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どうやら俺は最強らしい ~都会の魔物が弱すぎて、美少女たちから頼られるようになりました~  作者: 絢乃


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028 第一部最終話:最恐

 神隠村では、「神は隠れても情報は隠せない」と言われていた。

 些細な情報でもすぐに村全体で共有されるという意味だ。

 小さな村は、どこも同じようなものだろう。


 だが、俺の場合、神隠村に限った話ではなかった。

 なんと東京でも俺の情報は瞬く間に広まったのだ。


『スタンピードが起きかけていたのをジャージ男が阻止したらしい』


『ダンジョンの地下六十層までソロで行ったんだって』


『地下六十層ってwww 魔素濃度が高すぎて死ぬでしょw』


『でも、ジャージ野郎ならあり得るぞ! 奴は最強のジャージだ』


 女王アリを討伐した一件が、いつの間にかネットで知れ渡っていた。


 もちろん、俺は誰にも話していない。

 誰かに話せば面倒なことになると思ったからだ。

 マリン、セラ、ルナといった気の知れたメンバーにも黙っていた。


 では、キョウコさんが言いふらしたのか?


 答えはNOだ。

 むしろ、キョウコさんは情報を隠したがっていた。

 女王アリの件を他言しないように提案してきたのは彼女だ。


 おそらく、ダンジョン管理局に属する別の人間が広めたのだろう。

 仕事柄、キョウコさんには俺の活躍を上司に報告する義務がある。

 その報告書を見た誰かが言いふらした……というわけだ。


 とはいえ、ネットで話題になっても、さほど気にはならなかった。

 マリンのせいで以前から有名だったため、もはや慣れていたのだ。

 しかし、今回の件に関しては、別の問題が生じた。


「ちょっと、迅くん! 地下六十層に行くならあたしも連れて行ってよ! バズるどころか国から表彰されるレベルの映像が撮れたのに!」


 ある日の放課後、女王アリの件を知ったマリンに詰め寄られたのだ。

 すでに誰もが知るほどの超有名配信者なのに、まだ人気を高めたいらしい。


「マリンさん、ネットにも書いてありますが、私たちでは魔素濃度に耐えられず地下六十層に行くことすらできませんわ」


「ん。セラの言うとおり。迅はソロで行って正解」


 セラとルナが会話に加わる。

 ルナは相変わらず俺の背中にへばりついていた。

 今日はダンジョンに行かず、四人で仲良く街を歩き回っていたのだ。


「でもさー、カメラを回すことはできるじゃん! 迅くんが撮影してくれていたらなー! あーあー! たくさん焼肉を奢ってあげるのになぁ!」


 マリンが頬を膨らませてぶーぶーと文句を垂れる。


「やれやれ、ワガママな女だ。だったら、今度また地下六十層まで行って撮影してきてやるよ」


「本当に!?」


「なんだったらもっと奥まで行ってもいいぞ。たぶんだけど、最深部はもっと先だと思うんだ」


 暁区の駅前ダンジョンの公式データは地下四十層までしかない。

 ネットにも情報がないため、それより奥を知っている人間はほんの一握りだ。

 五十層より奥ともなれば、おそらく俺しか知らないだろう。


「そういうことなら許す! これからもたくさん奢ってあげる!」


 俺は「やったぜ!」と声を弾ませる。


「迅は大金を手に入れても変わらないのが面白い」


 ルナが後ろから俺の頭を撫でてくる。


「面白いか?」


「普通なら反応が変わる」


「たしかにそうですわね。迅さんの口座には、四千万円ほど入っているのですよね?」


「そうだな、約四千万円だ」


「それだけあれば、ご自身のお金で好きなだけ焼肉を食べられるはず。それなのにマリンさんの奢りで大喜びするのは不思議ですわ。武の神髄に達した者は謙虚さが違いますわね」


 セラが「うふふ」と上品に笑う。


「ところで、もうすぐ夏休みじゃん! どうするかね、諸君!」


 マリンが話題を変えた。


「夏休みか……」


 今は六月下旬だ。

 夏休みまであと一ヶ月といったところ。


「ボクはラボで研究する予定。でも、みんなで遊ぶときは都合つける」


 ルナが言うと、セラが「私も……」と続いた。


「夏休みは鍛錬に相応しいですが、ゴールデンウィークと違って父との稽古は入っておりませんわ。ですので、お誘いいただければいつでも合わせられますわ!」


「なら、みんなで海に行ったりお泊まり会をしたり、いろいろ楽しもうよ! 迅くんって、ずっと長野の山奥で暮らしていたんでしょ? 海はいいよー!」


「海か。思えば小学生のときに一度だけ行ったきりだな」


 当時のことはよく覚えている。

 いつも村に籠もっている祖母が、急に「海へ行く」と言い出したのだ。

 俺と幼馴染みのアカネは、その付き添いで海に行かされた。

 最初は気乗りしなかったが、なかなか楽しかった記憶がある。


「これでざっくりとした予定は決まったねー! 詳細はまたおいおい詰めようよ!」


「そうですわね!」


「迅、期末テストで引っかからないでね。赤点取ったら、夏休みが補習漬けになる」


「それは嫌だな。頑張って勉強せねば……」


「大丈夫、大丈夫! あたしとセラちゃん、それにルナちゃんの三人で勉強を教えてあげるから!」


「頼もしいかぎりだ」


 セラとルナはともかく、マリンも見た目に反して頭がいい。

 だから、この三人に勉強を教えてもらえるのは大きかった。

 レイコ先生の補習は、どうしても“休憩”がメインになるからな……。


「じゃあ、また明日! 迅くん、またねー!」


「またですわ! 迅さん!」


「迅、ばいばい」


 駅前に着いたところで解散した。


「おう、気をつけて帰れよ!」


 三人を見送ったあと、俺は買い物を済ませて帰宅した。


「む? これは……?」


 郵便受けを見ると、一枚の葉書が入っていた。

 広告はよく入っているが、葉書は今回が初めてだ。


「差出人は……。 ……! なっ……!」


 葉書を手に取って確認した瞬間、全身から冷や汗が噴き出した。

 差出人の名は――朝比奈タキ。

 俺の祖母だ。


「どうしてタキ婆が……?」


 葉書を裏返して、内容を読み上げる。


『アカネに聞いたが、東京で元気にやっとるらしいな。それはともかく、盆には帰ってきて顔を見せろ。アカネが寂しがっとる。ワシも会いたい。根性があるなら無視してもいいが、無視したらワシが迎えに行く。意味はわかるな?』


 葉書を持つ手がガタガタと震える。


「盆には絶対に帰らなくちゃ……!」


 俺の祖母は村の長老格だ。

 そして村は縦社会なので、長老格の命令は絶対だ。

 逆らうことは死を意味する。


 長老格の中でも、祖母のタキ婆は怖い。

 俺は出来が悪かったので、よく「根性なし」と怒鳴られたものだ。

 なぜかアカネが粗相をしたときも俺が怒られた。


「この夏休みは、駅前ダンジョンの地下六十層よりも過酷なものになるな……」


 俺は天を仰ぎ、来たる夏休みに備えるのだった。

第一部はこれにて終了です!

キリがいいため、いったん完結設定にしています。


続きは旺盛な需要や商業化が見込める場合に執筆する予定です。


「もっと読みたい」という読者様は、

ブックマークに残しておいてもらえると幸いです。


また、お楽しみいただけた読者様は、

下の星(★★★★★)で評価していただけないでしょうか。

皆様の評価が執筆のモチベーションになっています。


それでは、ここまでのご愛読ありがとうございました。

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