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尽くしたがりのつくしさん  作者: マノイ
第二章

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24/29

第24話 勉強がとても大事な業界だ。それはどこの業界も一緒か

「佐野さ~ん。これ本当に覚えなきゃダメッスか? 分散システムはやらないつもりなんでスよね?」


 超分厚い技術書を枕にして丑岡が不満を漏らす。その本、表紙が固いから顔が痛いだろ。


「やるやらないは関係ない。関連技術なんだから知っておくに損はないからな。それにやらないつもりだが強引にやらされる可能性の方がまだ高いんだ。しっかり勉強しろ」

「うううう、難しいッス。難しすぎるッス」

「まぁ簡単ではないな。でも役に立つことは保証する」

「どうしてそんなことが言い切れるッスか?」

「前に俺が提案した新機能、その本を勉強している時に思いついたからだ」

「マジッスか!」


 そしてその機能は俺らの製品の目玉機能として愛されている。俺がこの会社で出した大きな成果の一つだ。これがあったから早めに主任に上がれたのではとも思っている。


「どうしても分からなかったら他の本を探したりネットで調べろ。技術書って表現が独特だから合う合わないがある」

「そうなんスよ!どうしてこんな分かりにくい表現なんスか!」

「はは、不思議だよなぁ。文体は普通なのにな」


 全部理解して最初から読み直すと、こんな単純な話だったのかと驚くことがある。こんな単純な話で理解できているのに、どうして相変わらず難しく感じられるのだろうって思うこともある。なんでなのかは知らんが、技術を学ぶ上での宿命だろうなと俺は勝手に思っている。


「俺もSaaSの方を勉強したいッス。晴着さんが羨ましいッス」

「何言ってる。晴着さんはとっくにその本を読み終えてるからSaaSの勉強をしてもらってるんだ。お前にはSaaSも勉強してもらうから早く理解しろよ」

「マジッスか!?きついッス!」

「でもやれ。分散の方は基礎勉強も兼ねてるから本当に不要になったら終わらせる。必ずしもすぐに全部理解する必要は無いから安心しろ。といってもそれじゃあやる気が出ないだろうから、新しいアイデアを必ず一つは考えろ」

「難易度激増してるッス!」


 はは、このくらい部長の指導に比べたら温いものだぞ。


「丑岡。早くやりなさい」

「晴着さんまで!?」

「早くそっちを終わらせてSaaSの勉強をやってもらわなきゃ困る」

「どうしてッスか?」

「それは多分、南雲さんや佐野さんが、私達にSaaSを任せようと考えいるから」


 おお凄い。

 良く分かったな。


 確かにそんな話をしているが、まだ確定じゃないから伝えていないのに。


「佐野さん、どういうことッスか? SaaSもやりたくないって話ッスよね」

「藤堂さんのところと一緒にはな」

「え……他と組むなんてことがありえるんスか?」

「違う違う。俺達だけでやるならアリだと思ってるんだよ」

「え!?そんなこと出来るッスか!? うちって開発チームッスよね!?」


 その通りだ。

 親会社から発注を受けて開発を行うチームが俺達のところ。その認識は間違いない。


「だからといってSaaSを独自に提供しちゃダメなんてことはないだろ」

「…………そういうものッスか?」

「会社のために何ができるのか。言われたままに仕事をして、現状がいつまでも続くと思っていたら大間違いだ。常に様々な視点で新しい仕事を考えることを、少しずつできるようになれよ」


