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「あっ……かっ……」
意識が遠のく。けどその前に私の首の骨が折れるかもしれない。サーテラス様は片手しか使ってないけど、人を捨てた彼女の握力は片手でも人のそれを有に超えてる気がする。だってミシミシいってるもん。私はもう腕を上げることも出来ない。口からはヨダレが垂れて、再び下半身があつい。目からも涙が出てて、きっと鼻からは鼻水が垂れてるだろう。
全身の穴という穴から液体が出てた。
「死になさい!!」
その瞬間更に力を込めるサーテラス様。私の首は同時にゴキッという音ともに折れ――てない?
「カハッ!? はあはあはあはあはあはあはあはあ」
私はいつの間にか床に倒れてた。開放された喉から空気が一気に流れ込む。それを飲み込む様に私は必死に息をした。その御蔭か……ぼやけてた視界が鮮明に成ってく。するとそこに何かが立ってた。全身銀色の何か……人の形してるけど、明らかにそれは人じゃなかった。そしてそれはギギギと嫌な音を立ててこちらをみる。なんとなくラーゼっぽい形のそれは、けど顔には大きな丸い何かがついてて怖かった。
『大丈夫? 生きてるんなら、大丈夫よね?』
「らー……ゼ? なの?」
聞こえるのはラーゼの声だ。なんか不気味な形に相反して、聞こえるラーゼの声はとても鮮明でなんか浮いてる。けど心には安心が広がってく。
『そうだよ。直接乗り込むのも面倒だったから、玩具を試すことにしたんだ。まだまだ完成には程遠いけど、魔王崩れの成れの果てくらいには対抗出来るで――」
「邪魔ですわよ」
言葉の途中で、ソレの頭が吹っ飛んだ。そして壁にぶつかって、床を転がる。そして力なくソレは崩れる。
「ああ……」
「全く……無粋な方ですわね。貴族でも無いのに領地まで得た悪魔。一番の敵はこいつですわ。大丈夫、キララさんを殺したら、すぐに彼女も送ってあげますわよ」
そう言ってサーテラス様が迫りくる。ラーゼの救援もああなってしまった。てかもっと気をつけてよ!? けどその時、転がったアレの頭から声が響く。
『誰を殺すって? 自惚れないでよ。貴族がどれだけ偉いのよ? そんなの私は知らない。だって私の美の前では全ては無意味だもの。可愛いは正義。可愛いが天辺。それを可愛くないあんたに教えて上げる』
その宣言と同時に窓から幾つものさっきのと同じような感じの人形っぽいのが入ってきた。そして廊下からも大量に出てくる。
「いくら数を用意した所で、今の私には無意味ですわよ」
『それはどうかな?』
サーテラス様が一体に向けてその手を向ける。すると手の平から黒い玉が出た。凄い魔力が凝縮されてる。あんなのをあんな簡単に……いや、そもそも詠唱も無しに放つなんて。けど、ラーゼの人形は避けないよ。寧ろ向かってく。がが、がしゃん――と不格好ながら走り、そしてその拳を握る。
『なんとか相殺パーンチ!!』
ばかみたいな事を叫んで放たれたパンチと黒い玉がぶつかりあう。その瞬間ニヤっとサーテラス様はした。けどそこできっとラーゼもニヤッとした気がした。そしてどうなったかというと、何も起きなかった。人形は無事で、その黒い玉だけが消え去った。それを見たサーテラス様は、一瞬目を見張ったが、無言で更に球を放つ。
『なんとか相殺キーック! パーンチ! さらにさらに裏拳!』
すべてがアホな言葉と同時に放たれるぎこちない攻撃で消え去った。そしてそんな事をしてる間に、人形達……多分二十体くらいがサーテラス様を囲む。
『魔王聞こえてるよね? ……死にたいんだっけ? いいよ。後日なんて言わないから。ちゃんとここで殺して上げる』
ラーゼは軽くそういった。カタヤさんの気持ちも亜子のことも、そしてミリアのこともすべて関係無いと言わんばかりの言葉だった。




