第20話 鳴動
リーナがシェリルに聞いた。
「結婚して公爵になるのは聞いていたけど王位継承権はどうなったの」
「今はまだそのままよ、第2位。第3位の叔父のドーソン公爵はいい人だけど高齢だし国を治める器かどうか分からないと言っていたわ。アドリアナに子供ができたらすぐに王位継承権を返上することを認めるんだって」
「そうなんだ」
「それでサマルカン大陸にはいつ行くの」
「早いほうが良いわ。雨期だし、家でじっとしているのはうんざりよ」
とリーナ、
「サトシ、いつからにする」
とシェリルが聞く。
「いつでも良いよ」
と答える。すかさずセシリアが、
「じゃあ明日、明日は無理か、じゃあ明後日出発しましょう」
という。そんなに早くと思ったけどいつでも良いと言ったこともあり了承するしかなかった。
◇ ◇ ◇
ルグアイ王国、ヴァンデル。教皇は教皇騎士団の精鋭を集めていた。美少女に付き従う5人の屈強な騎士たち、そういう光景である。教皇はもう就任して20年以上は経つはずであるが見た目には15歳くらいにしか見えない。
「水竜が倒されたそうだな」
「はい、『黒龍の牙』という若いパーティーだそうです」
「そのパーティーだけで倒したのか」
「手伝ったのはわが国のパーティーです。最近は『緑鰐の牙』と名乗っているそうです」
「妾よりも強いのかその者たちは」
「いえ、Bランクのパーティーだそうです」
「手伝った方ではない。その『黒龍の牙』のほうだ」
「かなり強いと思われます、教皇様と同じくらいには。Sランクですから」
「そうか、じゃあ水竜の島に視察に行くぞ。何かつかめるかもしれん」
「教皇様が自ら行かれるのですか」
「そうじゃ」
「では、いつもの5人でお供いたします」
教皇は水色の瞳、水色の長い髪に水色の法衣を着ている。法衣の裾は短く動きやすくなっている。マントがなければ目のやり場に困るほどだ。マントもまた水色だった。手には水竜の宝石が付いた長い杖を持っている。供の5人は軽い金属でできたプレートの鎧、その胴にはヴァンデル教の印が付いている。武器はハルバード、戦斧、両手剣、片手剣と盾、双剣とそれぞれだ。
馬に乗り水竜の島を目指す。昼過ぎには湖に着いた。
「教皇様、邪魔が入ったようです」
「教皇と呼ぶな。ヴァンデルを出たらルナと呼べと言ったろ」
「せめてルナミュケット様と」
「だめだ、ルナだけだ」
「どれくらいいる」
「ざっと50人ほど」
「そうか、じゃあ頼むな」
そう言いながら後方を向き、
「そこにいるのは分かっている。相手をしてやるから出てこい」
と叫んだ、ルナたちを付けていた山賊たちが出てくる。ルナがウォーターストームを放つ。水竜の杖を通したウォーターストームは激しい嵐となり山賊たちを襲った。5人の騎士たちが駆け込み山賊たちを蹴散らした。
◇ ◇ ◇
シャイアス大陸、竜人族の国アルヘンティーノ。国王は国軍を集めていた。およそ2万の軍勢である。
「これより2つの聖なる森の調査を開始する。第1師団はアルヘンの森に第2師団はサンセベの森を調査せよ。有効資材は全て持ち帰ること」
2万の軍勢は北と南に別れて進んでいった。
第1師団はアルヘンの岩山を上り、聖なる森と呼ばれる地域に入った。入るとすぐにゴブリンやオークの集団と戦闘になった。力があり戦闘訓練を受けている竜人族たちは順調にゴブリンたちを倒していく。そこに左手からウインドカッターが襲ってきた。マンティスと呼ばれるカマキリの魔物の集団だ。鎌を振る度にウインドカッターか飛ぶ。第1師団は盾で応じる。盾が左に向いたところにオークたちが棍棒を振り下ろす。隊形は乱れ混乱に陥る。騒ぎを聞きつけたレッドボアがファイアーストームを起こしながら3頭突っ込んできた。第1師団長はやむなく退却を命じた。大した成果もなく死傷者は300にも及んだ。
第2師団はサンセベの森に到着した。ゆっくりと隊列を崩さずに進んでいく。ゴブリンと遭遇する。先鋒を受け持つ一団が突出する。上からウォーターボールが来る、水猿だ。突出した一団はウォーターボールを盾で防ぎ後退する。弓隊が一斉に水猿を攻撃する。魔物たちからの第1派の攻撃をからくも避けることができた。兵士たちは森の奥に進んでいった。
◇ ◇ ◇
僕はアルトに聞いた。
「今回はどれくらい食料を持って行くの」
「食料は現地でも調達できるでしょうから多くはいらないかもしれません。でも何が起きるか分かりませんので肉以外は2か月分は持って行きますけど、もっと必要ですか」
「肉は現地調達しなけりゃいけないんだね」
「リトルサラマンダーを1匹倒せば十分なんですけど」
アルトまでそういうことを言うんだと僕は思った。
そうして僕たちは出発した。今回は昼食後の出発になった。辺りが暗くなったころ砂漠の冒険者村に着いた。そこでロチャたちと別れた。そのまま砂漠に入る。
「何組か付いてきますね」
「夜だったら大丈夫と思ったんだけどな」
「物好きがいるのよね」
「付いてきても何にもならないのにね」
「じゃあ、私が残るから加速かけて先に進んで」
そうシェリルは言って振り返る。付いてきた冒険者たちは1人残ったのを見て立ち止まっている。僕たちは先を急ぐ。しばらくしてシェリルが神速を使い冒険者たちを振り切る。神速を暗い中でやられると消えたようにしか見えないんだ。
それから順調に進む。途中で冒険者パーティーとも出会ったが、さすがに砂漠の奥まで進める実力のあるパーティーは礼儀をわきまえているのか、僕たちの力を考えて付いて行けないことが分かるのか、付けてくることはなかった。スコルピオンやクモ系、トカゲ系の魔物を倒しながら進む。ワームは小物ばかりしか出てこなかった。
砂漠に入って3日目にオアシスに着いた。オアシスにはメルカーディア国軍が駐屯していた。僕たちが入ると大歓迎だった。みんないろんな話を聞きたがった。特にマリリアの様子やアドリアナ王女の結婚の話を聞きたがった。おもしろおかしく話すリーナを中心に夜遅くまで宴会が続いた。
次の日に神の門を開け、サマルカン大陸に入った。




