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どうやら俺は最強らしい ~都会の魔物が弱すぎて、美少女たちから頼られるようになりました~  作者: 絢乃


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013 隣の部屋の壁ドン

 桐生院との決闘から数日後――。

 休日の今日、我が家はこれまでにない活気に包まれていた。


「おい、バイト! 慎重に運べよ! お客様の大事な商品なんだぞ!」


「お客様! こちらの家具はどこに設置しますか?」


「エアコンの修理、完了しましたー!」


 狭い1Kのアパートに、屈強な男たちがひしめき合っている。

 彼らは家具屋や家電量販店から派遣された作業員だ。


「ここにお願いします。あ、その棚はこっちでお願いします」


 俺は指示を出しながら、感慨深い気持ちになっていた。

 昨日まで、この部屋には冷蔵庫とちゃぶ台しかなかった。

 だが、それも終わりだ。


 ダンジョンでの稼ぎを投入し、一気に必要なものを揃えた。

 これで人並みの生活環境が手に入ったわけだ。


(この点はマリンに感謝だな)


 行動を思い立ったのは、マリンたちが初めて家にやってきたときだ。

 客人を迎えるのに相応しい環境ではないと思った。

 もっとも、あの時のマリンたちは客ではなかったのだが。


「一気に行くぞー!」


「「「うぇーい!」」」


 ガガガガッ! ウィィィィン!

 ガガガガッ! ウィィィィン!


 ドリル音や家具の組み立て音が響く。

 築40年の木造アパートは、作業音を容赦なく反響していた。


(俺がお隣さんだったらこの音はきついだろうなぁ)


 そんなことを思っていると――。


 ドォン!!


 突然、壁から激しい音がした。

 隣人が怒って壁を叩いたのだと直感で理解した。


「「「…………」」」


 作業員たちが静まり返った。

 手を止め、判断を仰ぐような目で見てくる。


「すみません、可能な限り音を控えてもらっていいですか」


 俺は作業員たちにペコリと頭を下げる。

 これによって、作業音が三割くらいは静かになった。

 とはいえ、当然ながら音が響いている。


(このまま怒っている隣人を放っておくわけにはいかないよなぁ)


 これからのご近所付き合いもある。

 謝罪に行くべきだろう。


(怖い人じゃなければいいが……)


 実は、隣人がどんな人なのか知らなかった。

 もちろん、何度か挨拶しようと訪問したことはある。

 しかし、いつ行っても留守だったのだ。


(手ぶらで行くのもなんだしな……)


 こういう時、何かプレゼントを渡すのが一般的だ。

 いわゆる贈答品と呼ばれるもので、洗剤などが定番である。

 あいにく、ここには贈答品に相応しい物がなかった。


(仕方ない、賭けに出よう)


 俺は冷蔵庫を開けた。

 そこには、マリンたちから死守してきた至高の食材が眠っていた。

 アビス・ドラゴンの肉塊だ。


 半年分あったはずだが、残っているのはもはや1ブロックのみ。

 三人の美少女に食べられたり奪われたりした結果だ。


 正直、これを渡すのは身を切るように辛い。

 アビス・ドラゴンの肉は簡単に調達できるものではないからだ。

 だが、相手の怒りを鎮めるにはこれしかない。


「よし、行くか」


 俺は竜肉のブロックをラップで包み、意を決して部屋を出た。

 お隣の202号室の前に立つ。

 表札には「四谷」とだけ書かれていた。


 コンコン。


 深呼吸をしてからノックする。


「……はい」


 不機嫌そうな低い声が返ってきた。

 ガチャリと扉が開き、隙間から住人が顔を覗かせる。


 現れたのは、ボサボサの黒髪にメガネをかけた女性だった。

 年齢は20代半ばくらいだろうか。

 美人ではあるが、目の下に濃いクマがあり、肌の調子も悪そうだ。

 ヨレヨレのジャージ姿にシンパシーを感じた。


「あの、隣の201号室の朝比奈という者ですが……」


「……ああ、あんたが騒音の主犯?」


 女性の目が、獲物を狙う猛獣のように細められる。

 凄まじい殺気だ。

 東京のダンジョンでは味わえない圧がある。


「こっちはねぇ、三日三晩続いた地獄のデスマーチを乗り越えて、ようやく泥のように眠れるところだったのよ。それを、あんな騒音で叩き起こされて……。休日だからって限度があるでしょ、限度が」


 彼女が不機嫌そうに扉を開ける。

 その瞬間、俺の視線は一点に釘付けになった。


(ワンダフル! 素晴らしい! なんというデカさだ!)


 隣人こと四谷は、ジャージの上からでもわかる巨乳だったのだ。

 それも並の巨乳とは比較にならない暴力的な膨らみ方をしている。


 推定Hカップ。

 レイコ先生をも凌駕する巨大な双丘が、そこにはあった。


(す、すげぇ……!)


