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θ16

「サイオスさん、貴方どなたでもそうやって助けるんですか?」

「まさか、君を助けたのは、俺の英雄の勘が囁きかけてきたから――――――さ!!」


 やばい……こいつは確かにアホなのはそのとおりなんだけど、ただのアホではない。やべぇアホだよ!? すでに関わりたくない。見た目からして冒険者っぽいが……でも冒険者ならパーティー組んだりするのが普通だ。一人でやってる奴は大体訳あり。超強い奴もたまにいるけど、だからって蛇やグルダフとかに勝てるような奴がいるかというと、まあいないかな? 決して弱くはないし、どこかでは蛇やグルダフを超えてる部分を持つ奴もいるとは思う。


 けどさ、素の身体能力と更には同じ装備ともなると、差は技術とかになっちゃうわけで……無理ゲーだよね。まあグルダフにはわんちゃんあるよ。けど蛇にはワンモアさえないね。そして目の前のこの……なんだっけ? サイオスがその超強い部類に入るかと思えるかといえば……全然そんなことおもえない。


(いや、けど今の身のこなしはすごかった気がする)


 だって四・五人の兵士を一気に倒したんだよ。それを考えると冒険者の中でも上の方へ行くかも。じゃあもしかして超強い部類で一人なのか? いや、色々と結論出すのは少し話してからでもいっか。うざそうだけど、少しは我慢しよう。


「英雄の勘ですか?」

「ああ、俺は大胆勘で生きてきた。その勘が君を助けろといったんだ。なに、お礼はいらない」


 なんだろう……助けてもらってなんだけどさ……そこはかとなくイラっとする。うん、イラっとする。このサイオスさんは冒険者にしては小綺麗な方だし、身だしなみにも気を使ってそうな感じはちゃんとある。普通なら、好印象を持ってもおかしくないとおもう。顔だって人種の平均以上。結構モテててもおかしくない。なのに一人? いや、まだ一人とわかったわけじゃない。


「お一人なんですか?」

「英雄は孤独なものさ」


 うん、絶対にこいつ友達いないね。確信持った。だってやっぱそこはかとなくイラっとするもん。私が外面モードじゃなかったら、とりあえず股間を蹴ってるところだよ。


「えーと……それじゃ」


 お礼はいらないとか言ってたし、別にこれでいいよね。そう思っていこうとしたら止められた。


「君は助けを必要としてるんじゃないのかい? それにふさわしい男がここにいる!」


 うっわ暑苦しい。なんなのこの人? ちょっと何言ってるかわかんないよ。


「いえ、間に合ってます」


 私にはたくさんの駒がいるのだ。今は誰も使えないけどさ……わたしはアホを使おうとは思わない。私は自身の益になりえる奴を使うんだよ。この人……サイオスさんは……正直トラブルを運んできそうな気がする。


「俺は君を見てビビッと来た。君は違うのか!?」


 なんかいちいち劇団臭いなこの人。まあだからこそ暑苦しいんだろうけど。


「まあビビッとは来ましたよ」


 アホだなってね。けどそれをいい方向に勝手に解釈したのか、サイオスさんはさらに攻めてくる。


「俺たちの出会いは運命かもしれない」

「は?」


 私は思わず冷めた声でそんな声を出した。やばいやばい、外面がはがれかけたよ。だって運命って、私は告白されてるの? 屋根の上で? まあ見晴らしはわるくないけどね。でも、わけわからないし、なによりきもいよね。

 そんな私の剥がれかけた外面のうちにある内面が顔を覗かせたのに焦ったのか、サイオスさんは腕を前に振って顔を赤くしながらこう言った。


「いや、すまない。別に君を好きなわけじゃないんだ。いや、ほんと! そんな気は毛頭ない! すまない! 俺はそう英雄なんだ」


 最後の言葉は意味わかんないけど、とりあえずなんで私がフラれたみたいになってんだあああああ!! この私を振られた気にさせるとはやるじゃんサイオス!! 私はこの男をどうやって八つ裂きにしようか思案する。とりあえず冤罪を作って監獄にぶち込むか? 私なら鶴の一声で楽勝である。そのあとは散々いたぶって変な勘違いが二度とできない思考回路に組み替えよう、そうしよう。そんな事を考えてると、ポリポリとサイオスは頬をかきながら照れながらこう言った。


「君のその髪……ラーゼ様にそっくりなんだ。俺は……あの人が大好きなんだよ」


 あれ? なにこれ? やっぱり私、告白されてない? でもでもサイオスは冤罪で監獄送りだからそれは……でもそれはやめてもいいかもしれない。なんか私のファンみたいだし。向こうは私の事には気づいてない。けど、私の事を……ラーゼのどこが好きなのかをいつもの勢いではなくて、まさに恋する男子の手本の様に初々しく語ってくる。それを聞く本人としては……こう気恥ずかしくて……私たちの空間は変な空気に包まれてる。


 さっきまであんなにうざかったのに……私の事をほめるこいつがちょっとかわいく見える。ええ……こっちまで照れてきちゃうんですけど。そして一通り語り終えたのだろう……最後にサイオスは力強くこういった。


「だからこそ、俺が……英雄である俺こそが彼女にふさわしい。あの人は今も俺のことを待ってるはずだ! そうだろ!?」

「いえ、全くそんなことないですね」


 何言ってんだこいつ? 的な感情をこめて私はとっさにサイオスの言葉を否定してた。私たちの間にあった甘い空気は消え去った。

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