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Σ25

『お帰りなさいマスター、ご無事でなによりです』

「そっちこそ、よく動いたわね」


 確かゼロだけでは動かないとか言ってなかったっけ? 私がいないと干渉できないとか……けど今動いてたよね? 私は話しながらもアトラスを解除してベルトをしめる。ゲージを確認して、起動過程をこなしてく。

 

(ダメージ確認。まだ大丈夫。エネルギー残量六十パーセント……は結構まずい。パイロット認識開始)

『そこはよくわかりません。動くような気がしたのです。そしたら動きました。マスターのピンチを察したのかもしれません』

「ありがたいよ。実際、ゼロが来なかったら危なかったしね。ゼロはここの陣の解析をお願い!」


 操縦桿を握る私。目の前のモニターには鋼岩種の顔がでかでかと映ってる。さっきまでは逃げ回ってた。けどこれで対等だ!!

 

「亜子 小清水行きます!!」


 私はプロト・ゼロの体制を変える。さっきまではこっちは奴のパンチを受け止めて踏ん張り、向こうはそのまま押しつぶそうと踏ん張ってた。けど私がその踏ん張りをやめたことで、奴は態勢を崩す。私はプロト・ゼロをクルッとやってそのまま飛び膝蹴りを奴の顔面に食らわせる。五メートル級となると、こちらとそう変わらない大きさだ。けど細さではこっちで、明らかにバランス取れてて俊敏に動ける。

 鋼岩種はとてもアンバランスな体のつくりしてるから、とても身軽に動けるってわけじゃない。まあ体の作りなんて、魔法がある世界ではあんまり関係なかったりもするけど、こいつらその魔法を結界特化にしてる。

 

 だから身体的にはこの見た目通りにしか動けないはず。でも一回だけみたあの踏み込みからの加速は気を付けないといけない。あれは明らかに魔法での補助が加わってた。あれをどれくらい出せるかが問題。私は奴がよろめく間に距離を取る。空へと上がればこっちのもの……んん? 

 

「なにこれ?」


 画面には飛行阻害の文字が出てる。まさか飛べない? マジそれ?

 

『この空間は特種なマナで満たされてます。干渉できるマナがありません』


 ゼロがそんなことを言ってくる。よくわからないけど、たぶんアンティカの飛行って向こうの世界での飛行機とかとは根本的に違うんだろう。それはそうだよね。だってアンティカはその場にとどまれるもん。ふつうはそんな事できるのはヘリコプターくらいだ。その分ヘリは戦闘機とかよりも遅い。けどアンティカは早くても浮いたままでいれる。それはとても便利だった。

 だって飛べるってだけで有利なのに、停止とかまで空でできるんだよ。向こうの世界ではチートだよチート。まあ、割とこっちの世界でもアンティカはチート臭いけどね。なにせこれのおかげで人種には希望ができたんだ。けど、この世界ではいつまでもアンティカに頼ってばっかりって訳にもいかないと私は感じてる。いや、それは私だけじゃなく、フェアリー部隊のみんなは思ってるだろう。だってこの世界には確実に本当のチートって呼べる奴らがいるはずだからだ。それは魔王となったミリアだったり、もっともっと上位の種族だったり……

 

『マスター、左から来ます』

「わかってる!」


 飛べないと囲まれたままってのはまずい。私は素早くレイピアを取り出して拳をかわしそのままむき出しの目を突く! 青っぽい液体が飛び出し、鋼岩種は苦しむ。けどとどめとか刺してる余裕はない。何せそこら中から地面を響かせて迫ってくるからだ。私はむき出しの目に狙いをつけて一体一体無力化してく。けど奴らは止まらない。恐れを知らないのか、私を逃がさないように常に囲んできやがる。

 

 しかも目を抑えて倒れてる鋼岩種が地味に邪魔だ。なまじ体がでかいから、障害物になってる。まあ盾にもできそうではあるけどさ、さすがにあまり近づくのはどうかと……だって完全に倒したわけじゃないし。てかどんどんと行動範囲が狭まってく。それは奴らも同じだからどうにかなってるけど……

 

「あれ? 何か嫌な予感する」

『奇遇ですね。私もです』


 珍しく私たちの意見が一致した。でもあまりうれしくない。だって何かが迫ってるような? 鼓動がドスドス聞こえる。ん……ドスドス? これは心音? 

 

『マスター右斜め前方です』

「つっ!!」


 それは五メートル級のあいつだ。あいつが仲間を踏み台にして空を飛んだ。そして私に迫る。まずい! 逃げ場がない。

 

「こうなったら!!」

『マスター何を?』

「いつもの無茶!!」


 私もそこらで蹲ってる鋼岩種を足蹴にしてとんだ。しかも迫ってくる五メートル級の奴に向かってだ。そしてレイピアを向ける。だけど奴は構わずその巨大な腕を振るってくる。触れたレイピアは一瞬で砕けた。ここだ!! 私はレイピアから手を放して右手で拳に触れた瞬間にアンティカの体をひねる。そして無理やり奴の脇腹を蹴って側面に逃れる。

 

 ぎりぎりの攻防だった。タイミングが一瞬でも遅ければ……アンティカは木端微塵になってただろう。そうこれでよかったんだ。右腕をなくしたけど、あれが最善手……そう思うことにして、私は前を向く。鋼岩種の群れが地面を揺らして私を追い詰めに来る。

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