027 害虫駆除
アリ軍団との戦闘が始まった。
俺としては初っ端から親玉の女王アリを倒したいが、世の中そう甘くはない。
まずは周囲の兵隊アリからだ。
「「「シャーッ!」」」
巨大なアリたちが、鋭い牙をちらつかせながら突っ込んでくる。
それに触発されたように、壁いっぱいの卵がまとめて孵化した。
「すげー数だな。全部倒せば結構な儲けになりそうだ!」
俺は大鎌を振るい、兵隊アリや生まれたての子アリを殺す。
一振りで200匹ほど倒すが、それでも数が減ったようには感じない。
それだけ敵の数が多かった。
なのに――。
「こいつら……魔石はどうした! 魔石は!」
どういうわけか、アリどもは倒しても魔石を落とさなかった。
つまり、俺は金にならない敵を倒しているのだ。
「もしかして、女王に生み出されたアリだからか?」
魔物の中には、別の魔物を召喚するタイプがいる。
そうした場合、召喚された魔物を倒しても魔石は手に入らない。
ここの兵隊アリや子アリも同じパターンと考えれば合点がいった。
「チッ、くそったれ! こいつらが魔石になったら億万長者も夢じゃなかったのに!」
そう文句を言ったところで、ハッとした。
(待てよ。兵隊アリや子アリが女王に生み出されたってことは、女王を倒せば他のアリも消滅するんじゃないか?)
魔物によって召喚された魔物は、召喚者を倒すと消滅するのが基本だ。
例外も存在するらしいが、今のところ見たことがない。
「だとすれば!」
俺はザコを無視して女王アリを狙うことにした。
大鎌を振り回して女王アリまでのルートを突風でこじ開ける。
「今だ!」
タイミングを見計らって一気に駆け出した。
兵隊アリや子アリが追いかけてくるが気にしない。
「倒してやるぜ! 巨大な女王様!」
「キュェエエエエエエエエエエエ!」
女王アリが吠えた。
尻をこちらに向けて、ケツ穴から卵を連射してくる。
「うお! そんな攻撃もあるのかよ!」
飛び交う卵を避けて距離を詰める。
「アビス・ドラゴンを超える巨体だ。こっちも本気でいかせてもらうぜ!」
俺は大鎌を投げ捨て、右手に力を込めた。
「くらえ! 神隠村直伝――」
全力で跳躍し、全長30メートル級の女王アリの顔面に飛びかかる。
「――ウルトラダイナミック右ストレート!」
最高にカッコイイ技名とともに、女王アリの頭部にパンチをお見舞いする。
「グギャアアアアアアアア!」
全力で殴ったため、地下六十層のボスといえども即死だった。
頭部だけではなく、巨大な体が跡形もなく消え去った。
さらには地面に巨大なクレーターができてしまった。
「さすがにウルトラダイナミック右ストレートはやりすぎたか」
都会の脆弱な魔物に対して大人げない攻撃だった。
だが、おかげで女王アリは死亡し――。
「………………」
――他のアリも自動的に消滅した。
残ったのは女王アリの魔石だけだ。
「これでスタンピードの件が解決すればいいが……」
拾った魔石をリュックに入れて、俺は帰路に就いた。
地下六十層ともなれば、戻るだけで一苦労だ。
◇
ダンジョンを出たときには夜が明けていた。
俺は換金所に行き、リュックを渡して査定してもらう。
「査定結果は……さ、3300万円!? どうなっているの!?」
受付嬢が叫んだ。
(3300万か。自己最高を大幅に更新したな)
これまでの最高記録は、アビス・ドラゴンのときに稼いだ約500万円だ。
その6倍以上なのだから、やはり地下六十層の女王アリは別格である。
「お、お金は指定の口座にお振り込みいたしました……!」
「どうも」
俺はスマホで口座の残高を確認してから外に出た。
◇
数日後――。
俺はいつもと変わらぬ日常を過ごしていた。
学校に行き、放課後はマリンたちとダンジョンを楽しむ。
そして解散後はスーパーで食材を買い、自宅でのんびり晩メシを食う。
マリンたちと食べるときもあったが、この日は一人だった。
「朝比奈くん、いるよねー? お隣に住んでいる巨乳のお姉さんが来たよー!」
すると、キョウコさんがやってきた。
玄関の扉をノックしたあと、ドアノブをガチャガチャ回している。
「どうかしたんですか?」
俺は玄関の扉を開けた。
キョウコさんはいつもと違い、スーツを着ていた。
仕事帰りなのだろう。
先日看病したときに比べて顔色が良くなっていた。
「この前は看病してくれてありがとうね。今日はお礼をしにきたの。そんなわけだからお邪魔するねー」
キョウコさんはヒールを脱ぎ捨てて部屋に上がった。
「朝比奈くんの部屋って、ウチと違って綺麗だねー」
「キョウコさんの部屋が酷すぎなんですよ」
「あはは、それはあるかも!」
キョウコさんは奥に行き、布団の上に腰を下ろした。
(大人の魅力、半端ねぇ……!)
