012 エリートからの挑戦状②
学園が管理するダンジョンは複数ある。
難易度順にA、B、Cの三段階があり、ポイント競争では同じダンジョンを使う。
「当然ながら僕は最高難度のAランクを希望する!」
「なら、それで」
ということで、俺たちはAランクのダンジョンで勝負することになった。
ゲートを通り、さっそくダンジョンに向かう。
「なんだここ……暑いな」
Aランクダンジョンは、溶岩と岩場で構成された灼熱地帯だった。
至る所にマグマが流れており、移動するだけでも一苦労だ。
「どうした? 朝比奈、ずいぶんと暑そうだな! 耐熱魔法もまともに使えないあたり、さすがはF組といったところか! 僕の敵じゃないな!」
桐生院が勝ち誇ったように俺を見る。
奴は耐熱魔法とやらを使っているらしく、実に涼しそうだ。
(桐生院の全身が青白く光っている……。おそらく、あれが耐熱魔法の効果なんだろう)
そう思いつつ、俺は先を促した。
「時間が惜しい。始めようぜ」
「勝負はAIが取り仕切るんだ。僕に言われても困る」
そう言うと、桐生院は「アディオス!」と去っていく。
俺から離れて戦うようだ。
取り巻きの生徒たちも桐生院の後ろについていく。
他の野次馬はというと、半々に分かれていた。
桐生院についていく者もいれば、俺の後ろで突っ立っている者もいる。
「桐生院さんに挑むなんて馬鹿な奴だぜ」
「さすがはF組だな!」
エリートどもの嘲笑が聞こえてくる。
全ての野次馬が同じ調子かと思ったが、そうでもなかった。
「俺は朝比奈が勝つと思うな」
「同感だ。なんたってレイコ先生より強いんだからな!」
「それに奴はアビス・ドラゴンをワンパンで沈めたジャージ男だ!」
「「「ジャージ! ジャージ!」」」
俺を応援する声も少なからず存在していた。
掛け声が「ジャージ!」というのは気になるところだ。
特にジャージを着ていない今は、なおさら違和感がある。
『それではカウントダウンを開始します』
どこからともなくドローンが現れた。
桐生院が言っていたAIとはこれのことだろう。
さらに、上空に巨大なホログラムモニターが表示される。
そこには俺と桐生院の名前、そしてスコアが表示されていた。
今は互いに0ポイントだ。
『カウント、3、2、1――勝負開始!』
機械音声の合図とともに、桐生院が動き始めた。
どこからともなく杖を取り出し、岩盤から飛び出てきた溶岩トカゲに向ける。
「見せてやろう、首席の実力を! 氷槍乱舞!」
桐生院の杖から無数の氷の槍が放たれた。
それらは溶岩トカゲに降り注ぎ、いとも容易く粉砕する。
「さすがは桐生院さん!」
「半端ねぇ強さっす!」
「学生レベルじゃないっすよ!」
取り巻きたちがおだてる。
俺のそばにいる野次馬たちも「おお!」と歓声を上げていた。
「フハハハ! どうだ朝比奈! これが格の違いというやつだ!」
桐生院が高笑いする。
スコアが変動し、桐生院が10ポイントを獲得した。
その後も魔法による範囲攻撃でガンガン点数を稼いでいく。
「ザコ相手に大げさな戦い方をする奴だ」
とはいえ、初めて見る魔法は新鮮で面白い。
できれば俺も、野次馬と一緒に桐生院の戦闘を眺めていたかった。
しかし、勝負中なのでそうもいかない。
「俺は魔法なんて使えないし……素手でいくか」
俺はマグマの溜まり場に向かって歩き出した。
「ジャージ男が動き出したぞ!」
「何をする気だ!?」
皆がざわつく中――。
「おりゃ!」
――俺はマグマに右手を突っ込んだ。
「「「は……?」」」
会場が静まり返る。
「さすがにちょっと熱いな」
マグマの中を手でまさぐり、潜んでいる魔物を引きずり出す。
「グェェェェ!」
俺が捕まえたのは、全長2メートル級の魚型モンスターだ。
アフリカに生息していそうな面構えで、凶暴な牙を備えている。
「朝比奈の奴、マグマに腕を突っ込んで魔物を引きずり出したぞ!?」
