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元勇者はのんびり過ごしたい~地球の路地裏で魔王拾った~  作者: 流優
我が家での日常

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山を食らう蛇《2》


 ――新月。


 月すら見えぬ、深い夜の闇。


 生物の気配は感じられず、全てが静まり返り、世界が停止したのではないかと思いそうな程の静寂に包まれた大自然。


 いや、ただの自然ならば、夜行性の生き物もいるだろう。


 夜であろうと自然界の闘争は止まらず、生き物の気配も相応に感じられるはずだ。


 しかし――この場所に、それはなかった。


 死を思わせる、静けさだけがあった。


「――状況知らせ」


 そして、停止した世界にて、動く影。


『こちらA班、配置完了しました』


『こちらB班、同じく配置完了しました』


『こちらC班、政府側に動きが見られます。我々の行動に気付かれたかと』


「何? もう嗅ぎ付けられたのか」


『協力者の情報によりますと、本部及び、旧本部にて、一斉に動き出した模様です。どうされますか?』


 部下の言葉に、男はフンと鼻を鳴らす。


「今更遅いわ。ここに到着するまでには、我々の仕事は終わっている。ただ、行動は早めるべきだな。急ぐぞ」


 リーダーの男の言葉に従い、部下達は警戒しながら、ナイトヴィジョンが無ければ何も見えないであろう森の中を進んでいく。


 やがて辿り着いたのは、とある山の中腹にある、深い洞穴だった。


 そこには何重にもなった注連縄が張られ、大きな魔力の感じられる札が何枚も洞穴の壁に張られている。


 手前の地面には、経のようなものが幾何学模様に描かれ、結界と思しきものを展開しており、非常に強固な封印が施されているのが見ただけでわかる。


 そして――それだけの措置が取られていながらも感じられる、禍々しい気配。


 封印が万全ではなく、付け込める隙があるという証であった。


「ここが……」


「あぁ。――蛇神のねぐらだ」


 感じられる気配の、あまりの強大さに、リーダーの男は思わず冷や汗を流しながらも、そうでなくてはと意識して笑みを浮かべ、部下に指示を出していく。


「作業を開始しろ。迅速に、だが慎重に、だ。さもなくば、我々も死ぬぞ」


 まず、リーダーの男が取り出したのは、杖。


 あまり日本らしさのない――もっと言うならば、欧州(・・)を思わせるデザインをした杖。


 ヤドリギの、木の形状そのものが利用され、飾り気も何もなく最低限の加工のみが施されている。


 トン、とそれを地面に突き立てると、瞬間発生するのは、炎。


 当然ただの炎ではなく、それは青白い光を放っており、注連縄と札に向かって飛んで行く。


 部下達はそれに合わせ、祝詞のようなものを唱え始めるが、それもまた日本語ではなかった。


 ――やがて、ボッ、と火が付く。


 炙られても表面に焦げ目すら付いていなかった注連縄と札の両方が、しっかりと燃え盛り始める。


 地面に描かれた経のような幾何学模様が、薄らいでいく。


 その結果に満足しながら、男達はさらなる儀式を続けていった。


 ――男達の誤算は、三つあった。


 一点目が、『協力者』の嘘。


 協力者は二人存在しており、一人が特殊事象対策課内部の情報を漏らし、そしてもう一人が杖を提供していた。


 そして後者は、男達に嘘を吐いていた。


 残り三分の一程まで封印が解ければ、もうあとは勝手に自壊するため、その時に逃げろ、と。


 が、本来三分の一まで解く必要はない。この封印は、揺らいだ時点で、放っておけば勝手に壊れる。男達はもう、逃げて良かったのだ。


 そして二点目が、四ツ大蛇の封印が、そもそも弱っていたということ。


 封印を施した者であるシロはそれを知っていたため、だからこそ事前の対処ではなく解かせてから対処、という方向で動くことに決めたのだ。


 それはつまり、男達が想定していたより、早く封印が解けるということを意味する。


 最後に三点目が、彼ら自身もまた、『四ツ大蛇』という『脅威度:Ⅴ』にもなる魔物のことを、どこか甘く見ていたということ。


 封印されているとて、その脅威は一切変わることなどなく、そして今も、生きているのだ。


 年月を掛け、徐々に封印が弱まっていく中で、四ツ大蛇は少しずつ少しずつ魔力を貯め続け、力を蓄えていた。


 ――まず、ズン、と地響きが起きた。


 立っていられない程に大地が揺れ、思わず男達が地面に崩れ落ちると、次の瞬間、洞穴が裂け、その奥から何かが飛び出てくる。


 逃げる間もなく、それに踏み潰された男達は、全員、即死した。



   ◇   ◇   ◇



 出撃の時間となった。


