その後②
前回の続きです。
「そうだ、今度一緒に遠出してみない?」
「え、遠出ですか?」
「うん。王都の隣にある、トゥールーズ領の離宮にしようと思ってる。遠乗りをしたり、普段出来ないこともしたいなと思って」
「まあ! 遠乗り!」
王都からさほど離れていない、トゥールーズの離宮。自然豊かで、王族の避暑地としても有名である。
窮屈なお妃教育の日々から解放され、思い切り羽を伸ばせる気がする。想像するだけで気分が高揚しそうだ。
「何で僕の言葉や僕との旅行より、遠乗りが一番嬉しそうなんだ」
「わたしの好きなことを理解してくれて、そして受け入れて下さるのが嬉しいのです」
「ふん、当たり前だ」
シオン殿下は形のいい口の端だかを吊り上げ、鼻で笑った。
(そうそう、相も変わらないこの可愛げ気のない態度! こんなので自分が好かれてるとか、色恋に鈍感なわたしが分かる訳ないでしょー!)
内心ほんの少しだけイラッとしたけど、大丈夫。顔には出さない自信がある。
「見返りを求めるわけではないが、僕の要望にも応えて貰いたいことがある」
「何ですか? 監禁は拒否ですからね」
「違う。いや、それも願望としてはあるけど」
そこは完全に否定して欲しかった。
「名前で呼んで欲しい」
「名前ですか」
「うん」
「……シオン様」
「何?」
僅かに逡巡したのち、殿下の名前を呼んだわたしに、彼は破顔して答えた。
自分が敬称を抜きにして、名前を呼んで欲しいと頼んだにも関わらず、嬉しそうに返答してくるなんて……。不覚にも殿下が可愛いと思ってしまった。
「あ、い、いえ。このように沢山、お菓子をご用意して下さったので、他にも頂こうかしら」
「そうだね。料理長によると、この杏のジャムの菓子もお勧めらしい」
「ではそちらを……」
「よし、食べさせてあげよう」
「まだ続くんですか!?」
「当たり前だ」
「わたしのことは気にせず、殿下も召し上がって下さい。一人で食べても楽しくありませんから」
「む」
殿下の動きがピタリと止まった。
「さっそく殿下と呼んだな? 罰として今日は全て、僕の手ずから食べてもらう」
「ひえぇっ!? いつの間に罰ゲーム方式になってたんですかっ、聞いてない!!」
「嫌なら食べなくても……」
「食べたいです!」
結局は己の食欲に敵わず、殿下に食べさせて貰うスイーツを、受け入れる結果となってしまった。




