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01-47.休憩

「あいつ強かったわね。……バカだけど」


 部屋に戻って全員でベットに転がるなりパティが呟いた。



『メイド長のような身体能力に、パティのような魔術の腕。

 うむ。確かに強いな。しかしそれだけだ。

 パティならば自滅なんぞせん』


「ふふ。そうね。その通りだわ」


 少しは元気が出ただろうか。

何を落ち込んでいたのかは知らんが、少しだけ声に元気がなかったぞ。



「大丈夫。パティ強い。

 戦ったら勝ってた」


 ユーシャはそういってパティの頭を抱きしめた。

自分の胸にパティの顔を押し付けて、愛おしそうに頭に頬ずりした。



「ぐへへ♪」


 ユーシャの胴に両腕を回して抱きしめ返すパティ。

もう十分元気なようだ。心配するまでもなかったな。



『しかしどうしたものか。

 もしエルミラの言葉が真実ならば、厄介な相手に目を付けられたのではないか?』


「……そうね。可能性はあるわね」


「王子様?」


『そうだ。

 王族なんぞ関わるもんではない。

 争った時点で負けが決まるようなものだ』


 不敬罪だのなんだの言われかねん。

今回の件だって真実を無視して罪に問われるやもしれん。

王子の使者を一方的に攻撃したのだと言い張られれば、こちらには弁明の機会すら与えられぬだろう。


 間に領主様やパティが入って済めば御の字だ。

しかしそれも、二人の庇護下から外れてしまえば関係ない。

別の理由で出頭命令でも出して誘い出せば、簡単に回避できてしまうだろう。



「あら、失礼しちゃう。

 私みたいにフェアな王族もいるのよ?」


『パティは単に名ばかりの王族というだけの話であろう』


「そうでもないわよ。

 王族の血というのは、エリクの想像以上に大きな意味を持っているわ。油断していると足元掬われちゃうわよ?」


『誰にだ。

 まさか裏切る予定でもあるのか?』


「エリクがユーシャくれないなら、何れは罠にかけざるを得ないかも」


『今更止めはせんよ。

 ユーシャを守りぬくと誓うならな』


 こんな理由で認めるのはどうかと思うがな。

しかしこの状況でパティが側を離れるのは避けたいのだ。

だから仕方あるまい。いい加減認めてやるとしよう。

本当~に、仕方なくだ。



「誓うわ」


 即答だな。

逡巡する様子もなかった。



『ならば好きにせよ』


「ありがとう。エリク」


「きゃっ♪」


『待て。何をしておる?』


「何って?」


『惚けるな。

 何故ユーシャを押し倒しておる?

 それは許さんぞ。順番は守れ』


 行動に移すのが早すぎだバカモノめ。



「ごめんね、パティ。

 私も最初はエリクがいい」


『違う!そういう意味ではない!

 成人まで待て!学園の卒業も待て!

 指輪が出来上がってからにしろ!』


「拘るわね」


「拘りすぎ」


『うるさい!認めたのは恋人になる事だけだ!

 それ以上は許さんぞ!』


「「ぶ~ぶ~」」


『やめんか!』


 まったく。



「良いわ。

 先ずは清い交際を楽しみましょう。

 順番にゆっくりね。一つずつ味わうのも悪くはないわ」


「うん。私もそれでいい」


 パティはユーシャに覆いかぶさって力を抜いた。



『おい。せめて薬瓶わたしを外せ。

 暗くするなと言っているだろうが』


 二人に挟まれてしまうと殆ど完全な暗闇だ。

正直勘弁して欲しい。



「あ、ごめんなさい。

 気をつけるわ」


 パティは素直に私をユーシャの顔の脇に動かしてくれた。


 今躊躇なくユーシャの胸の間に手を突っ込んだわね。

ユーシャの方にも抵抗する気がないし。


 この子達、距離感が近すぎて恋とは少し違う方向に進んじゃってない?このままで大丈夫なの?



『なあ、ついでに少し出てきても良いか?

 念の為ディアナの様子を見ておきたいのだが』


 何せあんな大爆発が起きたばかりだ。

もし不安になっていたら忍びない。

魔力も十分に回復したし、私一人ならば問題もなかろう。

薬瓶の侵入に気付く者など、メイド長以外にはおらんだろうし。



「ねえ、それってそういう事?」


「?」


『何の話だ?』


「……違うみたいね」


 ああ。私が気を遣ったのかと思ったのか。

口ではダメだと言っても、眼の前でなければ二人の関係の進展を見逃してくれるのかと思ったのだろう。



『ダメだぞ、パティ。

 絶対に手を出すな』


「やっぱりフリなの?」


『違う。

 仕方ない。すぐに戻ってこよう。

 ディアナには悪いが、こちらも不安だしな』


「ごゆっくり~♪」


 せんと言っておろうが。



「本当に行くの?」


 ユーシャが薬瓶わたしを握りしめた。



『本当にすぐに戻ってくるとも。

 二、三、言葉を交わしてくるだけだ。

 私達は全員無事だと教えてやらねばな』


「……わかった。いってらっしゃい。エリク」


 ユーシャは渋々私を手放した。

ディアナを安心させたいのはユーシャも同じなのだろう。



『本当のほんと~に、手を出すでないぞ?』


「はいはい。

 エリクだけ除け者にするわけないでしょ」


 まったく。違うと言っておるだろうに。



「安心して行ってきて。すぐに帰ってきて。

 私達も起きて待ってるから。

 昨日の続きも聞くんでしょ?」


 ああ、そう言えば忘れていたな。

お伽噺の続きを聞かねばな。

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