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どうやら俺は最強らしい ~都会の魔物が弱すぎて、美少女たちから頼られるようになりました~  作者: 絢乃


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021 懲りないエリート

 桐生院は杖を俺に向け、妙にスタイリッシュなポーズを決めながら言う。


「賭けをしようじゃないか、朝比奈! 僕が勝ったら、マリンさんを紹介しろ! そして二度と彼女に近づくな!」


 俺は「またそれか」とため息をついた。


「お前には学習能力がないのか? それとも記憶障害か何かか?」


「う、うるさい! とにかく勝負しろ! お前みたいな野蛮人がマリンさんにつきまとうなどありえない! 彼女にふさわしいのは僕みたいな選ばれしエリートなんだ!」


「断る。お前と戦っても俺にメリットがない」


「逃げるのか! この根性なし!」


「本当に馬鹿の一つ覚えだな。他の挑発はできないのか?」


 と言いつつ、俺の眉間がピクピクと動く。

 やはり「根性なし」というフレーズは苛ついてたまらない。

 だが、こんなザコに付き合うのは時間の無駄だ。

 俺は華麗にスルーした。


「……んん……うるさい……」


 ルナが不快そうに顔をしかめる。


「おい、お前が喚くせいでルナが怒っているだろ。黙って失せろ」


「なるほど、もっと騒げばいいわけだな! おい、お前ら! ここで歌ってやろうぜ!」


 桐生院の取り巻きたちが「うぇい!」と賛同する。


「「「らららー! るるるー! うおっほほほーい!」」」


 俺の注意を無視して、桐生院たちが歌い出した。


「うるさい……うるさい……!」


 ルナの顔がますます険しくなる。


(こいつ……教育が必要だな)


 俺は右手を少し挙げて連中を制止した。


「勝負してやるから黙れ。わかったな?」


「ふん、最初からそう言っていればいいんだ」


「で、どうやって戦うんだ? またポイント競争か?」


「そんな回りくどいことは必要ない! 実力で決める!」


 桐生院が杖を突き出す。

 途端に、杖の先端から巨大な火球が膨れ上がった。


「死ね、朝比奈! フレア・バースト!」


 放たれた火球が、螺旋を描きながら俺に迫る。

 以前の氷魔法より、威力も速度も強化されているようだ。

 直撃すれば、普通の人間なら大火傷は免れないだろう。


「おいおい、人間に向けて魔法で攻撃していいのか? 座学では禁止と習ったが」


「ダンジョンでは事故がつきものだ! これは偶発的な事故!」


 桐生院が下卑た笑みを浮かべた。

 取り巻きたちが「さすが桐生院さん!」と褒め称える。

 どこに「さすが」の要素があるのか、俺にはわからなかった。


「なるほど、ダンジョンでは事故がつきものか……たしかにな」


 俺はニヤリと笑い、迫り来る火球を片手で受け止めた。


 パンッ!


 火球は、風船が割れるように破裂した。

 もちろん、俺はノーダメージだ。


「僕のフレア・バーストが効かないだと!?」


「はぁ……」


 俺は大きなため息をつくと、桐生院に言った。


「お前、馬鹿なのか?」


「……は?」


「前のポイント競争で見ていたはずだ。俺がマグマに腕を突っ込むところを。なのに、どうして火の玉で俺を倒せると思ったんだ?」


「……!」


「どう考えてもお前の生み出した火の玉よりマグマのほうが熱い」


「そんな……!」


 桐生院が崩れ落ちる。

 愛用の眼鏡がずり落ち、地面に転がった。


「さて、次は俺の番だな」


 俺は大股で桐生院に近づいていく。


「え? ちょ、ま、待ってくれ!」


 桐生院は慌てて眼鏡を拾い、真っ青な顔で後ずさる。


「ふざけたことを言うなよ。戦いを挑んできたのはお前だ。まさか、反撃されないと思っていたわけじゃないだろ?」


 俺と桐生院の距離がゼロになる。


「ひっ!?」


 桐生院が引きつった悲鳴を上げる。


「安心しろ。俺は魔法を使うことができない。だから、特別に顔面パンチで許してやろう」


 一般人の脆さを考慮して、俺は0.001%くらいの力で桐生院を殴った。

 しかも、拳ではなく(てのひら)――掌底打ちという形を採用した。

 うっかり顔面を消し飛ばしたら事故では済まないから、限界まで手加減した。


 それでも――。


「うぎゃああああああああああああ!」


 桐生院は遥か彼方まで吹き飛んでいった。


「……星になったか」


 我ながら見事な飛距離だ。


「「「桐生院さん!」」」


「おいおい、あいつの心配をしている場合じゃないだろ? お前たちだって喚いてルナの睡眠を妨害したんだ。同罪だぜ?」


 俺は取り巻きたちに視線を向けた。

 連中はガタガタと震えると――。


「ま、誠に申し訳ございませんでしたぁぁぁッ!」


 その場にひれ伏した。

 額が地面にめり込む勢いで、実に素晴らしい土下座だ。


「特別に許してやろう。だが、次はないからな」


「は、はいぃぃぃ! ありがとうございます!」


 取り巻きたちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。

 ようやく静寂が戻ってくる。


「……んぅ? 迅……?」


 背中でルナが身じろぎした。

 どうやら今の騒ぎで完全に目を覚ましたらしい。

 眠そうな瞳で周囲を見回している。


「何かあった……?」


「いや、なんでもない。ちょっとゴミ掃除をしただけだ」


「そっか……」


 ルナは興味なさそうに呟くと、俺の首に腕を回して頬ずりした。


「迅、いい匂い……」


「そうか?」


「うん。落ち着く匂い……」


 ルナは猫のように喉を鳴らす。

 その無防備な姿に、俺は少しだけ頬を緩めた。


「そういえば、知らない間に試験の合格基準を満たしていた。ここに留まる意味もないし、さっさと出よう」


「ん。じゃあ、おんぶ」


 ルナが背中にしがみつく。


「やれやれ、俺に拒否権はないようだな」


「当然。迅はボクのもの。でしょ?」


「いや、それは違う」


「むぅ」


 ルナが頬を膨らませ、ポコポコと頭を叩いてくる。


「こら、暴れると危ないぞ」


 俺たちは出口へと歩き出した。

 すれ違う他の生徒たちが、俺を見て畏怖の眼差しを向けてくる。


「迅、質問していい?」


 歩いていると、ルナが尋ねてきた。


「なんだ?」


「迅はどういう女子が好き?」


「意外な質問だな」


「ボク、迅のおかげで恋愛に興味を持った」


「俺は何もしていないが……」


「いいから、答えて。好きなタイプは? 嘘はダメ」


 俺は少し考えてから答えた。


「やっぱり一緒にいて落ち着く相手かな」


「外見は? 可愛い系が好き? 美人系が好き?」


「そこは特にこだわりはないな。それよりも胸だな」


「…………」


「やっぱり胸は大きいほうがいい。キョウコさん……あ、お隣に住んでいるお姉さんなんだけど、すごい大きいんだ。Hカップだぜ、Hカップ。あれはすごいね。夢が詰まっている。見ているだけで活力が湧く」


「……迅のバカ」


「え?」


「ボク、怒った」


 どうやら俺は下手を打ったらしい。

 その日、ルナは口を利いてくれなかった。


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