β22
私は走った。走って走って、そしてもう走れないって所で立ち止まった。荒い息を吐いてそれが整うまで呼吸を繰り返す。そして呼吸が整うとここは何処だろうと、辺りを見回す。この学校は広い。だからまだまだ行ったこと無い所も一杯ある。ここもそんな場所だろう。多分ゴミ焼却場みたいな場所だ。幾つかの銀色した煙突付きの物体がある。
私達は掃除なんてしないけど、いつだって校舎が綺麗なのは掃除してくれてる人がいる訳で、こういう施設も目立たないけどちゃんとあるんだ。ちょうど良いと思った。きっとこんな所には生徒は近寄らないだろう。折角頑張って登校して来たのに、再び休む事になりそうだ。だってどんな顔して教室に行けばいいの? 私のクラスにはサーテラス様が居るんだよ。
「無理無理無理……絶対にもう行けないよ……」
あんな事してなんともない顔できる程、私は無神経でも図太くもない。こう考えると以前の豚状態のサーテラス様は凄かったんだなって思う。私に嫌がらせしてて、周りの目も冷たかったのに、そんなの全然気にしてない風で……私には無理だよ。頑張ろうと思ったのに……今日をここでやり過ごしたとして明日からは? サーテラス様と被らない講義にだけ出ればどうにかなるかな?
そもそも講義は自由に受けれる訳だし、朝のホームルームに出なくても別段そこまで問題があるわけじゃない。でも私の場合は基本の講義が大事で、そればっかり受けてたから教室に居ることが多かった。色んな場所でやってる講義は専門的なことが多いんだよね。飛び入っても多分理解出来ない。そもそも基本の講義も理解できないし……私が他の生徒達よりも優れてるのは魔法実技とかの実習系とかしかない。
「はあ……」
私は薪が積まれてる横のスペースにいった。なんか丁度私がすっぽりと収まれる空間が有ったんだ。そこに体育座りして小さくなる。スカートが汚れるけど、多少の汚れなんて私は気にしない。そうしてふと、前を見て気付いた。この場所に先駆者がいたことに。
「……」
「……」
私達の視線は確実にぶつかってる。けど、私も向こうも何も言わない。彼女はほの暗い金髪を両側で三つ編みにしてて、丸い顔に大きな丸い眼鏡をしてた。とても地味な見た目だ。そんな彼女は私の顔と下に視線を移動させてる。
(下? ――つ!?)
私はバッと脚を地面につけて女の子座りに変えた。だって私のスカートは短い。体育座りなら確実に見えてたはずだ。一方彼女のスカートは長い。寧ろ長過ぎるくらいだ。踝位まである。鉄壁過ぎでしょ……流石にそんなに長い人はそうそう居ない。私は居心地が悪く成ったから立ち上がる。一人になれないのなら、ここに居る意味もない。
今は誰とも会いたくないんだ。そう思って私は歩きだす。けどその時彼女がポツリと呟く。
「貴女……も……同じ。あの方……サーテラス様と……憑かれてる……ね」
「どういうことですか?」
私は思わずそう聞き返した。だってサーテラス様と私が同じとかどういうこと? 立場が入れ替わったとか? 皮肉交じりの言葉なの? それなら虫の居所が悪い私は何しちゃうかわかんないよ。
「私……には……見えるの。貴女の……身体を覆う違う力も……そして……サーテラス様に取り付いた影も……」
そう言って彼女は立ち上がりその眼鏡を外してレンズの奥の瞳を晒す。それはとても不思議な色で……なんだかラーゼの奴に似てると一瞬だけ思った。そして彼女は私をその不思議な瞳で見つめて言った。
「私は……『魔眼』持ち……だから」




