第16話 クリスマスに休暇取る人って案外少ないよな
「佐野さん、二十五日に有給取りたいッスけど良いッスか?」
「その瞬間、職場の時が止まった」
「何言ってるんスか!?」
しまった、あまりに衝撃的で思わず口に出してしまった。
「だって丑岡、お前彼女いないだろ」
「ぜっっっっっったいに言われると思ったッス!」
「なんだ冗談か」
「最近扱いが前より酷くなってるッス……」
だってお前そういうの喜ぶじゃん。
こんなパワハラ紛いなこと、お前以外にはやらんよ。
「丑岡、見栄を張る必要なんてないぞ」
「違いますよ晴着さん、丑岡さんは一人でクリスマスパーティーをしたいんですよ」
「晴着さんも真心さんも酷いッス!そんなんじゃないッス!」
「ここまでテンプレ」
「佐野さんが一番酷いッス!」
たまには違う方向でボケてみたくなっただけじゃないか。
「冗談はさておき、俺に許可なんて取らなくて良いぞ。出荷も終わって繁忙期じゃないんだから」
開発が遅れて全員が毎日残業して必死になっている時ならまだしも、平時に有給取得の確認なんてする必要ないし、部長からもするな聞くなと指示がある。
それに俺は繁忙期だろうが緊急の休みがあっても良いようにスケジュール管理しているし、そのことをチームメンバーに共有してある。
それなのにどうしてこいつは許可を求めて来たんだ。
「だって佐野さんと真心さんも休みそうだったから、三人も休むのはダメかなって思って……」
あ、馬鹿。
そんなんだからモテないんだよ。
「丑岡」
「ひいっ! ごめんなさいッス! 晴着さんも休むかもしれなかったッスね!」
晴着さんを除いたら彼女がモテないって断言しているようなものだからな。流石に失礼だ。
「今のところ俺も真心さんも休むつもりはないから気にしなくて良いぞ。それに別に全員休んだって構わんさ」
流石にその場合は課長に伝えて親会社から急ぎの連絡があった時なんかは対応してもらう必要があるが……いや、課長ももしかしたら休むのか? なんか若い彼女がいるって噂があるし。あの仕事人間の課長が? マジで?
「どうしたッスか?」
「いや、なんでもない。それともう一つ、俺と真心さんはまだ休むと決めてないからな」
会社では真心さんと呼ぶようにしている。恥ずかしいとかではなく、単に公私混同しすぎないようにと自重するためだ。
それなのに初デートの日以来、つくしがスーツで出社するようになりやがった。もちろん俺の好みに合わせている。俺が無意識でスーツ女子、というかワイシャツ女子が好きだってことに気付いたようだ。
流石に会社で興奮するような馬鹿では無いが、目の保養として楽しませてもらっている。これじゃあセクハラ親父じゃないかと思わなくも無いが、もう知らん。仕事に支障が出ないなら素直に好意を受け取り自分の気持ちに素直になるって決めたんだ。
「ええ!? どうしてッスか!? 一番休まなきゃならない日じゃないッスか!」
「別にそんなルールはないだろ」
「いや、だって……なんでもないッス」
ナニを想像したのかは直ぐに分かったが、口にせず自重したので黙っておこう。飲み会ならまだしも、会社でする話では無い。
でも丑岡が考えたことは正しいんだよな。
初デートのことを考えると、イブの夜を共に過ごしたら翌日出社出来る気がしない。つくしのことだ、やるとなったらミニスカサンタとかで煽ってくるだろうしな。それならクリスマス当日は休むべきだと思う。
それでも休まないのは、やるという話には絶対にならないから。
つくしの身体がそういう時期だから、とだけ言っておこう。
「ということで休みたいなら好きにしな」
「分かったッス」
「俺としては晴着さんこそ休むべきだと思うけど」
「私ですか?」
不思議そうな顔をしているが、その反応にこっちの方が不思議そうな顔をしたいわ
「だって目の下に隈が出来てるぞ。相当疲れてるんじゃないか」
「あ……あはは……」
普段は毅然とした態度が多い晴着さんにしては珍しく苦笑している。誤魔化そうとするとからしくないな。
