第5話 森の奥へ
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カーラは、下生えの無い森を見て呟いた。
「下生えがない、藪もない、土と砂だけ」
もちろん森であり木々は大きく育っている。本来なら草も生え藪が有り鉈で刈りながら進んでいくはずなのに平坦な砂混じりの土。
本当に見たままの森なんだろうか。そう言えば、サトシから聞いたことがある、ミミックツリーのことを。不用意に近づくと襲われるかもしれない。
「ウインドカッター、ウインドカッター、ウインドカッター」
と風の刃を木々にぶつける。木には大きく傷が入ったが動き出す気配はない。ならば、
「ウインドカッター、ウインドカッター、ウインドカッター」
と地面のあちらこちらに風の刃をぶつけてみる。地面が刳れただけで動きはない。思い過ごしだったようだ。
奥に行き木々を確かめると地面の側には無数の小さな傷が付いていることが分かる。大きい傷は先ほどのウインドカッターによる物だけだった。斜め後ろには木々の間から遠くに海も見える。考えても分からないので、とりあえず戻ることにする。
拠点に戻るとスリンも戻っていた。皆で蟹をさばき、料理をしているところだった。
「その蟹仕留めたの?」
「海から戻る途中でね、殻が鍋や食器に使えてちょうど良かったみたい。焼いても茹でてもおいしいよ」
「じゃあ、先に食べよう」
食事を終えてカーラは調査の報告を始める。
「この先しばらく行くと、木々は背が高く葉は生い茂っているのに下生えも藪も無くなります。普通に走れるくらい平らできちんと均されているみたいに。こちら側には藪もあるけれど、右後ろは海が見えるくらいでした。魔物は見かけず。鳥の鳴き声はするけれど姿は確認できませんでした。虫除けの指輪があれば虫もよってこないし、奥に進むのは容易な感じがしました。ただ、奥から魔物が襲ってきたら遮るものは有りません」
「食料は?」
「果実は見つけることができませんでした。もっと奥に行けば有るかもしれません、明日はもっと奥に行こうと思います。スリンの方は?」
「海はちょうど引き潮でした。引き潮で砂浜が大きく広がると砂から蟹やフナムシなんかが湧き出てきて、バフーサムが襲われた時を思い出してしまいました。幸い青大蟹は出てこなかったので観察する余裕が有りましたが、蟹たちは砂浜に残した魔物の残骸に群がって行ったので、砂浜から離れることができました。潮が引いてからすぐに満ちてきたので魔物達はまた砂に潜って行ったようです。小さな満ち引きで助かりました。帰る途中にはぐれた蟹を見つけたので持ち帰ったしだいです」
アメリアがいきなり立ち上がって言った。
「これとそっくりな蟹をルグアイで見たことがあります」
「食べられるよね」
「はい、お祭りのときにみんなで食べました」
スリンはほっとした様子で、
「じゃあ、安心ね」
「でも、そのお祭りというのが蟹渡りの祭りで、沼地の奥から水竜のいる大沼まで一斉に多くの蟹が渡ってくるのです。その渡った後の地面が土や砂がむき出しで、ちょうど此処みたいになっているんです。私は渡りは見たことが無いんですが、新年の祈りを捧に行ったときに水竜の沼の奥に行ったことがあるんです」
「ここと同じ地面だったってことね」
「こんなに広くはなくて、大きな道ができているなって感じでした」
「もし、小さい満ち引きではなくて大潮のときはこの辺りは蟹で一杯になるかもしれないってことよね」
スリンはクラリスのほうに向かって、
「どうしましょう。すぐに移動しますか」
「そうね。動かないわけにはいかないようね。でも、満ち引きは短時間に何回も起こるものではないはずです。とりあえず食事をとってから移動しましょう」
蟹はとても美味しかったのだが、味わう余裕はあまりなく海のほうをちらちら見ながら食事を終えた。
「奥に行きましょう。ここではゆっくり休めないわ」
クラリスが言うと、カーラも
「そうですね。地面が変わるところまで移動しましょう。距離はあるでしょうけど地面は平らだし障害物もないから」
カーラは立ち上がると、
「スリン、先行して。キリス、リボンをセットして。さあ、奥に行きます。どのくらい距離があるか分かりませんが時間の余裕もどれくらい有るかわからないので、少し早いペースで歩きます。疲れてついていけなくなったらクラリスさんに言ってください」
そう言って、出発した。
しばらく歩くと藪がなくなり、大きな木々だけの不思議な空間に出た。キリスが、
「木々に新しい傷が有りますね」
とつぶやく。カーラが、
「あれは私が付けたもの。ミミックツリーの話を聞いていたので不安だったから」
「じゃあ、擬態ではないのですね。あっ、奥の木の根元に何かいます、魔物でしょうか?」
「アメリア、分かる?」
「ヤシガニかもしれません。渡っていく蟹を捕まえて食べるんだそうです。力が強く危険な蟹らしいです」
「あれって食べれるの?」
「ものすごく美味しいんだそうです。でも消化管に毒があって、ちゃんと料理しないと危険だと聞いたことがあります」
「美味しいのかあ、でも、とりあえずパスだね」
そのまま、半日も歩いただろうか。あたりが暗くなってきた。蟹の残りと非常食を少し食べ、休むことにした。
「キリス、デボラ、結界を張って」
「結界は集団で来られたら意味ないよ。はぐれなら大丈夫だけど」
「分かってる。交代で2人ずつ見張りをするよ。海のほう中心にね」
王妃が手を上げて、
「じゃあ、私とクラリスが最初で」
「王妃、良いのですか」
「私だけ何もしないのはね」
「ありがとうございます。じゃあ2時間くらいしたら起こしてください。デボラとアメリアが次ね。その次がキリスとフェニーネ、最後がジネットとルイーズで、私とスリンで食べ物を探してきます。キリス、海がざわついたらすぐに逃げて」
「分かった」
カーラとスリンは、俊足を使い森の奥に走った。しばらく走ると藪が現われ、地面に草も生えてきた。背の高い木も無くなり、月明りでぼんやりだがあたりを見渡せるようになった、草原だ。草原には実のなる木がところどころに密集するように生えていた。




