第百七十二話 今度こそアルジャンさんの下へ!
――疑問の残るあの夜から一週間が経過。
後始末は大変だったようで、学院長達は魔物化した冒険者達の遺品を持ち帰り、事件について王都や他の領に警戒を呼び掛けていた。実行犯はいないが、黒幕は残っているため伝えておくに越したことは無い。
彼らの身元はカードから判明し、素行は良くなかったパーティだったとハウゼンさんやミズキさんに聞いた。
後は遺体が欲しかったと学者さんや研究者が口を揃えて言っていたらしい。人間を魔物化するという事象は過去にも存在していないのだとかで、目撃した俺達や先生に会うため色々な人が学院に突撃してきたりと忙しかった……
また、自警団や学院の先生達のように捜索の手伝いをしてくれた人にはソリオさんから謝礼が渡されていたことを付け加えておく。
「いやあ、ルシエールの父ちゃんのおかげでラースに借りなくても良くなったぜ、俺!」
「微妙に足りない……!」
「はは、別に貸すのは構わないから言ってよ」
「僕たちは借りることになりそうだ」
と、ルシエラとルシエールの二人の押しもあって、直接救出した俺達は少し多めにお金を貰っていた。これでドラゴン素材の加工代金にはかなり近づきリューゼはホクホク顔だ。
残念ながらヨグスとウルカはあの夜、俺達が出た後に家に来たため貰うことができなかったんだけど、ルシエールとルシエラの無事を心から喜んでいた。
そんな忙しい日々はまだ続いているけど、平和な時間を取りもどした俺達はいよいよアルジャンさんの下へ向かうため夜集まっていた。
「こうしてみると結構多いね」
「Aクラス全員に兄さんとルシエラで十二人もいるから仕方ないよ。アイナは?」
「今日は昼間遊ばせていたからぐっすりだよ」
俺の言葉に父さんが苦笑して返してくる。母さんが町に連れて行ったらしく、よちよち歩きをしながら知らない人に挨拶をしていたらしい。俺達に似て物怖じしないみたいで、全然泣かずにむしろ喜んでいたとか。
<ふっふ、アイナは強い子だからな>
「なんで親目線なのさ。ま、いいや、じゃあ行ってくるよ!」
「ティグレ先生、すみませんまたよろしくお願いします」
「ええ、任せといてください」
引率はまたもティグレ先生。付き合いがいい人だなあといつも思うし感謝している。程なくして空に昇って行き、オーファ国へ進路を取る。
「結局武器を作るのは?」
「俺とヨグス、マキナとクーデリカだな」
「わたしとジャック君は包丁みたいな日用品と、護身用のダガーにしようって決めたんだよ」
パティが嬉しそうに言うと、ジャックが腕を組んでうんうんと頷き、俺達に向かって言う。
「そうそう。結局、家を継ぐ俺達とかパティみたいな料理人を目指すやつに武器は必要ねぇんだよな。でも、大切な人を守れるようにはならないといけねぇ。ベルナ先生を助けたティグレ先生やルシエールが誘拐された時みたいにさ」
「言うじゃねぇかジャック。偉いぞ」
「や、やめてくれよティグレ先生……」
ティグレ先生が笑いながらジャックの頭をぐりぐりし、それを嫌がって移動するジャック。
「わたしはミズキさんとイーファ君と組んで冒険者だから装備一式にするんだ! ノーラちゃんは?」
「オラは帽子を作って貰ったから後はアクセサリーかなー? アイナちゃんのネックレスみたいに、子供が出来た時の魔除けにするのもいいかなって」
「ノ、ノーラ……」
「んー?」
ノーラの子供ができたら宣言に俺達は押し黙ってしまう。気が早いという意味でだけど、ノーラが十六歳の成人を迎えたら結婚する予定だし、そんなものかもしれない。
「ねえねえ、ラース君の剣は今から取りに行くんだよね? そしたら見せてね!」
「う、うん。ルシエールは何を作るの?」
「私は鱗をなめしてエプロンかなあ? 後は護身用に杖! 魔力が増幅される宝石、持ってきちゃった」
ルシエールが舌を出しながらアクアマリンの宝石を袋から出しそんなことを言う。誘拐されたことを受けて、自分のスキルの重要さと活用方法をよく考え、自衛できる手段として魔法を鍛えるようになった。
「ねー、ラース君ってばー」
「ああ、はいはい、クーデリカの斧は両刃にするんだよね」
「うん!」
……クーデリカはあの夜からまた俺へアプローチをかけてきた。興味無くなったのかと思ったんだけど、ジャックいわく『押してダメなら引いてみろ』ってやつを実践していたとか何とか。
それが通用しないとわかり、マキナといい雰囲気になったから焦ってるんじゃないか? だってさ。
「ちょ、ちょっとサージュと話してくるよ」
「あー、待ってよ!」
「ほらほら、そんなんじゃラースに嫌われるわよ?」
「ぶー、ルシエラちゃんも怪しい……」
「な、なにがよ!」
――そんなわちゃわちゃした状態で、夜にも拘らず賑やかな空の旅となった。俺はクーデリカから逃れるためサージュの顔の横に飛ぶ。
重さが気にならないのか、涼しい顔をして飛ぶサージュが俺を見て何か言いたげな顔でにやりを笑う。
「なんだよサージュ」
<はっは、何でもない。そら、そろそろ到着するぞ>
……サージュは色々察しがいいから困る。だけど言いふらすようなやつじゃないのであえて何も言わずに一緒に飛び、この前と同じ山に到着。すぐにぞろぞろとみんなで山を下り、前回と同じ宿屋へと向かう。
「あら、この前の先生と学生さん! また来てくれた……って多いわね」
「部屋はあるか?」
「うーん、ちょっと色々あって一部屋しかないわ」
「色々?」
俺が尋ねると宿のお姉さんは笑みを浮かべて頷き、答えてくれた。
「アルジャンさんのお店が盛況になって、あちこちから仕事の依頼で町に来てるのよ! あなた達が来てから少ししてからかな? なんか一回国王様に会いに行くって出ていったんだけど、その後からどんどん人が増えてきてね」
「へえ、もしかしたら上手くいったのかのもしれねぇな。とりあえず今使える部屋一つだけ貸してくれ」
「大丈夫? 人数分のお布団は貸してあげるけど」
「野宿よりはマシだぜ。クラス合同でやった野営訓練に比べたら……」
リューゼが思い出したくないと首を振る。
それにしても繁盛しだしたようで俺達の剣を貸した甲斐があったというものだ。俺の剣がどんな仕上がりになっているか楽しみになってきたね。
後何話かでこの章は終わりますよ!
いつも読んでいただきありがとうございます!
【あとがき劇場】
『ボケを要求された』
なんだって?
『わたしのボケが物足りないって言われた……』
まあ最近忙しいからここもなかなか手をつけられなくてね……
『いや、そこじゃないでしょ!? 女神たるわたしがボケ担当ってところでしょうよ!』
え?
『え?』




