが新しい工具箱を買ったとかで、ピカピカのプライヤ―をにんまりして眺めていたのが思い出される。


 そうこうしているうちに、船は降下予定地点に近づいていく。腰に小ぶりの剣を装着すると、ようやく緊張がノゾミを包んでいく。

 出発前に行った確認を繰り返す。センサの反応も、可動部分の動作も問題ない。大丈夫、きっとやれるわ。声に出して自分を安心させる。


『5分後に降下予定地点上空に到着します。準備が済みましたら、左舷ステップでお待ちください』


 最終通告だ。後戻りのきかない、最後の一歩。

 アーマーの設定を、待機から巡航(クルーズ)へと切り替える。ぶん、と低いうなりが聞こえ、軽い浮遊感が通り過ぎる。各パーツがほんのりと熱を帯びていく。


『ランバード様が降下後、本船はライの海へと向かいます。支援等は緊急時を含めて一切行いませんので、ご了承ください。

 それでは、ランバード様のご武運をお祈りいたしております。オーバー』


 そこまで言うと、船はノゾミを吐き出した。すぐに猛烈な風がノゾミの身体を吹き飛ばす。落ちながら首だけで振り向くと、飛び去っていく船がちらりと目の端に映った。

「行ってきます」

 小さくつぶやき、ノゾミは歯を食いしばり地面に向き直る。


 ぐんぐんと地面が迫ってくる。脚部のパーツにはバーニアが一応ついてはいるが、あくまでもダッシュやジャンプの補助機能だ。降下にはパラシュートを使用する。

 つまり、一度降りてしまえばもう飛べない。今のうちにと、上空からしっかりと地形を把握しておく。


 幸い、さほど複雑な地形ではない。

 眼下にはまばらな草原が広がり、真ん中を川が軽く蛇行しながら流れている。上流は赤い岩山の方へ、下流には街が。

 地図通りだ。まずは川に沿って下り、街へ向かうとしようか。


 パラシュートで滑空しながら降りてきたノゾミは、最後の衝撃をバーニアで殺し、地面に降り立った。パージされたパラシュートは、すぐに白煙を上げ始める。これも現地に痕跡を残さないための仕様だ。


 体がやけに軽く感じる。聞いていた通り重力は小さいようだ。周囲を見回してみるが、過去に行ったことがある星とそう変わった様子はなかった。おそらく、地球とも。

 軽くその場で跳んでみる。力強い駆動とともに、思わず焦るほどの高さへ浮き上がる。


「うわっと、思った以上に体が軽いのね。早めに慣れないと」

 街へと向かう。最初はゆっくりと、徐々にスーツの出力を上げていく。

 踏み出す足が一歩ごとに力を増し、歩幅はだんだんと広くなる。脚部のバーニアがその華奢な体を押し上げ、半ば飛ぶような速度を生み出していく。


 いい気分で跳ね回るノゾミの目に、うっすらと灰色の建物が見え始めていた。おそらく上空から確認した街だろう。


 とそのとき、突然警告のアラームが鳴り響く。


 モニターに映る緑色の矢印の先を追うと、二台の馬車が砂煙を巻き起こして走っているのが見えた。

 拡大して見ると、なんだか様子がおかしい。馬車? いや違う、あれは――。


「もしかして、襲われてるの?」

 二台だと思っていた馬車は、一台と一匹だった。馬車のすぐ後ろを巨大な牛のようなモンスターが追いかけているのだ。

 チョココロネのようなうねる角と立派なたてがみを持つ、漆黒の巨体。モニタにはダークバッファローとの表示。

 わずかに馬車の速度のほうが早いようだが、追いつかれるのも時間の問題だろう。


「着いてすぐに実戦なんて、なかなかツイてるじゃない」

 本来は小型のモンスターを相手に、慣らし運転をすべきなのだろう。でも、緊急事態なら仕方ない。

 不幸な御者に感謝して、うっすらと笑みがこぼれる。


 進行方向を変えると、ノットマン・スーツのギアを巡航(クルーズ)から戦闘(バトル)モードへと切り替える。

 閃光弾のカートリッジを取り出し、ガントレットにセット。接近しながらタイミングを計り、ロック。――発砲。


 炸裂する白い光と、ギャウンっと醜い鳴き声が一つ。巨体はよろめくと、突き進む勢いはそのままに、進路だけが大きくぶれた。


 ノゾミは腰の剣を抜くと、半ば体当たりをするように、首元に刃を突き立てた。

 ずぶりと肉に埋まる剣をひねり、切り上げる。柄を腕ごと持って行かれそうな感覚に襲われる。

 さすがにこの太い首を両断とはいかないが、転倒でもしてくれれば御の字だ。

 モンスターは突然の衝撃に混乱し、首を振り回して異物を振りほどこうとする。ノゾミは逆らわずに素直に飛び退くと、そのまま馬車とモンスターの間に入り、仁王立ちで剣を構えた。


 モンスターは身を震わせてしばらくノゾミを睨んでいたが、結局、ふらつきながらも平原へと消えていった。首からは黒っぽい血がダラダラと流れ出していた。


 ノゾミは少しだけほっとした。

 結果だけ見れば、初戦の出来としては上等だろう。

 しかし馬車より一回り大きな体躯を前にすると、自分が構えている剣がやけに細く見えたのだ。


 敵が十分に離れたのを確認すると、馬車の様子を確認する。

 少し離れたところで、中年男性が馬を落ち着かせていた。甲高いいななきが聞こえた。閃光弾で驚かせてしまったかと心配する。


「大丈夫でしたか? 襲われていたようだったので、勝手に割り込ませてもらいましたけど」

 ノゾミは控えめに声をかけた。

「なんとか無事だよ。助かった、本当にありがとう。

 しかしお嬢さん、若いのにすごい腕だね。冒険者の知り合いは何人もいるけど、こんな鮮やかな手並みのやつはなかなかいないよ」

「いえ、そんな。たいしたことありませんよ」

 平静を装い謙遜するノゾミだったが、口元がゆるむのだけはどうしても我慢ができなかった。


 冒険者。その単語だけで鼓動は早まる。知り合いがいるということは、おそらくこの先の街には冒険者が集まる場所――ギルドもあるはずだ。


「あのー、おじさま。私、冒険者志望で田舎から出てきたばかりなんですけど、ツテもなにもないんです。良かったら、ギルドや街について案内してもらえませんか?」

 ノゾミは出来る限り純朴そうに言った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 空からやってきた痕跡をなるべく少なくして、その星に馴染もうとする感じがあるものの、この星に参加者が増えるにつれて、ちょっとずつその事実自体は知られてしまいそうですね。 今回も結構、人が…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