第11話 生活魔法2
残念なことに携帯を持ってきていない。もちろん圏外だし充電もできないけど写真撮りたかったなあ、出会ったときの3人、いや今のも欲しい。どうせあんまりかかってこないからコンビニくらいなら家に置いていくよな。とか考えていると、セシリアの準備ができたようだ。
街を出る。しばらくはセシリアと同じ方向だ。北に向かう、同じ山の麓に着き、そこで分かれた。セシリアは林の中へ、僕は岩場のほうへ。レベル9になったのでポイントが7になっているはずだ。
ステータスを見てみる。
サトシ・ヒライ
人族 男 15才
レベル 9(経験値 256)
職業 冒険者F
属性 無
HP 59/59
MP 19/19
力 16
敏捷性 17
持久力 16
知力 19
魔法 生活魔法1
特殊能力 鑑定、翻訳1(大陸共通語のみ)、遠距離操作
ポイント 7P
所有奴隷 セシリア(エルフ)
取得可能魔法
生活魔法2(フリーズ、クリーン)/6P
取得可能特殊能力
特殊能力<レア>
翻訳2(1言語ごとに)/2P
以上
やはり取れる魔法は増えていない。生活魔法2を選ぶ。この国は温暖なところにあるらしく冬は暖かいが、夏はかなり暑いらしい。氷が作れると過ごしやすいはずだ。この生活魔法2はレアっぽいとセシリアが言っていた。獲得ポイントが6なので、冒険者なら攻撃魔法を選ぶはずで、攻撃魔法が使えない人は、レベル上げができなくて、なかなか取れないらしい。
残ったポイントは、HPかMPに割り振れる。能力値には振れないそうだ。奇数のポイントはもう必要ないのでMPに振っておく。これでMPは20になった。
敵はオオトカゲだ。は虫類だ。変温動物だ。体を冷やしてやれば動きは極端に鈍くなるはずだ。それが狙いだ。水をかけ凍らせる。それで動きは止まらないだろうが体温は下げられるだろう。「フリーズ」もMP1の消費だから、遠距離操作と合わせて2、「ウォーター」「フリーズ」合わせて4。MP20あるので5回使える。
岩場に着くと、大きな岩の上にオオトカゲがいた。体を干して温めているんだろう、じっとしている。体長は2m程、獰猛そうだ。後ろから7mくらいまで近づき、なんかこればっかりだな、野球のボールくらいの石を頭を狙って投げる。当たった。オオトカゲは岩から降りて日陰の窪地に飛び降り、警戒し、あたりを見回している。「ウォーター」「フリーズ」で頭の後ろあたりに水をかけ凍らせる。首のあたりが白い氷で覆われた、うまくいった。さらに、背中、再び、首と凍らせていく。トカゲは体をくねらせ氷を振り払おうとするが、全部は取れない。あたりを警戒しているトカゲは動かない、心なしか動きが鈍くなっているように思われる。勝負はこれからだ。
よし、仕上げにかかろう。トカゲの前に姿を現す。動きの鈍ったトカゲは、それでも威嚇しようと口を大きく開ける、できるだけ喉の奥に向かって「ウォーター」「フリーズ」を2回連続発動。決まった。トカゲは僕のことは忘れたみたいに喉の奥の氷を吐き出そうと大きく口を開けて苦しんでいる。氷ごと押し込むように口から槍を思いっきり突き刺す。トカゲは動かなくなった。
「死んだみたいですね」
後ろから声がかかる。ビックリして振り向くと40才くらいの商人らしき男が立っていた。やや後方には、背が低い男、ドワーフかな、が立っている。
「そのオオトカゲ、私に売ってください。傷ついていないオオトカゲの皮の完全体は、使い道がいろいろとありますので、相場で引き取らせていただきます、金貨1枚でいかがですか」
「内臓とかは、ぐちゃぐちゃかもしれませんよ。それに討伐証明部位の牙は渡せません」
「内臓には価値がないので、問題ありません。欲しいのは皮だけなので牙はいりません」
「じゃあ、良いですよ」
