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「地図とかないの?」
『ちず?』
蝶は地図がわからないようだ。色んな宇宙に侵入してたんじゃないの? まあそこでは認識されてなかったらしいが、でも観察してたのなら、色んな宇宙の知識とかも蓄積するものではないだろうか? もちろん最初は何を言ってるのか? とかわかんないと思う。
でもわたしたちには無限といえる時間がある。それなら言葉を学ぶのもできるだろう。けどそういう事はしてないのかな? 本当にただ観察してるだけなのかもしれない。どうせ誰も気づかれないし……と線引きしてるというか?
だってちょっとは知識あっておかしくないのに、この蝶本当に何も知らないもん。
「地図っていうのは、この場所をよく知るためのものだよ。貴方はここをよく知ってるんでしょ? それを他の人にも伝えるようなものかな?」
『私しかいないのに、そんなのあると?』
「…………」
確かに……である。ここには長らく、本当に長らくこの蝶しかいなかったんだろう。他にも始祖はいるんだろうけど……
「私のような存在は他にもいるんじゃない?」
始祖の龍がいるんだから他にもちょっとはいるでしょう。この宇宙の宇宙の宇宙の外……本当の外側。その場所に生命はないが、始祖はいるものではない? よくわかんないけどさ……
『そうですね。でも、皆いっちゃうから。皆自分の居場所を作っちゃう』
「なるほど……」
たしかにそれが始祖だもんね。自分の居場所を自分でゼロから作れてしまう。だからこその始祖である。始祖は全ての生命の起源で、世界の起源でそして宇宙の起源だ。始祖はそうそうにこんな何もない場所から自分の宇宙か、それかもっと別の何かを作って行ってしまうんだろう。でもそれなら……
「貴方も作ればいいんじゃない? 居場所、作ってないの?」
だってここにいるんだよね? ならば同じような存在なんだと思うんだけど……とてつもないエネルギーだって感じるよ? この蝶にも同じような力は絶対にある。ならば、いつまでもいつまでもこの無にいる必要なんて……ね。ないと思うんだけど?
『ここが居場所だよ?』
普通にそんな風に蝶はいってきた。
「淋しいんだよね? なら、友達を作ろうとか、もっといい場所を作ろうとか思わないの?」
始祖たちはそんな風におもって自分の居場所を作ってそこにいってしまったんじゃないの? それはこの無に見切りをつけた……ともいえる。無にいても意味がないから、有を作った。
私だってそれだけの力があったらもちろんそうするよ。この蝶、ちょっとおかしいよね。