俺の視線は二箇所を何度も行き来していた。
一つは白いブラウス越しでも抜群の存在感を誇る巨乳だ。
そして、もう一つはタイトスカートから伸びる脚だ。
黒いストッキングの組み合わせが実に大人っぽい。
そのうえ、スカートの中が見えそうで見えないのも絶妙だ。
これには胸派の俺も凝視を禁じ得ない。
「朝比奈くんはわかりやすいなー」
キョウコさんがクスクスと笑う。
今さら隠すことでもないため、俺は「へへっ」と流した。
「それで……お礼とは?」
見たところ、キョウコさんは手ぶらだ。
「あ、そうだった! でも、その前に一つ質問してもいい?」
「なんでしょうか?」
「スタンピードの問題が急に解決したんだけど、朝比奈くんが何かしてくれたんじゃない?」
その言葉で、俺はスタンピードのことを思い出した。
(すっかり忘れていたな)
スタンピードの件は、俺もどうなったのか気になっていた。
しかし、キョウコさんから話を聞く機会がなかった。
いつ家に行っても留守だったからだ。
「ダンジョンで適当に魔物を狩ったくらいですが……」
「さらっと言っているけど、私を看病してくれたあと、ダンジョンに潜って異常な額を稼いだでしょ? ダンジョン管理局の権限で、換金所の履歴を調べて把握しているのよ?」
「たしかに稼ぎました。地下六十層の女王アリを倒したんです」
「え? 六十層!? そんな階層まで行けるの!? 魔素濃度が高くて常人じゃ耐えられないはずだけど……」
「たしかにちょっと居心地の悪さはありましたけど、何とかなりましたよ」
「さすがアビス・ドラゴンをワンパンで倒す最強のジャージ男ね……。たぶんだけど、朝比奈くんが倒したという女王アリがスタンピードの原因だったんだと思う。違うとしても、朝比奈くんが倒した魔物の中に元凶がいたことは間違いないわ」
「そうなんですか」
どうやら俺は役に立てたようだ。
「おかげで私もデスマーチから解放されて、有休を消化する機会までもらっちゃったわ」
「貢献できたのならなによりです。それで、お礼は……?」
俺はキョウコさんの「お礼」が気になって仕方なかった。
(ついに来るのか!? 揉み揉みイベント! というか、ここしかないだろ! 揉み揉みイベントがあるなら!)
もはや頭の中は「揉み揉みイベント」でいっぱいだ。
すでに「お礼=揉み揉みイベント」の図式が成り立っている。
「そうねー。じゃあ、こっちに来て、私の前に座ってくれる?」
「はい!」
俺はすぐさま布団の上に正座した。
キョウコさんと向かい合う。
フェロモンのいい香りが鼻孔をくすぐる。
「じゃあ、お礼の時間ね。目を閉じて?」
「目を閉じる……?」
「いいから」
「は、はい!」
とにかく言われたとおりに目を閉じる。
すると――。
「おりゃ!」
――いきなり押し倒された。
驚きのあまり目を開けるが何も見えない。
キョウコさんが手で俺の目を覆っていた。
「ダメ。目を閉じてて」
何が何やらわからない中、素直に従う。
「んっ……!」
今度はキスされた。
それも互いの唇を重ねるディープなものだ。
「ずっと目を閉じていてね。目を開けたらお礼タイムが終了しちゃうから」
俺の耳元で囁いたあと――。
「キョウコさん……! おほっ! そんなことまで……! ああ、すごい……!」
――あの手この手でお礼をしてくれた。
揉み揉みイベントではなかったが、それ以上に素晴らしいものだった。
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