022 レイコ先生の補習授業
実技試験は無事に終了したが、問題はまだ残っていた。
座学だ。
いかに冒険者学園といえど、区分は高校である。
実技だけでなく、筆記試験も存在するのだ。
「朝比奈、ちょっと面貸せ」
帰ろうとしたとき、レイコ先生に呼び出された。
連れて行かれたのは、誰もいない教室だ。
「単刀直入に言うぞ。お前、筆記の成績が壊滅的だ。なんで小学校レベルの問題すらわからないんだ?」
レイコ先生が数枚の用紙を教卓に叩きつける。
それは、ゴールデンウィーク前に行った模擬テストの答案用紙だった。
俺の点数は軒並み悲惨なものだ。
「……言い訳をさせてください。俺の村では、数学とか英語とか習っていないんです」
神隠村での教育は、サバイバル術や魔物との戦い方が中心だった。
そもそも、小さな村なので勉強を教えられる人間がまともにいなかった。
俺と幼馴染みのアカリは、自分たちで参考書を読んで勉強したものだ。
「知ったことか。このままだと留年だぞ」
「留年……」
絶望の二文字が重くのしかかる。
「実技試験で不甲斐ない成績の生徒は退学させられるが、筆記試験の結果が不出来な人間は留年というのがこの学園の決まりだ。しかし、学園創設以来、留年した人間は一人もいない。なぜかわかるか?」
「わかりません」
「留年の余地がないほど簡単だからだ。その辺の小学生でも赤点を回避できる。それなのに、お前ときたら余裕の赤点だ」
「むむむ……」
俺は自分の答案用紙を確認した。
国語、理科、英語、社会、数学という名の算数……どれも赤点だ。
冒険者学園にのみ存在する冒険学ですらぎりぎりの赤点である。
「私の男を留年させるわけにはいかない。というわけで、今から補習を行う。マンツーマンの特別レッスンで遅れを取り戻すぞ」
レイコ先生が指示棒を伸ばした。
さりげなく「私の男」と言っていたが、聞かなかったことにしよう。
「お願いします……!」
俺は素直に頭を下げる。
勉強を教えてもらえるなら願ってもないことだ。
俺は自分の席に座った。
「さて、まずは……」
レイコ先生がコツコツとヒールの音を響かせて近づいてくる。
そして、どういうわけか俺の机の上に腰掛けた。
タイトスカートから伸びる黒ストッキングの脚が目の前で組まれる。
太ももの肉感が強調され、大人の色気が漂ってくる。
「先生? そこは机なんですが……」
「細かいことは気にするな。マンツーマンで教えてやるって言ってるんだ。ほら、机から適当な教科書を出せ」
レイコ先生が右足のヒールを脱ぎ捨てる。
「は、はい……!」
とにかく指示に従うことにした。
俺は机の中に手を突っ込み、確認せずに教科書を取り出す。
選ばれたのは国語だった。
「ふむ、国語か」
レイコ先生は俺から教科書を取り上げ、左手で持つ。
右手は指示棒で俺の頬や首を撫でている。
さらに、右足のつま先で俺の胸を小突いてきた。
「朝比奈、お前は漢字の読み書きはそれなりにできるが、文章問題が致命的だ。作者の心境を答える問題では、常に作者ではなく自分視点で考えている」
「作者ではなく自分視点で考えている……?」
「例えば、【ダンジョン物語】の問題がそうだ。主人公は一般的な高校生で、初めて訪れたダンジョンで魔物と遭遇したときに『うわぁ!』と叫んでいる。そのときの主人公の心境は、どう考えても恐怖に関するものだ。なのにお前は、『美味しそう』と回答している」
レイコ先生が、右足で俺の顎をくいっと上げる。
「朝比奈、お前、頭がおかしいのか?」
「い、いえ、決してそんなことは……!」
「まあいい。今の説明で、少しは国語というものが理解できたはずだ。そろそろ休憩にしよう」
「え、もう休憩ですか? まだ始まって数分しか経っていませんが……」
「安心しろ。一問ごとに休憩を挟んでも、赤点を回避できる程度には賢くなるはずだ」
「わかりました!」
「そんなわけで――」
レイコ先生は指示棒を捨て、右足で俺の太ももを撫で始めた。
さらにはGカップの豊満な谷間を見せつけ、ニヤリと笑う。
「――休憩時間は大人の勉強をしようか」
レイコ先生が舌なめずりをする。
泣きぼくろが妖艶さを引き立てていた。
「大人の勉強……!」
ごくり。
俺は唾を飲み込んだ。
「お前は可哀想な男だ。巨乳が好きなのに、友達の星野には胸がないからな」
「それは……!」
「星野の胸が私くらいあれば……そう思ったことは一度や二度じゃあるまい」
「ぐっ……!」
認めたくないが正解だ。
ルナをおんぶするたびに、「胸が大きければ……!」と思っている。
「だから、ちょっと私で遊んでいけよ。合意の上だ。問題なかろう?」
レイコ先生が身を乗り出す。
眼前に差し出された谷間からはフェロモンの香りが漂っている。
同年代の女子には絶対に出せない大人の色香だ。
「ほら、どうした? 触っていいんだぞ?」
「触ってもいい……だと……!?」
頭が真っ白になっていく。
興奮のあまり頭がくらくらしてきた。
「そうだ。欲望を解放しろ」
レイコ先生は俺の右手を掴み、自分の胸に近づける。
「では、お言葉に甘えて……」
俺は抵抗することなく受け入れることにした。
しかし――。
『氷川先生、至急、職員室にお越しください』
――校内放送が入り、俺たちはぴたりと止まった。
「チッ、いいところだったのに。また呼び出しかよ」
レイコ先生が舌打ちする。
「また? 頻繁に呼び出しを受けるのですか?」
俺は普段、授業が終わるとすぐに下校している。
だから、レイコ先生の呼び出し放送を聞くのはこれが初めてだった。
「ああ。クレームだよ、クレーム」
「クレームですか」
「私の減点システムを不満に思う保護者が文句を言ってくるんだ。あとは嫌がらせだな。これでも敵が多くてな」
「さすがは伝説の元ヤンですね」
レイコ先生は「ふん」と鼻を鳴らした。
「クソみたいな放送のせいで興が削がれたわ。今日の補習はこれでおしまいよ。あとは家で自習するなり、お友達に教わるなりしておけ」
「はい」
レイコ先生は机から降りると、背後から抱きついてきた。
俺の首にご自慢の胸を押し当てながら耳元で囁く。
「星野とはモノが違うだろ?」
「はい……違います……!」
「たまらないだろ?」
「……はい」
俺はニヤニヤしながらうなずいた。
「なら、特別に私の連絡先を教えてやろう」
「え?」
「大人の世界を味わいたくなったら、いつでも呼んでくれていいぞ」
そう言うと、レイコ先生は俺の太ももに手を滑らせる。
先生が手を離すと、そこにはキスマーク付きの名刺が置かれていた。
「連絡、期待しているからな」
レイコ先生は俺の耳に吐息を吹きかけ、教室を去った。
(この番号に連絡すれば、童貞卒業も夢ではないのでは……!?)
俺は光の速さでレイコ先生の番号をスマホに登録した。
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