 これも部長からの受け売りだ。そして部長が次々と成果を出して出世した源となる考え方。

 仕事なんていくらあっても構わないんだ。常に選りすぐりが出来るくらいの量の仕事があるように日頃から考えることがチームを長続きさせる秘訣なんだってさ。


「はぇ~、佐野さんが偉い人に見えるッス」

「そうだろうそうだろう。大いに敬え」

「一瞬で小物に見えたッス」

「おい」


 そんなことくらい俺自身が分かってるわ。少しくらい調子に乗って夢見させてくれても構わないだろ。


「でも、どうしてSaaSを俺達がやるならOKなんスか?」

「会社の規模の問題だ」

「規模?」

「SaaSを提供すれば使ってくれる企業はいくつかは増えると思う。だが、どうしても単価が安くなってしまう。親会社の事業規模には見合わないんだよ」

「はぇ~」


 うちでも見合わないくらいだ。そこは大量に使って貰えるように考えることでギリギリ見合うくらいにする予定だが。


「もちろんそもそもSaaSに向いてない製品っていうのもある。だからどういうSaaSとして提供すれば効果的なのかってのも考えての開発が必要になるだろう」

「それが結構大変だから、丑岡にも早く考えてもらいたい」

「なら今すぐにでも……あ、分散がまだ無くなったわけじゃなかったッスね……」

「そうだ。お前も出向して来た人を見ただろ」

「南雲さんと全く会話が通じて無かったッス」


 俺達に分散システムをやらせるために送られてきたのが、部長よりも地位が上の事業部長。技術畑出身の人で、凄いこだわりがあるらしく、部長や南雲さんと話が全く嚙み合わず説得が出来なかった。


 分散システムがあればより複雑なことが実現可能って思い込んでいるらしいけど、その『複雑なこと』がうちの製品のお客様に求められていないんだよなぁ。営業のヒアリング結果とかからも明らかなのに、どうしてそこまで自信が持てるのか。


「どうするつもりッスか? あれじゃあ分散やるしか無いッスよね」

「そこは任せておけ」

「もしかして、今佐野さんが読んでるソレが切り札ッスか?」

「これか? これはその切り札について調べている時に見つけた別の技術論文だ。勉強になりそうだから読んでる」

「勉強……どうしたらやる気が出るッスかね」


 自分のキャリア形成のモチベーションが高い場合は自分で積極的に勉強するかもしれないが、そうでない人の方が多いだろう。そういう人は何をどうやって勉強すれば良いか分からないことがある。かくいう俺もそうだった。


「簡単な話だ。勉強じゃなくて仕事だと思えば良い」

「仕事ッスか?」

「そうだ。この前の開発でOSSを流用して分からないことがあった時、お前はどうした?」

「ネットとかで調べたッス」

「それと同じさ。分からないことがあったら調べる。自分の仕事に関係しそうな情報を見つけたら調べる。分散だって今回の開発では不要だけど、いずれは使うかもしれないくらいには感じてるだろ。だったら目についた時とかに調べるのさ」


 そうやって少しずつ知識を広げることで、いつの間にか様々なことが出来るようになっている。


「それだけで良いッスかね?」

「それだけ、すらやってなかっただろ?」

「う……確かに使うかもって思ってもそのままスルーしてたッス」

「まずはそこの意識を変えるところからで良いんじゃないかな」

「分かりました。流石佐野さんッス。頼りになるッス」


 頼りになるのは俺じゃなくて部長なんだよなぁ。

 部長がいなかったら俺は全く成長しなかったんじゃないかって思えるよ。


「ちなみに佐野さんが読んでいるのは……げ、英語ッスか……」

「IT業界の技術論文なんて大体が英語だよ。でも今の時代はAIがあるから簡単に要約出来て楽だろ」


 論文は公開情報だからAIに喰わせるのに抵抗ないし、正確じゃなくても大まかな内容を最初に調べられるのはかなりの時間短縮に繋がる。便利な世の中になったものだ。


「佐野さん、どうぞ」

「おっ、サンキュ」


 丑岡を指導していたら、いつものようにつくしがお茶を淹れてくれた。今日は甘さたっぷりのコーヒーだ。論文読んでかなり頭を使ったから糖分助かるわ。


「真心さんの進捗はどう?」

「六割……四割……うう~ん、しっくり来なくて悩んでます」

「手伝おうか?」

「いえ、もう少しやらせてください。どうしてもダメそうだったら佐野さんか部長に相談しますので」

「ああ、頼むぞ」

「はい!」


 頼りにしているとはっきり口にすることでつくしはやる気が増大するタイプだ。

 実力的にも申し分ないし、これでどうにかなるだろう。


「そういえば真心さんって何をやってるんスか?勉強は俺と晴着さんだけッスよね?」

「例の切り札に関する資料を作ってもらってる。彼女は『相手を喜ばせる』ことが得意だからな」


 つくし的には『俺を喜ばせたい』って思ってそうだが、公私混同はしない。単純に能力で考えた時、彼女にはそういう力があるって話というだけのこと。だから実はつくしは技術職よりも営業職の方が向いてると思ってる。


 俺がここにいる以上、絶対に異動なんてしないし、しろと言われても拒否するだろうがな。

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