01-45.襲撃者
「私は……第三王子の命でこの地に来た」
いきなり核心を口にしおった。
どういうつもりだ?
そんな事を喋ってしまっては切り捨てられるのが関の山だ。
助けなど期待できまい。
まさか王子のお気に入りだとでも?
圧力をかけても取り返すと信じている?
「パティ。
お主の兄上の名が出てきたようだぞ」
「な!?」
エルミラは再び動揺を示した。
まさかこの場に姫がいるとは夢にも思わなかったのだろう。
「無難な所ね。
あれならやりかねないもの」
どういう事だ?
「エリク。
これ以上余計な事は言わないの。
尋問をしているのは私達よ。
秘密を明かしてどうするの?」
ごもっとも。
「それで?
第三王子は何を目的にお前を派遣したのだ?」
「……当然お前達だ。
莫大な魔力を持つ子供が我が国にやってきた。
殿下はお前達を召し上げたいとお考えだ」
何故だ?
手駒になる魔術師でも欲しいのか?
「おかしな話だな。
お主は魔術師ではなかろう?
遣いとしては不適格だ」
魔力視を持たぬ者に魔力持ちを探させるなど意味がわからん。非効率過ぎる。
「手はある。
実際にお前達を見つけ出しただろう」
人探しのスキルと魔力視は別の話だ。
エルミラは前者に長けていたのかもしれない。
ここはそういう事にして話を進めよう。
「ならば何故襲ってきた?何故瓶を狙った?
お前が受けた命とは関係が無かろう?」
「見極める為だ。
ペテン師を殿下の前に差し出すわけにはいかないからな」
「あの瓶が強い魔力を持っていると?
お前はそう考えたわけか?」
「ああ、そうだ」
一応筋は通るか?
殿下の命を受けてユーシャを見つけ出し、本当に魔力持ちなのかを確かめようとしたと。
いや、やはり致命的な問題がある。
エルミラには魔力が視えぬのだ。
瓶を取り上げたとして、どうやって魔力量を確かめようとしたのだ?
「だからと言って手荒過ぎるのではないか?
交渉もせず不意打ちで意識を奪う必要があったのか?」
「お前達の為だ。私は穏便に済ませようとしたのだ」
「何が穏便にだ。一方的に襲っておいて。
あれが強盗以外のなんだと言うのだ」
「殿下の命は絶対だ。
必要ならば盗みもする」
結局薬瓶を強奪するために襲ったと?
あの場で魔力量を確認できずとも一旦奪って持ち帰り、瓶の魔力量を確認してから、必要とあらばユーシャも拐えば良いと考えたのだろうか。
「エルミラには仲間がいるのだな?」
「……ああ。その通りだ」
その者が魔力視持ちなのだろう。
瓶に目を付けたのも、その者なのだろう。
「名はなんという?どこに潜伏している?
仲間の居場所を吐けば、お前の言葉も少しは信じてやれるぞ?」
まあ一時言葉は信じられても、エルミラの信頼は地に落ちるだろうがな。別に私は信頼なぞしとらんが。
「そろそろだな」
「「!?」」
なんだ?
パティとメイド長が身構えた?
「エ~ルミッラちゃ~ん!!」
場違いに明るい能天気な声が聞こえた直後、建物全体が揺れるかのような衝撃と共に、正面の壁の一部が吹き飛んだ。エルミラごと。
「「「「!?」」」」
「うっ!」
壁に叩きつけられて再び意識を失うエルミラ。
エルミラは丁度入口と私達の間に、椅子に縛られたまま倒れている。私達が全員避けた結果、無惨にも顔から壁に突っ込んでいったのだ。
建物の外から壁と一緒にエルミラを吹き飛ばした新たな襲撃者は、呑気に手のひらを額に当てながらエルミラを探し始めた。
「あれ~?
ここに居たはずなんだけど~?」
歳はエルミラと近そうだ。少なくともパティよりは年上ではなかろうか。しかしその胸囲はパティとは段違いだ。もしかしたらユーシャに匹敵するやもしれん。
何より目を引くのが、そのファンシー系の装いだ。
無駄にカラフルというか、自己主張が激しいというか、忍ぶ気のあるエルミラとは正反対だ。いやまあ、エルミラもエルミラで町中歩くにはかえって目立つだろうけど。
あと、エルミラって本名だったのか。
実は結構なポンコツだったりしないか?
いかん。現実逃避している場合じゃない。
パティとメイド長が明らかに警戒を強めた。
どうやら敵はこの呑気な態度とは裏腹に、実力は相当なもののようだ。領主邸に特攻をしかけてきたくらいなのだから当然だ。
「あ!いた!
もう!貴方達がやったの!
ひっどいんだぁ~!!」
いやいやいや。
「お前が吹き飛ばしたのだ!
仲間まで殺す気か!」
「もう!
そんな事するわけないでしょ!
失礼しちゃうな!ぷんぷん!」
なんだこいつ……。
「そこどいて!
エルミラちゃん返して!!」
一瞬で距離を詰めて殴りかかってきた。
咄嗟に前に出たメイド長が応戦する。
「じゃっま!!」
メイド長を力強く殴りつけてほんの少し後退させるも、二人の実力はそう離れてはいないようだ。すぐにメイド長も押し返し始めた。
「もう!何なの!?
エルミラちゃん助けに来ただけなのに!!」
勝手な事ばかり言いおる。
廊下側からもたくさんの足音が近づいてきた。
ここは兵舎の中だ。当然すぐに兵士達も集まってくる。
「ああ!もう!鬱陶しい!!」
襲撃者は大きく距離を取って、壁に空いた穴から外に出た。
「エリク!!魔力壁!!全力で!!」
パティの慌てた声が響く。
襲撃者の周りにいくつもの光の玉が浮かび上がった。
あれはマズい!
私にもわかる!!
光じゃない!火の玉だ!
火の玉は黄とも白ともつかない強烈な輝きを放っている。
具体的な温度なんか知らないけど、凄まじい高温なのは間違いない。
あいつ!エルミラごと焼き殺す気か!?
私も建物の外に飛び出して魔力壁を全力で展開した。
私の扱う事の出来る魔力全てを込める勢いで、更にそこから力を振り絞るように魔力を流し込んでいく。
「エリク!!」
パティに腕を掴まれたユーシャがこちらに手を伸ばしている。自分も側に行こうと必死になっている。
ユーシャに言葉を返す余裕はない。
襲撃者の詠唱も終わったようだ。襲撃者が手を振り下ろすと、周囲に発生した超高温の火の玉達が一斉に私達の下へと襲いかかってきた。




