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Σ42

「セラス!!」


 街へ走ると、鳴り響くデカい警報と放送で住民たちはあわただしくしてた。動きがないところへは兵士達がドアをぶち破って入ってる。悠長に寝かせとく暇なんてないからだ。混乱する住民たちに心で謝罪をしつつ、俺は見慣れたパン屋で彼女を見つけた。

 

「ベール! これは一体? 何があったの? いきなりこの街から出てけって。いきなりたたき起こされたわよ」


 だから彼女は寝巻なのか……ゆったりとした白い服が彼女を包んでる。いつもと違う油断した姿は少し艶めかしい。でもそんなセラスを眺めてる時間はない。本当はいつまでだってこの姿を眺めてたい。そしてできうる事ならそのまま……そんな思いをぐっと我慢して俺は彼女に告げるよ。

 

「少し……ほんのちょっとでいい、時間を貰えないか? 話したいことがあるんだ」

「それってベールがここの領主様の息子ってこと?」

「それを!?」

 

 知ってたのかと驚いたが、最後までいう前にセラスは俺の口をその指でふさいだ。細い彼女の指が俺の唇に触れてる……それだけでドキドキする。

 

「びっくりした? けど、私だってバカじゃないからね。そうなのかなって思ってた。それの事?」

「いや、それもあったけど……もっと大切なことだ」

「そっか……じゃあ……来て」


 そう言って彼女は俺を家の中へと引っ張ってく。中では慌ただしくご家族が荷物をまとめてる。そんな中、いきなり娘が男を引き入れたからびっくりしてる。けど流石に顔見知りだから引き留められることはなかった。勝手知ったる彼女の部屋へと入る。優しい香りがいつもする。自分の部屋と比べるととても狭い。けど、自分の部屋よりも居心地がいい。

 

「ベールは……逃げないの?」


 俺はドキリとする。さっきからセラスが鋭い。これが女の勘というやつなのだろうか? 俺は静かにいうよ。

 

「ああ、俺は……今や領主だから。ここで皆が逃げる時間を稼ぐ」

「逃げろって一体何が起きてるの?」

「ここには他種族が迫ってる。すでに国境沿いの村や町は壊滅してる。だからここも……」

「じゃあ逃げないと! ベールも! 死んじゃうよ!!」


 そう言ってくれることがうれしい。だからこそ、守りたいと思う。

 

「俺は責任を取らないと。その責任はセラス達を生きて無事に逃がすことなんだ。俺が守る。皆を……セラスを」

「ベール……」


 俺は片膝をついてポケットから小さな箱を取り出す。心臓が張り裂けそうだ。だが、俺はその箱の蓋をあけて、中のリングを彼女にみせる。

 

「セラス、愛してる。受け取ってくれるか?」


 その言葉を紡いだ時、セラスは口を手で押さえた。そして顔を真っ赤にして、目には涙がたまってる。

 

「私……でいいの?」

「セラスがいい。他なんて考えられない。受け取ってくれるか?」


 もう一度俺は聞いた。すると彼女の手がリングを箱から抜いた。そして左手の薬指に彼女ははめる。

 

「はい」


 俺たちは見つめあう。空が白み始める。僅かな光がカーテンから差し込む。そんな中自然と俺たちは歩み寄る。見つめあったまま俺は彼女の肩を掴む。二人とも顔が赤いだろう。少し外した視線の後、再びセラスはこちらを見る。そして目を閉じてくれた。俺はゆっくりと彼女に顔を近づけていき……そして触れ合った。すの時間は僅か数秒。

 けど、俺は多大な幸福感に包まれてた。

 

「生きて……そして帰って来て」

「頑張る。精一杯頑張るよ」


 俺たちは強く抱き合った。そして互いの名前を呟く。その目から涙を流して。その可能性が限りなく低いと、互いにわかってる。けど、そんな悲観的な事は口にしなかった。ただ未来を夢見て、俺たちは約束した。

 

 

 そして俺は街を背に平原に兵と共に展開してる。太陽はすでに上ってる。もうすぐ、奴らがくる。ここから先へは行かせない。領民をセラスを守ってみせる。俺は首にかけたリングを握り、祈りをささげた。

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