「趣味のことに口出す気はないし、晴着さんのことだから仕事に影響が出るようなことはしないとも思ってる。でも単純に体調が心配だから仕事忙しくないことだし休んだらどうだ?なんならもう年末休暇に入って良いぞ」
有給沢山残ってるはずだし、むしろそうしてくれた方が俺としては気が楽で助かる。
「いえ、出来れば出社したいのですが……」
「そうか……無理だけはするなよ」
「はい。というか、休んでしまうと多分休まないので、会社にいた方が休めるんです」
「なんじゃそりゃ」
寝る間も惜しんで趣味に没頭してしまうから、会社というストッパーが欲しいってことなのかね。それだけ打ち込める趣味があるというのは素直に羨ましい。
「あの!」
丑岡が晴着さんに話しかける。
その内容は俺達がずっと気になっていたけれど聞けなかったものだ。
「もう我慢できないッス。晴着さんが夏と年末に何をしているのか教えて欲しいッス」
あ~あ、聞いちゃった。
晴着さんの聖域に踏み込む度胸があるとは、やるな。
「…………」
「ひいっ!ごめんなさいッス!」
でも睨まれて即行で諦めやがった。意気地の無い奴め。
「違う。怒ってない。疲れてるからそう見えただけ」
「そ、そうッスか?」
だろうな。晴着さんは聞かれただけで怒るような人間じゃない。むしろ興味を持たれて構われたら嬉しいと思うタイプだ。
「それと、教えても良いけど笑わないで」
「笑わないッス!」
「といいつつ笑ってしまう丑岡であった」
「今日はなんなんスか!?」
「通勤中に読んでたネット小説で使われてたモノローグネタが超面白くてやってみたかった」
「え、マジッスか? 後で教えて欲しいッス」
「分かったから、俺より晴着さんと話をしろ」
「あ、そうッス!笑わないから教えて欲しいッス!」
そもそも会話の邪魔をしたのは俺だがな。
反省はしていない。
「実は……コミケに参加してるの」
知ってた。
いやだって盆と年末だぞ。しかもIT業界なんてオタクだらけ。真っ先に思いつくのがコミケだろ。
「コミケ!良いッスね!いつか行きたいと思ってたッス!」
「行かなくて良い」
「どうしてッスか!」
「絶対に行かないで」
「理不尽ッス!」
そりゃあお前、会いたくないからだろ。どんなジャンルで参加してるか分からないけど、恥ずかしいからだろ。
「佐野さんはコミケ行ったことあるッスか?」
「俺か? 学生時代に二回行ったな」
しかも友達に付き合わされて始発でな。
あれは地獄だった……
「その話聞いてみたいです!」
「お、いいッスね真心さん。俺も聞きたいッス」
「別に構わないが、タイムアップだ。そろそろ仕事に戻れ」
気付いたらそれなりに長い間雑談していた。仕事が暇な時期とはいえ、これ以上は止めておくのが無難なところだろう。
「ちぇっ、そうッスね。でも後で教えてくださいッスよ。真心さんだけに教えるとか無しッスよ」
「はいはい分かった分かった」
「私がいるところでお願いします」
「晴着さんもか。まぁ参加する程好きなら興味はあるか。分かったよ」
変な約束をしてしまったが、いつにしようか。そろそろ今年は終わるし、出社日は片手で数えられる程しかない。来年に引き延ばすのもタイミングを逃した感じがするし、かといって昼にご飯を誘おうにも晴着さんがグロッキーで昼休みは寝たいだろう。
まぁそんなのは後で考えれば良いか。
それよりもコミケだ。行くつもりは全く無いが、コミケの話題が出るとつい考えてしまうな。
つくしのコスプレ姿を。
可愛いし、スタイルも良いし、似合うだろうな。
そんなことを言ったら喜んでやってくれるだろうが、理性を保てる自信が無い。
「ん?」
「どうしたッスか?」
「いや、なんか悪寒を感じて……」
つくしの方を見ると、首をかしげていた。どうやら俺の邪な気持ちを察して何かを念じた訳では無さそうだ。だとすると一体今のは何だったんだ?
伏線張っているように感じますが、今のところ使うかどうか分からない(使うところまで連載が続くか分からない)伏線です。




