第五百二十八話 心強い味方
『ヒッツライトは知っての通りベリアースの騎士団長を任されている男だ、ヤツを連れて帰る必要がある』
「どうしてだ? ガストの町を制圧できなかったって報告すれば戦死扱いにできるんじゃないか? 彼も帰りたくないみたいだし、必要があるとは思えないけど」
『それはヒッツライトの希望であれば尊重したい。だが、城で動ける人間が必要だというのも理解しろ。アルバトロスと共にこちら側サイドでベリアースを自由に動ける『人間』が居れば怪しまれずに動き回れるようになる』
「なるほどね、あんた達になにかあった時の保険ってとこか」
ファスさんが即座に理解し、手を打って理解を示す。流石に悪魔といえどトップだけあって、利用できるものは使い、危険を減らすための案を提案してくる。
それにしても協力的すぎるのが不気味だなと思っていると、リリスが口を挟んできた。
『私もこの姿じゃラース様のお供ができないし、敵地のど真ん中に味方は多い方が助かるわよ。権力の象徴を表したいのか、城の大きさはここよりも二倍くらい大きいし』
「そうか、アイーアツブスの姿じゃないと怪しまれるのね。レフレクシオンのお城も大きいのにさらに大きいなんてね」
マキナがため息を吐いて肩を竦めて呟き、リリスはさらに話を続ける。
『教主サマは悪魔の姿を知ってはいるけど、この姿……すなわち悪魔の正体を知っている人間が自分以外に居ると思っていないから、素体を無くした今、出られないのよね』
勝手に抜け出せないようになっていた、ということみたいだ。
そんな感じで話を進め、個々の状況からヒッツライトをベリアースへ戻して騎士団長としてそのまま活動を続けてもらい、世話係としてアルバトロスを俺達につけるってことらしい。
十神者の残りも味方になるとは限らないし、アポスの側近として俺達と常に行動は難しいとの判断とのこと。
<ふん、敵地に乗り込むのか? 私も行ってやろうか>
「なんか暴れそうだからフリーズドラゴンはちょっと……」
<……>
<ははは、言いますねラース! では僕ならどうでしょうか>
「ストームドラゴンなら人当たりもいいし悪くないかも? でもロザ以外名前がないから――」
急に話に割り込んできたドラゴン達がありがたいことを言ってくれるが、如何せん名前がないのでドラゴンだと知られてしまうのは警戒されるどころの話じゃない。
まあストームとかフリーズという感じであだ名みたいに呼べばカッコいいような気もするけどね。
そんなことを考えていると、グランドドラゴンが俺の肩に手を置いてニヤリと笑う。
<そこでじゃ、わしらもロザと同じく名前をつけてもらえんかのう? そうすれば一緒に居ても問題あるまい?>
「ええ?」
「おじいちゃんお名前が欲しいの?」
「そういやラースってワイバーンにも名前つけてたよな」
<なんじゃと!? あいつより後とは屈辱……はよう名をつけい!>
セフィロが首を傾げ、ファスさんが余計なことを言った瞬間、ドラゴン達が一斉に騒ぎ出して俺達は苦笑する。どうやら彼らは本気のようで頭を掻きながらどうするか考えているとマキナが
「みんなの希望ならいいと思うわよ、私もストームドラゴンさんって呼びにくいと思ってたもん」
「そっか……ならそれらしい名前をつけないとな」
<おお、頼むぞ! アイナとティリアに呼んでもらうんじゃ。二人の装備素材も用意すると言ったし>
孫に好かれようと必死なお爺ちゃんみたいなことを言うなあ……それはさておき、名前か……ロザみたいに関連するワードでつければいいかな?
グランドドラゴン、ストームドラゴン、フリーズドラゴンの三人だし、奇をてらわずに素直に考えてみるか。
「フリーズドラゴンは『ジレ』なんてどうだい?」
<ふむ、呼びやすいし覚えやすい、いい名だ。それを貰おう>
冷凍の意味があるジュレのもじりだけど悪くないと思う。フランス語とかドイツ語だとカッコいいのでこの線で行こうと続いてグランドドラゴンの名前を決める。
「グランドドラゴンは『ボーデン』かな? 見た目がお年寄りだし、渋い感じがいいかと思うんだけど」
<お、ええのう! 力強さがあるわい>
まあ、まんま『大地』なんだけど響きがいいのでこれに決めた。そして最後にストームドラゴンドラゴン
へと告げる。
「ストームドラゴンはヴィントシュトース……ヴィンシュとかどうだ?」
<いいね、とてもカッコいい響きだよ。僕はヴィンシュ……僕はヴィンシュ……>
<私の名前も悪くないぞ?>
「あはは、気に入ったみたいね。来てくれるならサージュと一緒で心強いけど」
『全員は止めた方がいいだろうな。すでに一人決まっているなら後一人くらいか。あまり信者を固めて連れて行くと怪しまれる』
「妙に慎重だな、増える分にはいいと思うけど……? なら誰を連れて行くか――」
ドラゴン達に目を向けようと顔を上げると、四人とも手を上げて俺を囲んで圧をかけてくる。
「近い!? とりあえずさっきも言ったけどフリーズドラゴン……ジレは暴れそうだからダメだ。ボーデンはアイナと遊んでもらえると助かる」
<むう……!?>
<仕方ないのう……>
「じゃあロザかヴィンシュのどっちかだな、あたしはどっちでもいいけど」
「ボクもー!」
俺もどっちでもいいかなとは思うんだけど、好戦的でないヴィンシュの方がいいかなと思ったところで、ロザがなにかを思いついたような顔で俺に言う。
<そうだ、サージュが行くのだろう? 私と夫婦という形で行くのはどうだ。自然な形だと思わないか>
『あ、それはいいかもしれねえな。ちょっと農民っぽい恰好をしてカモフラージュすれば生活に疲れて救済をして欲しい夫婦っていえそうだ。それに姉ちゃんはスタイルがいいし、好まれるだろうぜ』
エーイーリーが嫌らしい笑いをしながらそんなことを言い、ロザが笑いながら近づいてアイアンクローを決めた。
『ぐあああああ!?』
<くっく……悪魔め、私を好色の目で見たことを後悔するといい>
『ほう、エーイーリーが悶絶するとはドラゴンというのはやるものだな』
「助けてやれよ……」
「では、リューゼ君達の方に護衛として一緒に行ってもらえると助かりますね、ファスさんと一緒に行きますがいざという時、飛んで逃げることができるのは圧倒的優位!」
「急に叫ばないでよバスレー先生、でも確かにそうなんだよな。なら、そっちはジレとヴィンシュに任せようか」
<ふっふ、任せておけ>
<余裕だよ、リューゼ君達ならかなり強いしなんとかなると思うけどね>
「ルシエール達も行くんだ、戦力は多い方がいい」
<おっと、あの可愛い子達だね。それは張り切らないと>
ヴィンシュがチャラいことを口にして笑っていると、バチカルが腕を組んで口を開く。
『メンバーが決まれば後は流れで臨機応変にやっていくことになる。出発はラース達の都合で良い』
「オッケー、なら国王様達と今のことを話してまた来るよ」
「あ、どこかへ行くんですか?」
「魔物の園にね。あそこ、なんだかんだで責任者が俺になっているんだよ……レオールさんも探さないといけないし、やることは山積みだよ」
「では行きましょうか!」
「バスレー先生はバチカル達の監視しないといけないんだろ?」
「ぐぬう……」
しれっとついて来ようとしたバスレー先生を引きはがし、俺達は魔物の園へ。
子雪虎たち元気かなあ?