「牙はこちらで抜きます、申し遅れました、私はスウェードルという商人です。店はタンガラーダの工房通りの真ん中あたりにあります。こちらは当店の鍛冶師、イバダンです。ではイバダン、牙を抜いてください」
イバダンさんは表情を変えないまま、トカゲの両牙を抜く。スウェードルさんは、こちらを向き、
「面白い戦い方でした。ああいう方法は初めて見ました」
「運が良かっただけです。やり方も卑怯な方法ですし」
「私は面白く見せていただきました。素材を売るときや装備が必要なときは私の店をご利用ください。安くなるとは限りませんが、騙すようなこともありませんので」
スウェードルさんから金貨を、イバダンさんから牙を受け取り、別れを告げる。イバダンさんは手際よくオオトカゲの皮をはぎ取っている。あまりにも見事に剥いでいくので思わず見入ってしまった。
みんなが待っているだろうし、セシリアのことも気にかかるので帰ることにした。麓までくるとセシリアが待っていた。
セシリアは、全身に血を浴びている。足下には討伐部位である熊の右手が置いてある。熊の皮に包んだ肉もあるようだ。
「ご主人様、いかがでしたか」
「ああ、うまくいった、セシリアこっちへ来て、・・・、もっとくっついて」
セシリアは顔を真っ赤にして目をつぶった。僕はセシリアの両肩に手をかけて、
「クリーン」
返り血で汚れていたセシリアの顔も、革の鎧もきれいになった。初めて使ったけど『クリーン』は広範囲でいけるんだな。そのまま、抱きしめる。
「生活のめどが立ったね、帰ろう」
セシリアは、きれいになった鎧を見てビックリしたが、これが生活魔法2ですか、便利ですね。洗濯もしなくて良いし、と喜んでいた。
『クリーン』は範囲によって消費MPが変わるらしい。そのあと僕の槍の穂先にかけたときには1しか減らなかったのに、装備含めてセシリア1人分だと5も消費した。安全なところでしか使わないからどれだけ消費しても構わないけど。
帰りは、出会った商人スウェードルさんのこと、皮を売ったこと等を話ながら歩いた。まるでデートだ。皮の値段は相場らしく、騙されてはいないようだ。火の杖は、あと金貨1,2枚は何とかなったと怒られた。街に着き、冒険者ギルドに行き終了報告をする。予定より多い、銀貨43枚と銅貨20枚を受け取る。多かったのは熊の肉の値段だ。やはり奴隷には渡さないようだ。
隣のカウンターでは、レベルの高そうな竜人族の男が終了報告をしている。カウンターの中をよく見ると猫耳の女性もいる、おっファンタジーだ。人と目を合わせたくなくて他人をあまり見ていなかったから今まで気づかなかったのかな。
竜人族の冒険者はお金を受け取っていない。なぜだかセシリアに聞いてみると、金貨以上の報酬は、魔素にしてカードに貯金するのだそうだ。大きい店では魔素で支払うことも出来るらしい。
「光の森の泉亭」に帰ると、夕食の時間になっていた。
「一緒に帰ってきたんですね、それにしても全く汚れてないけど、失敗したんですか?」
アルトは、カーラと2人で洗濯しようと意気込んでいたらしい。何か気が抜けたような表情だ。
「いや、2人とも成功した。生活魔法2を取得したから。はい、これが報酬、預かっといて」
とお金を入れた袋を差し出すと、
「だめです、できるだけ分散して持っていたほうが良いと思います」
しかたなく、持っておくことにした。早く金貨以上の報酬を受け取るようになり、カード払いにしたいなと思った。
効果的な攻撃だったけど、まだまだ必殺技ではないな。セシリアと2人で攻めるほうがやりやすいかもしれない。2対1ならいろいろと攪乱できるし。
部屋は2人部屋2つで部屋割りは、僕とセシリア、アルトとカーラだ。
「ご飯食べに行こっ」
とカーラが呼びに来たので、食堂に降りていった。
今日6月9日は、メルカーディア王国でいうと、犬の10日緑月日にあたります。




