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異世界はバラ色に  作者: 里中 圭
第4章 北の遺跡編
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第2話 マインドボール

 朝、目を覚ますとみんなはすでに起きていた。名前の重圧で眠れなかったみたいだが、1晩くらい寝なくても若さで乗り切れるみたいだ。武器や防具の手入れをし気合いがみなぎっている。アルトが近づいてきてキスをする。

「おはようございます。朝食の準備はできています。どうぞお食べ下さい」

セシリアが、

「今日は、ご主人様が王宮に行っている間、5人で狼を狩りに行こうと思います」

リーナも、

「冒険者が減って狼が増えているらしいので行ってきます。この辺で、一番強いのはレッドウルフくらいだからね。レッドウルフは滅多にいないみたいだけど」

ナナが思わせぶりに言った。

「ナウラ姉さんは仕事に行ってるにゃん、お昼はどっかで食べて下さいね」


 朝食を食べて、王宮に向かう。門番が武器を預かろうとするので、Aランクのギルドカードを見せる。門番は、

「黒龍の牙、Aランクになられたのですね。失礼いたしました」

と平伏する。

「いや、顔を上げて下さい。そこまでする必要は無いですよ」

いやいや、なんか急に偉くなったみたいでこっちが戸惑ってしまう。昨日のうちに王宮の水晶でギルドカードにパーティー名が入れられている。今までの白色のカードから赤色のカードに変わって、銀色で『A』、黒色で『黒龍の牙』の文字が入っている。カードの色はBランク以上になると拠点の国の色、メルカーディア王国は赤色、プエルモント教国は黄色、ルグアイ王国は緑色になる。ランクの文字はAとBが銀色、S以上が金色で書かれる。パーティー名は黒色で入れられるそうだ。


 アラスティア様の部屋を訪ね、門での出来事を話すと、

「Aランクは貴族扱いだからな。それに王が認めたパーティーだ。当然それくらいのことにはなる」

「でも、どうして僕たち以上のパーティーなのに、アラスティア様たちは『紅バラの剣』なのですか。王様から名前をもらう機会なんていくらでもあったでしょうに」

「『紅龍の剣』というのを付けられそうになったことはある。もちろん辞退して、『紅バラの剣』にしてもらった。『龍』を名乗るのは恥ずかしくてね」

「えっ、辞退できたんですか。まあ、『龍』の持つ意味も分かって無かったのですが」

「名前をもらってくれて有り難く思っているよ。俺たちは辞退したことを王に申し訳なく思っていたからね、弟子たちがもらってくれて肩の荷が下りた」

と笑っている。さらに、

「これからは貴族扱いされるのにも慣れておけよ。まあ、シェリルとリーナがいるから問題ないとは思うけどな。じゃあ、練兵所に行こう」


 練兵所に着くと、塀で囲まれた縦30m、横20mくらいのところに入って行った。部屋の中には色とりどりの素焼きの壺が置いてある。その中心に、体の丈夫そうな赤い首輪をつけた奴隷が1人待っていた。塀の周りは見学用のベンチが置いてあり、そこで10人の兵士が見ている。

「こいつは犯罪奴隷でレベルは12だ。実験台になるなら奴隷の期間が半分になると言ってある。文献を調べてもマインドボールでの錯乱は3分程度だし、よほどレベルが低くないと死なないようだから、それほど心配はしていない」

「良いんですか、ほんとに」

「とりあえず1発だけな。それを見て、兵士らにもかけてもらうかもしれない」


 アラスティア様はそう言って僕に近寄り小声で、

「白い壺だけを割らせてみろ」

と言われた。僕はその思念をのせて、

「マインドボール」

を放つ。マインドボールが当たると奴隷はダメージを受け膝を地面に付けた。そして数十個ある壺の中から白い壺だけを抱え、力いっぱい地面に叩きつけ割っていった。白い壺を割り終わると立ったまま動かなくなった。約3分後、再びがっくりと膝をついた。


「成功だな、言葉が通じれば敵を操ることができる」

「そうですね」

奴隷を治療して仕事場に戻し、次の実験に入った。奴隷よりもレベルが高い兵士たちにマインドボールを試していく。ダメージの量を測定したり、指示する内容がどこまで増やせるのかなどをいろいろ試した。


