#115
あれから一ヶ月が経った。色々とあったけど、それなりに領地は順調に運営できてる。誰も飢える事はなく、寧ろ豊かになっだろう。それもこれもこの眼前に広がる森が大きいね。まあ結構手前は切り開いちゃったんだけど、それでもなんら問題ない。魔光石は順調に採掘出来て、それを研究所が買い取る事で結構ウハウハである。
研究所も安定的に魔光石が手に入ってかなり研究も捗ってるとか。Win-Winの関係と言うわけだ。肥沃な土地に成った事で、穀物も沢山生産してる。まあまだ収穫とかは無理なんだけど、何やらこの土地はマナの濃度が濃いので、成長が早いらしい。これも嬉しい誤算だ。見に行ったら確かにこの前植えたばかりの種が既に発芽して地面からその小さな芽を出してた。
これは食糧事情の早期改善も見込める事だろう。今は潤った懐で街の方の食料を大量に買い取ってるからね。なのでそこまで不満はない。私が消費するお金よりも入ってくるお金の方か多いのもポイントだね。やっぱり魔光石は金のなる木だったね。これなら白狼の森が獣人から狙われてたのもうなずけると言う者。スズリ達はどうしてるだろうか?
向こうの大陸はかなり混乱してるらしい。デカイ国家だったライザップがなくなって、更にはなんと天皇が居なくなったガロンも消え去ったとか? そこら辺はよくわからないが、元々がガロンは九十九の精達の国だったらしいし、一夜にして消えても……って流石に無理あるけど、とにかく向こう側は大混乱にあるよう。色々な種があの大陸で覇を狙う動きがある。
まあ私には関係ないけど。スズリは多分大丈夫だろう。なんてったってあの森には始祖の狼いるしね。人種も落としたライザップを礎にあの大陸を取りに行くんだろう。でも獣人達はあの後、かなりの数がライザップを去ったらしい。人種程度ではその獣人の逃走を止める事できなかったんだろう。これでは獣人を馬車馬の様にこき使って――って事は出来なくなった。
一応私が釘刺してたけど、それを守ってくれるかは実際わかんないしね。逃げた獣人達は賢いと思うよ。と、なると人種は自力の戦力を投入しないといけなくなる。でも人種の戦力なんて他の種族に比べたら数が多いだけ……それを覆せるのがアンティカな訳で……けど今はそのアンティカも休業状態だ。今でも普通にカタヤがここに入り浸ってるのがいい証拠。
どうやら大掛かりなメンテナンスと改修とかを行ってるよう。とくにプロト・ゼロのね。なんせ一回ぶっ壊したのが戻ってきたんだから念入りに調べるのは当然だ。それで何がわからるかは知らないけど。それに亜子の事でも色々とね。どういう扱いにするのかで中々揉めてるらしい。異世界人だしね。そんな得体の知れない存在に国の最高戦力であるアンティカを預けるのはどうかと……そういう主張もあるようだ。
けどそれもそうか――と思う。御尤もである。だって人類の希望だよ。そう考えると、反論できない。まあ私は亜子が傍に居てくれるのなら、なんだって良いんだけどね。でも亜子は目的を達する為にも、アンティカは手放したくないよう。戦闘は嫌なんだろうけど、そもそもプロト・ゼロは戦闘向きの機体じゃないから、戦場でも基本後ろ。カタヤともう一人の機体がバトルメインだから妥協したようだ。
まあでも、だからってそんな甘い考えで戦場に行くのは危険だと思うけどね。でも私の方が気楽に考えて戦場行ってたけどね。だって基本私に傷つけれる奴なんて居ないし。だから最悪、私だけは絶対に生き残れるっていうね。死ぬことが無いのに覚悟なんてできないよね。ふむ……亜子もアンティカという鎧に包まれてると考えれば、私と同じかもね。
「ふー」
私は綺麗な机に突っ伏す。考える事は色々とある。けど、私は基本考えるだけだ。だから私の机は立派な癖に何もない状態なのだ。これが蛇の机とかなら、書類が山盛りで減った傍から何やら紙が追加されて行ってる。一体何をそんなに積んでるのか、興味本位で覗いた事があったけど、私には書いて有ることが理解出来なかったからそっと戻した。
あれ以来蛇の部屋には行ってない。なんか悪いかな? と思って。大丈夫大丈夫、時々処理してあげてるから、お愛顧である。グルダフは森のマナ生物をメルと共に率いて、実戦経験を積ませてる。どうやらマナ生物は殺されるという概念が無いようで、死んでもクリスタルウッドの傍で勝手に復活する。なので手近な別な種を襲って絶賛領地拡大中なのだ。
まあだけど、殺したりはしてないよ。他の種の人達は捕らえた後に話し合って開放したり、領民に成ってくれたりといろいろだ。蛇はスパイが入り込む事を危惧してる節があるけど、私は殺せないだろうからそこまで気にしてない。それにメルがいるからね。どうやらメルは感情の変化……というか、感情によって変わる体内のマナの変化にとても敏感なよう。
なのでおかしな事を企んでる奴は、メルによって直ぐに察知される。この集落……まあもう村とか小さな町クラスにはなったかな? 程度の範囲なら問題ないらしい。
でもこんな事ができてるのはやっぱり森のおかげでマナ生命体のおかげだね。領地に転々としてたそれぞれの部族は集まってきたけど、それでもそんな数いないし、戦闘で死んだりしたら色々と厄介じゃん。けどマナ生命体ならそんな心配はない。けど、それも周辺の範囲だけなんだけどね。彼等はマナ生命体だから死ぬことはないけど、活動範囲はそれだけ限られてるのだ。
