θ15
「なんで、なんでこうなった!?」
私は屋根の上を走りながらそんなことを叫ぶ。だってなんで私が私の領で私が雇ってるような兵士に追いかけられなくちゃいけないわけ? おかしくない? 絶対におかしいよね!? けど逃走中な私はそんな弁明できない訳で、既に逃走したから今から正体ばらすのも癪じゃん。なのでこのまま逃げ切ってやるのが理想だ。
「げっ」
なんと軽々兵士たちが追いかけて来てるんですけど!?
「て、そっかアトラス……」
そう、あれから二年。フェアリー部隊にしか支給できなかったアトラスもかなりの兵に領に卸してる。この領に至ってはアトラスは基本支給品だ。今思う……なぜにそこまでふとっぱらな事をしたのかと! けど必要だと思ったんだもん。そしてそんな私を崇める領民達を見て悦に入りたかったんだもん。その思いは達成されたから悔いはない。それに道具はただあっても宝の持ち腐れにしかならない。まあ他の領では余るほどにあるわけないけど、ここでは実験的な試作品も卸してるからね。案外ある。
それに試作品は使ってなんぼなんだから使わせないとね。そうやってここの技術は飛躍的に発展したといっていい。偉い人たちはすぐに隠したがるから、歩みが遅くなるんだよね。まあ気持ちはわからなくもないよ。自分だけが持ってる優越感……そういうのはたしかにある。けど私はすでにそれがあるからね。しかも最高峰のものを所持してる。私は私という宝を所持してるのだ。なので別段他のことはどうでもいい。
アトラスはこの領のひいては人種の戦力増強に役に立つとはおもったけど、自分の脅威になるとは思いもしなかったよ。
「く、苦しい」
後ろから甲高い笛の音と、そして野太い男の声が次々と迫ってる。なのに私の体力はすでに限界値に達してた。いやはや、普段運動なんてあんまりやらないからね。それでも私はスタイルが変わらないし、成長してくごとにその美しさに磨きがかかってるレベルなんだけどね。でもだからこそ体力はどうにもなってないみたい。さすがにこれまでは自然に増えることはないようだ。いや、成長とともに体力だって増えてるはずだけど、普通に鍛えてる男性以上にあるわけない。だってなにもしてないし。
マナならほぼ無限にあるようなものなのに口惜しいとはこのことだよ。
「はうはう……このままじゃ……やばい」
このままじゃ逃げ切れないよ。かといって私が銃をぶっ放すと街のかなりの部分が消し炭に……てか流石にこれでころすのは忍びない。だって最悪捕まっても正体明かせばどうにかなるからね。私は自分が一番大事だけどさ、ほかの人のこともほんのし少しは想ってるからね。私の走りはどんどんと遅くなって、次第に足が止まる。キラキラとした汗はきっと浄水された水よりもおいしいことでしょう。あほな事を言ってるわけじゃないよ。
私から出るものは大体美味しいらしい。これはちゃんとした証言があることです。まあ自分で舐めてみてもわかんないんだけどね。立ち止まった私を取り囲む兵士の皆さん。
「き……君にはまだ釈明の機会が残されている。てっ、抵抗しなければ罪は軽くなるかもしれんぞ」
なにやらそわそわしてる兵士の人達。顔は隠してるけど、私の美貌の影響かな? 見えなくても、私が超絶かわいいとわかってしまうんだろう。そしてそんな私がはあはあしてるのがえっちいみたい。
(ここまで……かな?)
早すぎる逃亡劇の終焉に私はちょっと消化不良だ。けどこの人たちは真面目に仕事をしてるだけ。消し炭にすることはできない。今回はしょうがない。今度はもっとうまくやろう。
「拘束……させてもらうぞ」
そう言ってにじり寄ってくる一人の兵士。なんか鼻息荒くてきもいんですけど……もう正体明かして帰ろうかな? そう思った矢先だった。
「うお!? なんだ貴様!!」
なにやら兵士たちをあっという間に昏倒させる何者かの登場である。
「あの……貴方は?」
「俺はサイオス・デンタクルス。なんか訳ありそうだったんで押し入ってやったぜ!」
そういうサイオスは私に向かって無邪気な笑みを見せている。
(あ、こいつアホだ)
私は察した。




