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どうやら俺は最強らしい ~都会の魔物が弱すぎて、美少女たちから頼られるようになりました~  作者: 絢乃


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018 正義の鉄拳

「ガキが! 大人をなめんじゃねェ!」


 巨漢の用心棒が突っ込んでくる。

 迫力はある。一般人なら失禁するレベルだろう。


「迅くん、逃げて! あいつ、元Sランクの極悪犯罪者『剛腕の熊』だよ! 素手で人を殺すような指名手配犯!」


 マリンが悲鳴を上げる。

 現役ではなく元Sランクと知って、俺は少なからず落胆した。

 黒木教官と同じで、元Sランクならデコピンで十分だろう。


「死ねやぁぁぁ!」


 巨漢が俺の顔面めがけて豪腕を振り下ろす。

 俺はそれを避けることもなく、真正面から見据えた。

 そして――。


 パチンッ!


 軽いデコピンをお見舞いし、熊野郎の額を弾く。


「ぶべらっ!?」


 熊野郎は物理法則を無視した勢いで吹っ飛んだ。

 業務用の大きなゴミ箱に頭から突っ込み、両足をピクピクさせて沈黙する。

 見事なホールインワンだ。


「嘘……だろ……?」


「先生はライセンスを剥奪されていなかったらSランクなんだぞ……?」


 スカウトマンたちの顎が外れんばかりに落ちる。

 彼らの切り札が一瞬でやられた現実を、脳が処理できていないようだ。


 通行人たちも驚いた様子でこちらを見ている。


「さあ、次はどいつだ?」


 俺が視線を向けると、男たちがヒィッと悲鳴を上げた。


「誠に申し訳ございませんでしたー!」


「もう二度とつけ回さないので勘弁してくださいー!」


 男たちは両手を上げて逃げていった。


「張り合いのない奴らだ」


 俺は「ふん」と鼻で笑い、マリンを見た。


「これでもう大丈夫だろう」


「迅くん、ありがとう! すごいよ! あの『剛腕の熊』を倒すなんて!」


「名前や見た目に反して弱かったぞ。本物の熊に失礼だ」


「迅くんが強すぎるんだよ!」


 マリンが後ろから抱きついてきた。

 背中に胸が押しつけられる。

 実に素晴らしい弾力で、俺は満足げにうなずいた。


「迅くんはあたしのヒーローだね! いつもあたしのことを助けてくれる!」


「焼肉を奢ってもらったお礼だ。気にすんな」


「ううん、感謝してる! 迅くんがいなかったらどうなっていたか……」


「仮定のことを考えても仕方ないさ。それより、あの熊野郎は指名手配犯なんだろ? 警察に連行しようぜ」


「わかった! でも、大丈夫かな? 抵抗されるんじゃ……」


「その時はまたデコピンするさ」


「さすが迅くん!」


 俺はゴミ箱で気を失っている熊野郎の首根っこを掴んだ。

 そのまま下半身を地面に引きずる形で引っ張っていった。


 ◇


 無事に熊野郎を警察に引き渡した。

 その後もマリンと街を散策して、夜を迎えた。

 街灯が灯り始め、飲み屋からは賑やかな声が飛び交っている。


「さて、そろそろ帰るか」


 駅が見えてきたところで、俺は言った。


「……えっ、帰っちゃうの?」


 マリンが不安そうに俺を見る。


「だって、もう夜だぞ?」


「じゃあ、私の家で一緒に過ごさない?」


「え?」


 耳を疑った。


「迅くんさえよければだけど、泊まっていってほしい」


「ずいぶんと急だな」


「だって、まだ不安だから……。あの悪徳事務所の連中、あたしの家とか交友関係を把握しているとか言っていたし……」


 たしかに、と思った。

 声を掛けてきた連中は、俺にビビって近づかなくなるだろう。

 しかし、事務所には他にも人がいるだろうし、そいつらまで黙っているかはわからない。

 マリンが不安になるのは当然だった。


「そういうことならかまわないけど、親御さんは大丈夫なのか?」


「それは問題ないよ。あたしも迅くんと同じで一人暮らしだから」


「そうだったのか」


「正確には実家暮らしなんだけど、両親はずっと海外にいて留守なの。だから実質的には一人暮らし!」


「へぇ、知らなかった」


 思えば俺は、マリンたちの暮らしを全く知らなかった。


「だから、迅くんが泊まっても問題ないよ!」


「わかった。じゃあ、マリンの家に行こう」


 俺は平静を装いながら言った。

しかし、内心ではドキドキしていた。


(若い男女が同じ空間で二人きり……! これは、ワンチャンあるんじゃないか……?)


 脳裏によぎる「童貞卒業」の四文字。

 俺もそういうことを経験するに相応しい年頃だ。

 期待したって何もおかしいことではない。


「コンビニ寄ってから行こっか! お菓子とか、他にもいろいろ買おう!」


 マリンはすっかり元気を取り戻し、俺の手を引く。

 もはや変装は意味を成しておらず、周囲の人間が「マリンだ!」「ジャージ男だ!」と騒いでいる。


(……冷静になれ、俺。ただ泊まるだけだ。何も起きない。何も期待するな)


 俺は必死に自分に言い聞かせた。

 だが、どれだけそう唱えても意味はなかった。

 何が起きるかはわからないが、期待はする。

 その気持ちは抑えられなかった。


 ◇


 30分ほど移動してコンビニにやってきた。

 近くにはタワーマンションがそびえており、そこがマリンの家だという。


 俺は替えの下着や歯ブラシを買うことにした。

 一方、マリンはジュースやお菓子を大量に買っている。


「よーし、今日はホムパだー! ホムパ!」


 マリンが「ホムパ」を連呼している。

 初耳の用語だったが、おそらく「ホームパーティー」の略称だろう。

 流れでそう察した。


「あ、すまん、買い忘れてたものがあった。ちょっと待っててくれ。すぐに買ってくる」


 コンビニを出てすぐのところで、俺は我ながら完璧な演技を披露した。

 マリンはすっかり騙されて「わかった!」と待機している。


(よし、これでバレずに買えるぞ……!)


 俺は避妊具をレジに持っていった。

 買い忘れていたのではなく、意図的に買わなかったものだ。

 こっそり買うにはこの方法しかなかった。


「袋はお付けしますか?」


「不要だ。見てのとおり、数分前に買ったときの袋がある」


 光の速さで避妊具の箱を受け取り、持っている袋に突っ込む。

 これで準備は整った。


「ま、待たせたな、マリン! 行こうか……!」


 これから何かが起こる――。

 そう思ったら緊張で声が震えた。


「大丈夫? というか、迅くん、買い忘れたものって何だったの?」


「それは……」


 俺は言葉に詰まった。


(しまった! 言い訳を考えていなかった!)


 とんだ失態だ。


「どうしたの? 教えてよー!」


 マリンが顔を覗き込んでくる。

 どう答えるべきか悩んだ結果、俺は意味不明なことを口にした。


「……だ」


「え?」


「ロマンだ」


「ロマン!?」


「そう、俺が買い忘れていたものはロマンだ」


「それって――」


「おっと、残念。マンションに到着だ。オートロックを解除してくれ」


 俺は話を逸らした。

 どうにか始まる前に終わる事態だけは避けられた。

 さあ、マリンと明かす夜の幕開けだ。


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