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Σ58

 突っ込んできた鉄血種の少女のスピードは凄まじい。ゼロから一気にトップスピードにのれるのか、移動するだけで爆発音的な音が響いてた。そしてあっという間にグルダフさんの目の前に迫った。黒光りする腕を突き刺す少女。それを喰らえばきっと胴体が二つに別れる事だろう。それだけの勢いがある。けどグルダフさんはその巨体にもかかわらずにしなやかにその突きを交わす。

 そして交差ざまにその顔に拳を叩き込む。吹き飛ぶ少女、けど今度はその衝撃を無理矢理押さえ込んで少女は反撃に転じる。その両手の武器を無造作に振り回す。けどそれがグルダフさんに当たることはない。

 

 グルダフさんは冷静だった。しっかり見て、そしてしっかりと避けてる。どうやら二人の間には決定的な実力差があるみたい。なまじ生まれ持った力が超強いから、鉄血種は適当にやっても勝ててきたんだろう。それに奴らの餌は私達人種だ。鉄血種にとって脅威になることは全然ない。それこそアンティカがあれば私達だってもってやれたんだけど……それはいいわけだよね。

 

 少女はどんどんと疲弊が目にみえてきた。このままやっても当たらないと分かってるだろうに、ムキになって少女は攻撃を続けてる。そこら辺はやっぱり見た目相応なのかも。行ける……そんな思いが湧き上がる。けどその時だった。グルダフさんの胸から、黒い塊が突き出した。

 

「ぐふっ!?」


 地面に彼の血が吐き出される。そんな……一体何で? 油断? いや、グルダフさんは油断なんてしてなかった筈だ。

 

「あはは、獣人風情が私に挑むからそうなるんだよ」


 グルダフさんに突き刺さってた黒い塊が抜かれる。それは手ではない。少女の身体を覆ってる布だ。それを硬質化させて攻撃に使ったみたい。あれは……ただの布じゃないんだ。油断はなかった……けどあれは予想外だったんだろう。

 

 グルダフさんに私は回復魔法を掛ける。卑怯じゃないよ。だって私を放置してるのが悪い。

 

「今度はお姉さんの番だよ」


 いつの間にかその目が真っ赤に成ってる少女。回復終わる前に私を食べる気だ。けどそこで、素早くグルダフさんが動く。近づいてきてた少女を組み伏せて押し倒した。

 

「今のうちに逃げろ!」

「邪魔だよ!」


 少女は自身の倍はあるであろうグルダフさんを片手で持ち上げる。もう滅茶苦茶だよ。くっ、こうなったら回復よりも攻撃だ! 私は弾丸を複数打ち出す。晒された身体に弾は当たってるけど、少女はビクともしない。

 

「この!」


 グルダフさんは持ち上げられたままたその手を絡め取って更に身体に回転を咥えて少女を投げ飛ばした。そこに更に私が弾丸を打ち込む。こうなったら全てのカードを試してやる! 

 

「美味しく……食べたかったんだけどな」


 そんな声が小さく冷たく聞こえた。本来なら、聞こえないはずの声だと思う。けど聞こえた。ゾクリと来る悪寒。私は少女の行動を見る前に前に飛んだ。グルンと回るなか後方を見るとさっきまで居た位置に少女が出てきてる。かわした……初めて。私はそのまま銃口を向けて引き金を引く。

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