第4話 引き潮
カーラはきっぱりという。
「必ず門は開きます。三つのうち二つの門はコントロールできるのです。西の門も何とかしてくれるはずです、祠に開け方が書いてあるかもしれないし」
「どれくらいかかると思う?」
「いろいろなパターンが考えられますが、不安定なまま門が開く場合。今日、明日にも開くかもしれない。サトシが開けてくれる場合、シャイアス大陸にいるサトシが南の門を通って、この事件を知ってどう動くかですね。西の門の祠に直行すれば少し早くなるし、北の門へ行き閉めてから西の門に向かった場合。最低で1ヶ月、長かったら3ヶ月くらいかかると思う。それでうまくいけば良いのだけれど、だめだったら、それ以上かかるでしょう。3ヶ月を目途に頑張りましょう」
帰れるという嬉しい情報と1ヶ月以上かかるという不安が辺りを取り巻く。あたりは真昼なのであろう。真上から木漏れ日が射してくる。ときどき獣や鳥の鳴き声が遠くから聞こえる。キリスが、
「とりあえず、この辺りに拠点を築けるかどうか調べてみましょう。食料も調達しなくてはいけないし。カーラ、どうする?」
「そうね、じゃあキリスは残って守備をお願い。私は奥に行ってみる。スリンは海岸を調べてみて」
「分かりました。海岸から此処までの道しるべを残しておきたいのですが、クラリスさん、赤と白の布は有りますか?」
「無いことは無いのですが、何に使うのですか」
「近衛隊の道しるべで『赤は曲がる白は真っ直ぐ』というのが有ります。それに使いたいのです」
「私のドレスを使いなさい。赤も白も有るでしょう」
「王妃様、本当によろしいのですか?」
「出し惜しみして死んだら元も子もありません。必要ならまた作ればいいのです」
「ありがとうございます。では」
そういってクラリスは豪奢な真っ赤なドレスを取り出す。その後に白いタオルを出した。
「白もドレスにしなさい。タオルはいろいろと使えるでしょう。ドレスの布で体を拭くのはいやですよ」
「かしこまりました」
といってタオルを収納し、白いドレスを出す。王妃の式典用のドレスである。これも豪華でいくらするのだろうというような物だった。
「こ、これを切り刻んでもいいのですか?」
スリンは、震える声で言った。心なしか青ざめているようだ。
「必要なのでしょう」
カーラは、意を決したようにナイフを取り出し裾の方を切る。
「あっ!」
とクラリスが声を出したが思いとどまったように、
「少しでも傷が入ればもう価値はありません。布は遠慮無く切り刻みなさい。でも付いている宝石は傷つけないで」
カーラ、スリン、キリスが次々と細くリボン状に切り裂いていく。それを見たクラリスもナイフを出して赤いドレスを切り裂いていく。
あっという間に数本のリボンができた。
ルイーズは携帯用の裁縫箱からハサミを出して宝石を外しながら、
「カーラ様と、スリン様は調査に行って下さい。後は私たちがやっておきます」
「様付けはやめて、じゃあスリン、海の方お願いね」
そう言いながらカーラは森の奥に向かって走り出した。スリンも海へ向かう。
カーラは辺りを観察しながら奥へ向かう。虫除けの指輪で避けられない危険な虫はいないようだ。しばらく行くと藪が無くなり下生えのない森の中にいた。空は見られないが見通しは良いという不思議な空間にでた。
スリンは目印のリボンを付けながら海へ向かう。実のなる木はこの辺りには無いようだ。あらためて辺りを見わたすと迷路のように低い藪が有り、背の高い木々が多い被さっている。土はむき出しになり、日が当たらないためか少し湿っているように感じる。進んでいくと海が見えた。
「砂浜が広くなっている。海が引いているのかな」
海が無い所で育ったとはいえ一応の知識は持っている。月が三つ有るこの世界は干満を予測するのは非常に難しいと言われている。正面と右側は砂浜、左側100mくらいから岩場になっている。とりあえず神の門の所まで行こうと潮が引いた砂浜を走る。
「この辺りだよね」
と呟いたその時、岩場の方から蟹の化け物が見えた。青大蟹では無いがそこそこ大きい。フナムシだろうか黒い固まりが湧き出ているのも見える。いやな予感がした背筋が凍るほどに。そして陸に向かって思いっきり走り出した。砂浜のあちらこちらに穴が開いていく、開いた穴から貝が飛び出したり、蟹が這い出てくる。加速を使い何とか交わしていく。やっとの思いで砂浜を抜けた。少しでも迷っていたら死んでいたかもしれない。
海の魔物たちは先の戦いで倒した海岸の魔物の死骸に群がっていく。死骸にありつけなかった小さな蟹が草地にいる私の所まで来ようとしている。もう少し戻ろう。蟹を見ながら少しずつ拠点の方へ進んでいく。はぐれた蟹が森の中に入ってきているのが見える。とりあえず一匹の蟹を倒し、戻ることにする。1mくらいの小さな蟹を見つけウインドカッターでハサミを飛ばしてからとどめを刺す。身体強化を使い拠点まで引きずっていく。途中で蟹に遭遇するが、蟹は慌てているようにこちらを無視して海に向かっている。もう、潮が満ちて来るのだろうか。確認したいとは思ったが、今は報告する方が先だと思い急ぎ戻ることにした。
外伝にしたほうが良かったかな・・・。




