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「我々だけでは難しいかもしれない。だが……ここにいる皆が力を合わせれば、可能性はある。聖杯はあるか?」
「それはあるけど……」
むしろ放置してるまである。今の私にはこの現宇宙の力を無限大に生み出す聖杯はそこまで重要なアイテムじゃないからね。けど敬意は払ってるからね。だって聖杯は私を大きく支えてくれた。
だからこそ、大切にはしてる。私は恩を蔑ろになんかしないから。ゼンマイは私達を観てる。その試験管のような顔。そしてその中にある無数の瞳が私達一人ひとりをみてる。
「ならばその聖杯を取り込むことを許可してもらおう」
「聖杯を取り込む? 聖杯の生み出すエネルギーをすべて得たいって事?」
「不満か? 確かにこの狭い宇宙にとって聖杯のエネルギーは不可欠だろう。それはわかる」
「あっ、いや……」
私は別にそんな事は……と思ったけど、ゼンマイは私の言葉を聞かずに話し続ける。
「だが今は緊急事態だ。始祖の龍はここに向かってきてる……そうだろう?」
私はそれにコクリとうなづいた。
「それならばこの宇宙も長くはない。倒す……までは無理かもしれないが、追い返す事は出来るかもしれないぞ。それに必要なのが、聖杯だ。自分の宇宙が残るんだ。聖杯の一つくらい安いものだろう。
もう近くで宇宙は残ってないんだからな」
まあ確かに普通に考えたらそうだよね。コイツラの価値観的には宇宙がないと神とは言えないわけで、自分たちの宇宙をなくしてしまったアクトパラスとゼンマイはもう神とは言えないかもしれない。
でもここにはまだ宇宙がある。私はまがりなりにも神を名乗れる。だからこそ、この宇宙の為に聖杯を差し出せ……とこいつはいってる。実際、私はこの宇宙に未練はないし、ちょっと見ればわかるが、すでに私の主要な星は新生宇宙に移ってる。だからここがすっからかん……というのはちょっと調べればわかると思う。
けど今までコイツラは私の事をほったらかしにしてたからね。そんなこともわかってない。でもそこそこなんか自信がありそうなんだよね。
何ができるのか……観てみるのもいいかもしれない。それにただ死蔵されるよりも、聖杯も最後に一つ、大きな役割を果たしたいかもしれないしね。
「いいよ。わかった。ドラグ、聖杯をここに」
私はそう言ってドラグを呼んだ。