「正気の沙汰じゃねぇ!」
「ていうか、人間業じゃねぇ!」
野次馬たちが騒ぐ。
桐生院と取り巻きたちも、驚いた様子でこちらを見ている。
「なかなか美味そうだが……今はレース中だから丁寧に捌く時間はない」
ということで、暴れる魚の頭を握りつぶした。
グチャッと嫌な音が響き、ポタポタと魔物の血が垂れる。
頭部を潰したのだから、当然ながら敵は即死だった。
「お、魔石だ」
魔物の体内から魔石が排出される。
だが、拾い上げようとした瞬間、魔石は光となって消えた。
「なんだ? 魔石が消えたぞ」
『このダンジョンで手に入る魔石は、全て暁冒険者学園のエネルギーに変換されますのでご了承ください』
俺に追従している審判ドローンが何やら教えてくれた。
それと同時に、俺に10ポイントが加算される。
「ふむ、これでポイントが入るのか」
仕組みはわかった。
だが、俺には引っかかることがあった。
「……おい、AI。魔石が学校に吸収されるってことは、ここでどれだけ敵を倒してもお金にはならないってことか?」
『さようでございます。どうぞご安心して競争に集中してくださいませ』
「最悪じゃねぇか!」
何が「安心して競争に集中しろ」だ。
途端にやる気が失せてしまった。
「どうした? 僕はこの通り絶好調だぞ!」
桐生院が大声で煽ってくる。
(やる気はしないが、あのカスに負けるわけにもいかん)
俺はため息をついた。
「仕方ない。今回だけ頑張るか」
少しだけ本気で戦うことにした。
ダンジョン内を駆け回り、目につく魔物をすべて殴り殺す。
このダンジョンの敵も例に漏れずザコなので、種類にかかわらずワンパンで済んだ。
それによって、上空に表示された俺のスコアも怒涛の上昇を見せる。
「なんなんだ、あの強さは!? 僕の魔法とは比べものにならない効率じゃないか……」
桐生院が呆然としている。
彼の取り巻きや他の野次馬たちも同じような反応を示していた。
開いた口が塞がらないといった様子だ。
そして――。
『そこまで』
ドローンが戦闘終了を告げる。
腕に付着した溶岩を払い落としながらスコアボードを見上げた。
桐生院ハク:450ポイント
朝比奈迅:73810ポイント
圧倒的な差だ。
桐生院も頑張っていたようだが、俺の足元にも及ばなかった。
「そんな……この僕が……F組の落ちこぼれに負けるなんて……」
「さて、約束どおり、土下座してもらおうか」
俺は呆然と立ち尽くす桐生院に近づいた。
「あ、あ、あ……」
桐生院は顔面蒼白になり、後ずさる。
「化け物……いや、悪魔だ……!」
「失礼な奴だな。俺はF組の落ちこぼれだぞ。お前もそう言っていたじゃないか」
俺が一歩踏み出すと、桐生院は悲鳴を上げて背を向けた。
「お、覚えてろよおおおおおお!」
桐生院は捨て台詞を残し、脱兎のごとく逃げ出した。
あまりの速さに、土下座をさせる暇もなかった。
「……ちっ、逃げ足だけは速いな」
まあいい。
誰がどう見ても俺の勝利だ。
それだけで十分だろう。
俺は「ふぅ」と一息つくと、ダンジョンを出ることにした。
すでに多くの野次馬が引き揚げているが――。
「迅、お疲れ様」
――ルナは待っていてくれた。
額に汗を浮かべながら、手にタオルを持っている。
「本当に疲れたよ。もっと張り合いのある奴かと思って頑張りすぎたな。途中でスコアボードを確認しておくべきだった」
「……ん。でも、おかげでいいデータが取れた。あと、やっぱり迅は別格」
ルナが満足げに頷き、俺の顔についた煤をタオルで拭ってくれる。
俺の荒んだ心が少しだけ癒やされた。
今回の一件は、瞬く間に知れ渡った。
おかげで喧嘩を売られることはなくなったが、さらに目立ってしまったことは言うまでもない。
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