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Σ49

 私たちは元来た道を戻って地図を確認しつつ進んだ。そして一つの村を発見した。小さな集落だ。私たちはとりあえず少し離れて単眼鏡で村の様子を確認する。人の姿は見えない。生きてる人の姿は……どうやらここもやられてるようだ。

 

「私達……実は凄く運がよかったんじゃ……」


 その可能性が高い。だって私たちは普通に道を走ってきたんだよ。しかもダンプはそれなりの音がする。人種が改良したダンプはかなり高性能で普通に軍では移動手段と使われてるけど、そんなのは人種のダンプくらいなんだ。他の種が使う機械式の乗り物はそれこそ兵器とかばっかりだからね。わざわざ移動するためにこんな物を作る……そんな発想がないらしい。

 

 強い種は大体身体能力高いし、人種以外の種はそんな急激に増えたりもしないらしいから、一定の住処ってのは決まってるらしい。だから移動する必要もないみたいな。まあ、一定の住処を持たない種もいるし、定期的に移動する種もいたりはするかもだけど、根付いた地で急速に増えるのは人種くらいらしい。それに他の種も序列は意識してるみたいだから、やばい所には近づかなかったりはするんだろう。

 

 けどどうしようもない時もあるよね。多分そういう時に他種族間で争いがおきたりしてるんだと思う。今はそこまでどの種も覇を争ってるって訳でもないらしいけど。けど、それが動くときは近づいてる。世界は再び動乱の時代に突入しようとしてる気がする。私たちのせいももちろんあるけど……そのたがを外すのは多分魔王という存在だと思う。

 

「普通に街道をこの侵攻してる種が通ってたら鉢会ってたからな。そうなったら、ああなってたのは俺たちだったかもしれない」


 カタヤさんの言う通りだ。一歩間違えば、私たちがああなってた。本当に本当に運がよかったと思う。十分に警戒して、私たちは集落へと近づいた。大きな丸いテントみたいなのが幾つもある。どうやら端っこの人達はみんな遊牧民的な事をやってるようだ。けどここはそれなりに緑もあるし、最初のファイラル領とは違う気がするけどね。

 

 あっちは荒野だったし……空気も汚かった。けどここは結構さわやか……今はもう血なまぐさいけどね。どうやら中も状況は同じのようだ。これは不味い……

 

「この種……このまま一気に領の中心まで行く気なんじゃ?」

「近くにもう一つ集落がある。そこも確認してみよう。とりあえず『ゼウス』に通信を入れておく。この領がどう動くかは領主次第だな」



 私たちは素早くもう一つの集落の方へと向かう。そしてそこも同じだったことを確認した。どうやら人が集まってる所を目指して進んでるのは間違いないようだ。このまま進むのなら、確実に領の中心に向かうはずだ。フェアリー部隊は軍の上層部直轄の特別部隊だから別に中心の街に陣取ってるわけでもないから、多分この種に狙われるってことはないはずだ。

 

 ゼウスはアンティカ移送のための私たちの専用空母だから今も空の上だろうしね。

 

「そうか……やはり……」


 なにやらベールさんが腕にはめたデバイスに向けて話してる。さっきからとても重苦しい感じなんだよね。まあ、この惨状で明るい奴がいたらそれこそ気が狂ってるとしかおもえないけど……

 

『マスター』

「何ゼロ?」


 私の腕のデバイスが喋ってきた。ゼロから話しかけるとは珍しい。

 

『何やらマナに異常な揺らぎを感じます』

「揺らぎ?」

『はい』

「そうなるとどうなるの?」

『わかりません』


 …………どうしろと? けど多分ゼロ的には警告のつもりなんだろう。とにかくおかしな事が目に見えない形で起きてる。それを知らせてくれたと思おう。そう思ってるとベールさんが私とカタヤさんに向かって真剣な眼差しで『聞いてくれ』という。そして二人してベールさんを見る。その手は少し震えてる? 

 

「二人とも聞いてくれ。これは……この種は多分、鉄血種だ。俺は……この殺され方をよく知ってる。そう……よくな」


 鎮痛の面持ちでベールさんは胸を押さえる。鉄血種……それは確かベールさんから全てを奪った……因縁の種族。そしてかなり上位の種。それはつまり、人種の危機という事だ。

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