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どうやら俺は最強らしい ~都会の魔物が弱すぎて、美少女たちから頼られるようになりました~  作者: 絢乃


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007 入学式と再会

 翌朝。

 俺は新品のブレザーに袖を通し、私立暁冒険者学園の正門前に立っていた。


 近未来的なデザインの巨大な校舎は、まるで要塞や研究所のようだ。

 強化ガラスと特殊合金で覆われた外壁は、ドラゴンのブレスでも防げそうな威圧感を放っている。

 ここに来るのは今日で三度目だが、それでも圧倒された。


「相変わらずすごいな。故郷の神隠(かみかくし)村より大きい気がするぜ……」


 校門をくぐる新入生たちの姿も、普通の高校とは一味違っていた。

 制服こそブレザーで統一されているものの、その着こなしは自由奔放だ。

 スカートの下にスパッツを穿いてレッグポーチを装着した女子や、背中に堂々と大剣や槍を背負った男子もいる。

 校則で武器の携帯が許可されているあたり、さすがは冒険者学園だ。

 むしろ武器を持っていない人間のほうが少数派である。


「今日から俺も高校生か。実感がないな……」


 俺は大きなあくびをして、入学式が行われる講堂へと向かった。


 ◇


 大きな講堂の中は、数百人の生徒と保護者で埋め尽くされていた。


 厳粛な空気の中、学園長の話が延々と続いている。

 内容は「冒険者としての心構え」だとか「人類の希望」だとか、そんなありきたりなものだ。


(眠い……! 眠すぎる……! こんな話に何の意味があるんだ……!)


 俺はパイプ椅子に座りながら、必死に睡魔と戦っていた。

 保護者や他の生徒もウトウトしている。


「ん?」


 ふと隣の席を見ると、小柄な生徒が座っていた。

 フードを深く被り、椅子の上で丸まって完全に熟睡している。

 寝ていることを隠そうともしていない。

 すごい度胸だ。


「……んぅ……むにゃ……」


 寝言まで聞こえてくる。

 どこかで聞いたことのある声だ。

 俺はそのフードの隙間を少し覗き込んだ。


 銀色のショートボブに、整った顔立ち。

 見覚えがありすぎる顔だった。


「……ルナか?」


 俺は小声で呼びかけた。

 眠っていた美少女ことルナがピクリと反応する。

 ゆっくりと目を開け、眠そうな瞳が俺を捉えた。


「……あ、迅」


 ルナはあくびを噛み殺しながら、ポツリと言った。


「迅も、この学校だったんだ」


「それは俺のセリフだ。昨日、お互いに入学式があるとは話したけど、まさか同じ学校だとはな」


 東京には数え切れないほどの冒険者学校が存在している。

 そのうえ、俺は村長のダーツによって進学先を決められた。

 場合によっては東京どころか他の都道府県になる可能性もあったのだ。

 そんな状況で同じ学校になるのは、もはや奇跡である。


「……ん。ボクも驚いた。昨日は学校名まで言わなかったし」


 ルナはまじまじと俺の顔を見つめ、首を傾げた。


「というか、ルナはどうしてこの学校を選んだんだ? 俺でも入れる馬鹿学校なんだから、天才のお前なら他にも選択肢があっただろうに」


「それ、昨日話した。マリンたちの学校と近いから」


 たしかに言っていたな、と思い出す。


「じゃあ、質問を変えよう。どうして精華女子学院に入らなかったんだ? 近いどころか同じ学校だぞ」


「ボクには合わないから」


「合わないって?」


「ボクの家柄、地味だし」


「学力だけじゃなくて家柄も大事とかマリンが言っていたな」


「ん。それに、校則がきつい。だから無理」


「なるほど。校則による拘束が強いわけだな」


 俺がさりげなく渾身のギャグを放つ。

 それがウケたかは不明だが、ルナは口元を緩めた。


「……ふふ。迅と一緒なら退屈しなくて済みそう」


「俺は退屈な高校生活で十分なんだが……」


 とはいえ、入学時から顔見知りがいるのは心強い。

 学園長の話を聞き流しつつ、俺はルナと雑談に明け暮れた。


 ◇


 長い式が終わり、クラス発表の時間になった。

 掲示板の前に人だかりができている。


「えーっと、俺は……」


 自分の名前を探す。

 五十音順ではなく、成績順にクラス分けされているらしい。


 ここで言う成績とは、入試の点数のことではなかった。

 冒険者ギルドでライセンスを取得する際に測定した数値のことだ。

 数値の高いものから順にA、B、C……と振り分けられていく。

 冒険者学校らしい実力主義だ。


 それで、俺のクラスはというと――。


「やっぱりF組か」


 案の定、最下位のクラスだ。

 クラス分けの方法を知った時点で、そうだろうなと思っていた。

 何故なら俺の測定結果は測定不能……実質的な0点である。


「……あ、迅と同じ」


 顔の横からルナの手が伸びる。

 彼女は当たり前のように俺に負ぶさっていた。

 歩くと疲れるから歩きたくないらしい。


「ルナもF組なのか」


「ん。ボクも、セラに説教されて、仕方なくライセンスを取ったから」


「学校だけじゃなくて、ライセンスの取得理由まで俺と一緒かよ」


「ん。ボクたち、共通点が多い」


「意外だよな」


「運命かも」


「え?」


「なんでもない」


 そんなわけで、俺たちは揃いも揃って落ちこぼれクラスだ。


「同じクラスなら、一緒に過ごせる時間も多いね」


「そうだな」


「迅と一緒。ラッキー」


 ルナが抱きついてくる。


「なんだ、あいつら?」


「なんか冴えない男だけど、女のほうは可愛いな……」


「どうしてあんな地味男が美少女と……!」


 周囲の男子が見てくる。

 その視線は刺々しくて、アビス・ドラゴンよりおっかなかった。


「……おい、やっぱり自分で歩け。目立つだろ」


「やだ。ボク、迅の匂い好きだし」


 ルナはさらに強く抱きついてくる。


(やれやれ、前途多難だ……)


 どれだけ平穏を願っても、決してそうはならない。

 俺は苦笑し、ため息をついた。


「ねえ、迅、このあとは暇?」


「ん? 暇だよ。クラスもわかったし、あとは帰るだけだ」


「じゃあ、ボクのラボに行こう。いいものをあげる」


「ラボ?」


「うん。学園内に専用の研究室をもらってる」


 ルナが「あっち」と進路を指す。

 言われたとおりに進みながら、俺は疑問を口にした。


「入学したばかりだろ? なんで専用の研究室なんてあるんだ?」


「ボク、クラスは最下位でも特待生だから。中学の時に発表した魔石のエネルギー変換に関する論文が学会で評価された。あと、独自の魔法術式の開発でも特許を持ってる」


 ルナがさらっと言った内容は、俺の理解を遥かに超えていた。

 あまりにも難しすぎて「魔法術式の開発」に反応することすらできない。


「……ふふ、迅とラボで二人きり。楽しみ」


 ルナが耳元で囁く。

 普段よりも艶のある声に感じた。

 耳をくすぐる吐息も、どことなく色っぽい。


(これで胸が大きければ、俺みたいな童貞は即死だったぜ……)


 何食わぬ顔で歩きつつ、俺はルナの貧乳に感謝した。


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