だから少し遠くの国に攻め入るとなれば、彼等の力は借りれない。その為にも領軍が必要だ。聞いてみれば、国が所有する国軍の他に、それぞれの領地には領軍が居るのは普通みたい。数や練度にばらつきは結構あるようだけど、やっぱり領地での揉め事を領地で納めるには軍が必要なのだろう。今は蛇が連れてきた獣人達が色々とやってくれてるけど、それは軋轢だと思うんだよね。
同じ立場に居れる人種を早急に見繕わないと。一番近いのはダンダかな? 長く生きて来たし、元々がここの長だったから適任。だけど、あいつ……『儂には修行が足りませぬ。修行の旅に出ます』とか言って一週間前にどっか行った。修行とか言ったけど、若返ったから新しい女を漁りに行ったんじゃないかと私は疑ってる。ダンダの妻とかはもう亡くなってるらしいし、子供たちも立派な年齢だ。
新たな第二の人生のために新たな伴侶でもあのエロジジイは求めに行ったんだろう。なにせ何かにつけて、私を触ろうとしてたしね。いつもカメレオンに阻止されてたから、諦めて他の女漁りにいったと私は確信してる。
と、なると次の候補はハゲである。他の部族の族長でも良いんだけど、大体いい年だし、そこまで行くと考えが凝り固まってる奴も居るわけで……それにそいつらの誰かをまずは選ぶとなると、ほら……今度はなんでこっちは? とかなるじゃん。そういうのはメンドイ。なので今、特別な立場にないハゲが筆頭だ。あいつハゲなのに人望も厚いんだよね。
私も嫌いじゃないし……ハゲなのに。なのでそれはこの後にでも提案しに行こう。後は冒険者の問題がある。この国には軍属ではない荒くれ者共所謂『冒険者』という人達がいる。基本なんでも屋なんだけど、かく領地にギルドという支部を置いて、色々な依頼をこなして、時には戦争にも参加する――そんな組織だ。彼等の存在は領地を納める領主にとっては使い勝手の良い駒であり、そして頭を悩ませる種でもあるらしい。
冒険者達は依頼ならなんでもしてくれるが、強制は出来ないのだ。それに流れ者が多いから、領地の悪いうわさとか、領主の批判なんかは冒険者間で広められると止められない。だからってギルドを潰すとなると、便利な冒険者が居なくなる。冒険者が居るから成り立つ商売もあるのだ。それに冒険者ギルドは今や巨大組織らしい。
敵に回すのも不味いってのがある。まあここにはギルドすら無いんだけどね。けどだからって点々と冒険者は居る。そして奴等は勝手に森に入って魔光石を持っていきやがる。これは大問題。別に奴等が持ち運べる量なんてたかが知れてるんだけど、私の金を知らないやつが勝手に持っていってると思うとそれもう泥棒じゃん。殺しても良いんだけどね〰勝手に森に入って勝手にモンスターに殺されるのなら自己責任である。
それが私支配下のマナ生命体だとしてもね。彼等にはそんなのわかりっこないでしょ。
けど基本マナ生命体には手を出さないように命令してる。だって皆が皆メルの様な知能を持ってるわけじゃないんだもん。襲うか襲わないかしか判断できない。この人は駄目。あの人は襲ってOKとかマナ生命体の皆さんには判断できないのだ。戦闘は自然と連携とか取るのにね。森以外で不自然に死ぬのもね……この領地内なら私ならどうにでも出来るけど。
でも彼等がここに向かった事を知ってる奴等は居るだろう。消えた冒険者が増えて足を運ばれなくなるのは困る。やっぱり冒険者は金を落としてくれる存在だし、個人のお願いを私がいちいち聞いてやる訳にも行かない。だから冒険者を排除はやっぱりできない。近々ギルドも作る予定だ。でもだからってやっぱり魔光石の強奪は駄目。
けど、ここには魔光石が大量にあるからこそ、その噂を聞きつけてギルドもないこんな辺鄙な領にポツポツと冒険者が来てるんだよね。ギルドを作れば、もっと沢山の冒険者を呼び込めるだろう。大体大きな領にはデカイギルドがあり、そして冒険者も多くいるらしい。数が多いと、活気が出るってことだよね。それは大切。
「ようは、そこらの魔光石よりも魅力的な何かがあればいいんだよね……」
そもそもここの魔光石はそこまで高く売れる物でもない。だからこそ個人取引で研究所にしか下ろしてないわけだからね。それでも日に日に冒険者が増えてるのは簡単でそれなりに魔光石は稼げてしまうからなんだろう。
「これを利用出来れば、もっともっと集まってくる筈」
その会議も必要だね。そんな事を思ってると、扉が開かれてキララと亜子が二人して何やら極端な反応で入ってきた。キララはなんだか興奮気味に、そして亜子は面倒くさそうにしてる。
亜子はキララの半歩後ろを歩いて、先に来るキララが私の机をバンっと叩いてこういった。
「私達、学校に行くから!」
「はい?」
私は面倒そうに頬杖ついてめっちゃ迫ってるキララの鼻先を指で突いて押し戻しす。頭パーのこの娘はいきなり何言い出すの? 聖女言われて頭ハッピーなのはいいけど、面倒事はやだよ。
私は後ろの亜子に視線を向ける。すると亜子は両手を合わせて可愛く拝んできた。「おねがい」って事? とりあえず二人の言い分を聞こうじゃないか。