 ダメージは少ないが、3分間くらい簡単な命令を聞かせることができる。命令は2つまで、例えば『Aを破壊しながらBを持ってこい』くらいなら伝えることができるようだ。それ以上複雑だと単に錯乱してしまうだけのようだ。

「おそろしい魔法だな」

とアラスティア様が言う。僕もそう思った。


 王宮を出て、屋台で昼食を食べ、スウェードルさんの店に向かう。スウェードルさんが出て来て、

「『黒龍の牙』、襲名おめでとうございます」

と言った。イバダンさんも、

「凄いなお前たちは、まだみんな1年も経っていないんだろう冒険者になって」

と言う。

「からかわないで下さい。実力はそれ程じゃないって知っているくせに」

「いやいや、実力も大したもんだ。リトルサラマンダーを倒したんだぞ」

いかん、何を言っても無駄みたいだ。半分以上はからかわれているんだろうと思う。


「今日は、北の遺跡までのルートを相談しに来ました」

と言うと、スウェードルさんは急にまじめな顔になった。それを見ると、やっぱりからかってたんだ、ということが分かる。

「北の遺跡ですか、ルグアイ方面から行きますか、教国方面から行きますか」

「そうですね。ルグアイ王国には行ったことがないので、そちらの方から行ってみたいと思います」

「ルグアイに進むにも2通りルートがあります。東の草原を行くか、山脈に入っていくか、です」

「東の草原ですか、それなら馬車で進めますね」

「いや、草原というより沼地なんです。広く大きな草原地帯に見えますが、所々に沼が広がっています」

「山脈と草原の境目を行くとか」

イバダンさんも通ったことがあるらしい、さすがは流浪のドワーフ。

「無理だろうな。ルグアイとの国境付近は山脈まで沼が広がっている。歩いてなら沼を避けながら進むのは難しくないんだが、迷路を行くみたいジグザクに進んでいく必要がある、魔物が少ないので安全なんだがな。ただ、進むのには時間がかかる」

「じゃあ、お勧めは山脈ですね」

「そうですね。Aクラスの冒険者ですからね、あなた方は」

と、またスウェードルさんは、からかい顔になった、

「山脈を越えてルグアイ王国に入り、街道を北へ進むと王都のカラプナルに着きます。問題は山脈の魔物です。熊や狼が多いですし、地竜も出ることがあります」

「地竜ですか、それなら何とかなると思います。ナナが土の加護を使えますから」

「では、そのルートでカラプナルまで行き、可能な限り北へ行ってトレーヴ山脈に入り北に向かいます。北の遺跡は山脈の北の端にあると言われています」

「そのルートで行くことになりそうですね」

「カラプナルから北は寒いです。それも山に入りますから十分な装備を準備しておいて下さい」

どうやら僕を相手の営業が始まったようだ。

「ありがとうございました。みんなと相談してまた来ます」

と言って店を出た。


 その後、第3近衛隊の詰め所に行き、ザリアさんを呼び出してもらい、マインドボールの実験結果を伝えた。

「やはり、心をコントロールできるんですね。思ったとおりだ」

と喜んでいた。やることも無くなり、家に帰ることにする。


 夕方には、みんなが帰ってきた。黒色狼、灰色狼を100匹ほど狩ったとのことだ。

「このところ、移動や王宮での報告ばっかりだったんで、体を動かすのは快感だったよね」

とシェリルがはしゃいでいる。シェリルでも王宮では緊張してたんだなと思った。マインドボールのことを話し、北の遺跡へのルートの検討をした。


 リーナが、

「山脈越えしかないみたいね」

「そうだね。ルグアイの街道も乗合馬車は発達しているらしいから、街道に出ればカラプナルまでは一気に行けるそうだ」

「山脈越えかあ、もうすぐ雨期に入るから、出発は豊穣祭の後だね」

とセシリアが言う。

「じゃあ出発は鳥の2日、18日後だね。北の山は相当寒いらしいからしっかり準備をしよう」


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