 やはり東京は素晴らしい街だ。

 俺は上京して良かったと心から思った。


「……なに胸ばかり見てんのよ」


「い、いえ! 見てません! あ! それより! これ、お詫びの品です! 最高に美味しいお肉なので、こちらでご容赦ください!」


 俺は慌てて竜肉を差し出した。


「お詫びぃ? しかも肉って、あんた――」


 四谷の視線が竜肉に落ちる。

 その瞬間、死んだ魚のようだった彼女の目が、カッと見開かれた。


「こ、これは……アビス・ドラゴンの肉!?」


「え、あ、はい。そうですけど……」


「嘘でしょ!? 市場価格だとキロ数万円はくだらない超高級食材じゃない! しかもこの霜降り具合……最高ランクの部位!?」


 四谷は光の速さで竜肉を奪った。

 さきほどまでの殺気は消え失せ、艶やかな竜肉にうっとりしている。


(まさかキロ数万円もするとは……!)


 アビス・ドラゴンの肉が高いことは、マリンに聞いたので知っていた。

 しかし、市場価格の高さは俺の予想を遥かに上回っていた。

 やはり東京はバグっている。


「あ、あの、これで許していただけますか?」


「許す! 全然許す! むしろもっと騒いでいいわよ!」


 なんて現金な人だ。

 俺は安堵した。


「でも、これだけの肉、私一人じゃ調理しきれないし……そうだ! あんた、焼くの手伝ってよ! 一緒に食べましょ!」


「え、いいんですか?」


「もちろん! さあ、入って入って!」


 俺はホイホイと202号室へと足を踏み入れた。


「これは……すごい部屋ですね」


 部屋の中は、足の踏み場もないほど散らかっていた。

 脱ぎ散らかした服、コンビニ弁当の空き容器、仕事の書類と思われる紙束……。

 典型的な「汚部屋」である。


「あー、ごめんねー。ちょっと片付いてなくて」


「とても『ちょっと』どころではないような……」


 四谷は足元の服を蹴飛ばしてスペースを作ると、俺を座らせた。


「私は四谷キョウコ。しがないダンジョン管理局の職員よ。お肉のお礼に『キョウコさん』って呼ぶことを許可しよう!」


「ダンジョン管理局?」


「官僚と同じで、ブラック労働が常態化している国家公務員よ」


「そうなんですか。それで、ダンジョン管理局って何ですか?」


「え、知らないの?」


 キョウコさんが簡単に教えてくれた。

 ダンジョン管理局とは、全国のダンジョンを管理する国の機関だ。

 同時に、一般的なダンジョンの運営も行っている。


 一般的なダンジョンとは、誰でも自由に出入りできるダンジョンのこと。

 例えば、ここ暁区の場合、駅前の巨大な建造物が該当する。

 細かい作業内容は不明だが、彼女の様子を見る限り激務なのは確実だ。


「すごい仕事なんですね」


「すごくなんかないわよ。毎日毎日、書類とクレームの山……。おかげで婚期は遅れる一方だわ」


 キョウコさんは自虐的に笑いながら、ホットプレートを用意した。


 俺が肉を切り分け、鉄板に乗せる。

 ジュワァァァ……という音と共に、極上の脂の香りが部屋に充満した。


「んん?! いい匂い! いただきまーす!」


 キョウコさんは焼けた肉を口に運び、恍惚の表情を浮かべる。


「おいしぃぃぃぃ! 何これ、溶ける! 口の中で脂が溶けていくわ!」


「それはよかったです」


「んんっ、最高! 生き返るぅぅ!」


 キョウコさんが次々と肉を口に運んでいく。

 俺も食べようと箸を伸ばすのだが――。


「あ、その肉、私の!」


 ――そのたびに奪われてしまう。

 結局、俺は肉を焼くだけの係となり、一口も食べられなかった。


「ふぅ……食べた食べた。満足だわ」


 全ての肉を平らげ、キョウコさんは満足げに自分のお腹をさすった。

 その豊満な胸が、呼吸に合わせて上下に揺れる。


「……朝比奈くん、さっきから私の胸ばっかり見ているよね?」


「い、いや、その、立派だなと思いまして、すみません……」


「ふふっ、素直でよろしい。お肉のお礼ってことで、特別に揉ませてあげようか?」


 キョウコさんがニヤリと笑う。


「えっ! いいんすか!?」


 俺は思わず前のめりになった。

 童貞にとって、その誘いは悪魔的な魅力を放っていた。


「うっそー♪ 冗談に決まってるでしょ」


 キョウコさんはケラケラと笑い、俺の額を指で小突いた。


「がっくり……」


「でもまあ、また貴重な食材を持ってきてくれるなら、いつかOKしちゃうかも?」


「マジっすか!?」


 キョウコさんが意味深なウインクをする。


(……餌付けだ。餌付けをするしかない)


 俺はこの日、新たな目標を立てた。

 ダンジョンで美味い食材を手に入れ、このHカップ美女に貢ぐ――。

 そうすれば、いつか夢のおっぱい揉み放題イベントが発生するかもしれない。

 嗚呼、東京は最高だ。


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