Σ9
あれから数週間がたった。幾つかの戦場を私は転々としたよ。上手く行った戦場もあれば、上手く行かなかった戦場もある。やっぱりアンティカを使える戦場と使えない戦場では違う。種族によっとはアンティカが活動出来ない場所に居たりするからね。そうすると、成功率はかなり落ちる。てか撤退したりした。そういう戦場は死ななかっただけ、めっけもんだ。
はっきりいってこうやって再び学園に戻ってこれたのが奇跡に感じる。学園の寮でシャワー浴びてる間、私は戦場を思い出す。目をとじると後ろから襲われそうで怖い。うなじのあたりがピリピリする。戦場に行く前はこんな事はなかったんだけどな……寝付きも悪くなった気がするよ。だって寝ようと目を閉じると、その日の戦いがフラッシュバンするんだもん。
脳裏に浮かぶ戦場の光景はリアルで……鼻には焼ける様な匂いまで漂ってくる。そして耳には悲鳴が聞こえるんだ。そんなんで気持ちよく寝れる訳ない。向こうの世界でも戦場に行った人が日常に戻れなくなるとか……聞いたことは有ったけど、それを自分自身が体験する事になるなんて思わなかった。
私は今、安全な学園にいる。それなのに……ずっと気が張ったままでそれが自分ではどうにも出来ないんだ。でも大丈夫、きっと戻ってきたばかりだからだよ。もう少し時間が経てば……私は自分で日常にいるって……そう思えるはずだ。
私は部屋に戻ると銃を分解してメンテナンスを行う。これを一日一回はやらないと、落ち着かなくなってる。そして片手間に食べる物はレーション……戦場でもないのに……まあここではよくこれを食べてたけど……でも戦場でもこれを食べてた訳で、これを食べてると私はずっと戦場に居る気に成ってしまうんじゃ無いかと……ふとそう思って私は食べかけのレーションを置いた。
寝間着のまま部屋の外にでて、私は食堂へと向かう。もう食堂自体はしまってるけど、作り置きのサンドイッチとかがあるから、それを取る。お金は必要ない。けど棚を開ける為に、寮の鍵が必要だから、誰が利用したかは学園側にはわかる。それを嫌って使わない人が多いから、だいたいここにあるのは余る。勿体無いことである。まあ、余ったのは朝出勤する人達が食べてると思うけどね。
サンドイッチを持って部屋に帰ろうとする。その時、視界の端に誰かが映った。食堂の隅のテーブルの端に幽霊の様に座る女生徒がいた。実際私は二度見したよ。だってマジで幽霊だと思ったんだもん。向こうはどうやら私に気付いて無いようだ。どうしようかあれ? なんかとても放っておける雰囲気ではない。でも私が何か言うのもね……きっと私に出来ることはない。
(帰ろ)
そう思って静かに通り過ぎようとする。けどその時ちょっと飛び出てた椅子に、足の指をぶつけてしまった。
「イッ!? ツウウウウウ」
ガタッと言う音と共に、私は指を押さえて蹲る。なんとか痛みも収まって立ち上がるとすると、私の目の前に顔を俯けたあの女生徒が立ってた。
「ひっ!?」
思わずそんな声が出てしまう。だってその見た目はどう見ても幽霊だもん。
「なんで……」
怨嗟の声なのか何なのか……そんな言葉が聞こえた気がした。最初はか細かったそんな声も同じ言葉を何度も来る返す内に次第に大きく、そして激しい声になってく。
「なんで……なんでなんでなんで! レイドス様を守ってくれなかったの!!」
彼女はそう言って涙を流して泣き崩れた。薄明かりしか無い食堂で、彼女の啜り泣く声だけが響いてた。




