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どうやら俺は最強らしい ~都会の魔物が弱すぎて、美少女たちから頼られるようになりました~  作者: 絢乃


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023 腹黒い蛇たち

 6月が始まった。

 先月は中間テストがあったものの、俺は赤点を回避できた。

 マリン、セラ、ルナが教えてくれたおかげだ。


 レイコ先生の補習もあったが、あまり役に立たなかった。

 勉強はオマケで、「休憩」と称して俺を誘惑してくるからだ。

 ただ、そのことに文句はない。

 レイコ先生の「休憩」は楽しくて、それに……気持ちよかった。


 そんなこんなで、6月になった。


 ある日、俺は昼過ぎからダンジョンに潜っていた。

 久しぶりのソロだ。


「やっぱりソロは気楽でいいな」


 マリンたちとのパーティープレイも悪くない。

 賑やかで楽しいし、なによりマリンが焼肉を奢ってくれる。

 配信を観ている視聴者も喜ぶし、全員が得する素晴らしいものだ。


 だが、ソロにはソロの良さがある。

 仲間の安全を気にしなくていいし、視聴者を意識する必要もない。

 ダンジョンの隅で野糞ができるのもソロの強みだ。


(新しい装備もすっかり馴染んだな)


 最近、俺は装備を一新した。

 ジャージと靴は新品になり、100万円のリュックを背負っている。


 リュックはマリンたちとお金を出し合って購入したものだ。

 魔石を吸収し、エネルギーに変換する機能を備えている。

 言い換えるなら、普通のリュックと違って魔石が詰め放題なのだ。

 もちろん、貯めたエネルギーは換金できる。


「ギャギャーッ!」


「グォオオオオオオ!」


「ヌオオオオオオ!」


 今日のダンジョンは、いつになく魔物が活発だった。

 数の多さもさることながら、俺を見ても逃げずに襲ってくる。

 まだ地下十七層と浅いのに、深層の敵と同じくらい獰猛だ。


「自分から死にに来てくれて助かるぜ」


 俺は鼻歌交じりに進み、迫ってくる魔物を始末していく。

 そうして手に入れた魔石は、片っ端からリュックにぶち込んでいく。


(このリュックがあれば、魔石の質にこだわらなくていい。かなり高い買い物だったが、思い切って買ったのは正解だったな)


 リュックの購入を提案したのはマリンだ。

 当初は難色を示していた俺だが、今では満足していた。


「ん?」


 次の層に繋がるゲートの手前で、冒険者パーティーを見つけた。

 男の四人組で、高そうな武具を装備している。

 それなりに場数を踏んでいそうな、ベテランの風格が漂っていた。


「お、噂のジャージ野郎じゃん!」


「へぇ、あいつがジャージ野郎か」


「なんかめちゃくちゃ弱そうだな」


「でも、アビス・ドラゴンをソロで倒せるんだろ?」


 連中が俺を見ながら話している。

 よくあることなので、別に何とも思わなかった。

 有名税というものだ。


 だが、今回は遠巻きに話すだけでは終わらなかった。


「おい、そこのジャージ。ちょっと待ちな」


 連中が俺を囲んできたのだ。


「何か用か? 俺は次の層に進みたいんだが?」


 俺は足を止めた。


「へへっ、そう急ぐなよ。あんた、マリンの配信で有名なジャージ野郎だろ?」


 リーダー格と思しき男が、ニヤニヤしながら俺のリュックを指差す。

 金髪のツーブロックに、蛇の刺青が首筋に見える男だ。


「そうだが?」


「ちょっと俺たちと手合わせしてくれねぇか? これでも俺たち、この辺じゃちっとは名の知れた冒険者なんだ」


「断る」


 俺は即答で拒否した。


「おい、あれ『黒の蛇』の奴らじゃねぇか?」


「なんでAランクの連中がこんなところにいるんだ?」


「知らないのか? あいつら、他の冒険者から魔石を巻き上げているんだ」


 周囲の冒険者がざわついている。

 金髪野郎の自称は正しいようで、連中はちょっとした有名人のようだ。

 もちろん、俺は全く知らなかった。


「なるほど、俺からカツアゲしようって腹か」


「安心しろよ、ジャージ野郎。お前みたいな強い奴から奪おうとはしないさ。ただ、互いの持っている魔石を全て賭けて勝負しようぜ」


 金髪野郎は仲間に命じ、背負っているリュックを俺の前に投げさせた。


「俺たちの魔石はそのリュックに蓄えられたエネルギーだ。何日か換金していないから、たぶん100万円くらいにはなるだろう」


「多いな。こっちはまだ20万円分すらないぞ」


「それでかまわないさ。こっちは数のハンデがあるからな。奥に進みたいんだろ? なら、さっさと済ませようぜ」


「そういうことなら、まあいいだろう」


 この勝負には見返りがある。

 だから、さっさと終わらせてお金をいただくとしよう。

 俺からすれば100万円の札束が降ってきたようなものだ。

 断る理由がなかった。


「話が早くて助かるぜ。じゃあ、行くぜ!」


 金髪野郎が腰に帯びている剣を抜いて突っ込んできた。

 一方、三人の仲間は警戒しているのか何もしてこない。


「これがAランクの力だ! フレイム&アイスエンチャント!」


 金髪野郎の剣に炎と氷が宿る。


「死ね! ジャージ野郎! ジャージごと消え失せろ!」


 金髪野郎が剣を振り下ろす。

 ここでも、三人の仲間は観ているだけだ。


 ガッ!


 俺は迫り来る刃を手で受け止めた。


「なっ……! 俺の攻撃を素手で止めやがった!?」


 金髪野郎が驚愕する。

 仲間の三人も愕然としていた……が、やはり観ているだけだ。


「力の差は歴然だな」


 俺は手を離した。

 そのまま刃を砕こうか悩んだがやめておく。


「どうやらそのようだな。約束どおり、俺たちの魔石はくれてやる。ただ、リュックは返してくれ。換金所に預けておいてくれたらそれでいい」


「わかった」


 俺はリュックを拾い上げようと前屈みになった。

 その時だ。


「待っていたぜ! この瞬間をよぉおおおおおおお!」


 金髪野郎が奇襲を仕掛けてきた。

 さらに他の三人も全方位から攻撃してくる。

 同士討ちを避けるためか、全員が魔法を使ってきた。


(避けきれない……!)


 絶妙なタイミングで、回避できない。

 火、水、雷、土、草、光……あらゆる属性の魔法が俺に命中した。


「ジャージ野郎、ここに死す!」


「所詮はただのガキだな! バカな奴だぜ!」


「お前の代わりにマリンとよろしくしてやるよ! ギャハハハ!」


 金髪野郎の仲間たちがハイテンションで叫ぶ。

 しかし――。


「残念だったな」


 ――連中の予想に反して、俺は生きていた。


「「「なんだとぉ!?」」」


「狙いは良かったが、相手が悪かったな。さて、次は俺のターンだ」


 俺はニヤリと笑った。


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