 順次、地下駐車場から車両が出発していき、俺とキョウ、そして田中のおっさんはヘリで移動するため屋上に上がり、待機していた機体に乗り込む。


 ヘリに乗るのが初めてなので、ぶっちゃけちょっとテンション上がっている。キョウにまた呆れられそうなので、顔には出さないようにしているが。


『おい、優護。ヘリが物珍しいのはわかるが、ワクワクし過ぎだ。遠足じゃねぇんだからさ』


 ……どうやら顔には出てしまっていたようだ。


「しょ、しょうがないだろ。初めてなんだからよ。夜景が綺麗だし。キョウは初めてじゃないのか?」


『まあ、数回な。車よりこっちの方が現場に早く着く場合は、乗ることもあるぞ』


 ヘッドセット越しに、キョウと会話を交わす。


 すでにヘリは屋上から離陸していて、遥か眼下に夜景が流れて行く。


 空に煌めく星々の光と、大地に煌めく人工の光。


 どちらも美しく、まるで二つの夜空が上下に広がっているようだ。


 ――ウタとリンにも、見せてやりたい景色だな。


「よし決めた、俺いいカメラ買うわ。カメラ」


『そうかい。……優護、アンタって、本当にどこでも変わんねぇな』


 キョウの言葉に、肩を竦める。


「そりゃそうだ。俺はどこでも俺だ。生きてる時も、死んだとしても俺は俺だ。そこがブレることはないさ」


 もうすでに一回死んでるのに、このままだからな。


 多分一生、変わりはしないんだろう。


 ウタの奴も、所帯染みて来てる感じはあるが、根っこの部分は一緒だ。


 誰も敵わぬカリスマがあり、思わずひれ伏してしまう威厳があり、他を思う慈しみがあり、深い愛情があり、子供に負けぬ純真さがあり、おいおいと思うポンコツな部分もある。


 愛嬌に溢れた、『ヒト』そのものの性格。


 決して完璧でないからこそ、皆が付いて来る。皆が慕う。


 リンも懐くし、俺も……ま、何だ。


 一緒に暮らしていて、これ以上ない程、楽ではあるな。


 一人で生きてきた俺が、こんなにあっさりアイツとの共同生活に慣れたのも、アイツの性格が大きいだろう。


 ――そうしてヘリに乗っていたのは、恐らく一時間程だろう。


 だんだんと眼下から光が消えていき、山と森林だけが広がる大自然の奥深くへと入っていく。


 魔力で視神経も強化出来るため、俺はかなり視力が良い方なのだが、それでもよく見通せない程の暗闇が延々と続いており――五感が、何かを感じ取った。


「…………!」


 俺はヘリの窓へと張り付き、外を見る。


 と言っても、夜の暗闇で、距離もあるため、やはりまだ何も見えない訳だが……ここからでもわかる。


『優護?』


 俺の行動を不審に思ったらしいキョウが問い掛けてくるが、俺はそれには答えず、言った。


「田中さん」


『何かね?』


「作戦、ちょっと上手くいってないみたいですよ。――もう出てます」


『何?』


 その時だった。





 山を震わす、大音量の蛇の威嚇音。





 いや……相手が蛇だと俺が知っているからそう思っただけで、何も事情を知らない者が聞けば、大地が鳴いたと思うかもしれない。


 そこに含まれていた負の魔力が、一帯にぶわりと降り注ぎ、今ので広範囲が汚染されたのがわかる。


 うわ……浄化作業が面倒くさそうだ。


 ――やがて、山脈の隙間に、それは見えた。


 空に屹立する、五本(・・)の塔。


 いや、首。


 まるで我こそが支配者だと言わんばかりに、五つの首が、周囲の全てを睥睨している。


「とりあえずツッコみどころとして……アイツ、首五つあんな」


『封印されてたのに、力が増した、ってことか……?』


「そうなんだろうな。こうなる可能性も考慮してたから、封印を解くことにしたんだろうよ」


 まず、敵の作戦は、四ツ大蛇の封印を解いて特殊事象対策課に大きな被害を出させることだ。


 だから俺達は、敵が封印を解き終わり、逃げ出した段階で攻撃を仕掛けて一網打尽にし、その間に俺とかシロちゃんとかが四ツ大蛇と戦う、ということだった。


 配置とか、どういう風に戦うのかは、合流してから聞く予定だったのだが……まだ、こちらが集合地点にも辿り着いていない今の段階で、四ツ大蛇の封印が解けてしまっている。


 とりあえず首五本になってるし、今は『(イツ)ツ大蛇』って呼ぶべきかもな。


 首が増えている、ということは、キョウの言う通り力が増している、ということだろうが、そのせいで何か敵側にトラブルでも発生したのか?


 それとも、単純にこっちの動きに気付いて、当初の作戦よりも前倒しにでもしたのか。


 ……ん、トラブル自体はこっちでも起こってそうだな。


 何故なら、シロちゃんの(・・・・・・)気配を近くに(・・・・・・)感じないからだ(・・・・・・・)


 敵の動きが早まったからこちらの動きも早めた、ということもなく、完全に五ツ大蛇は野放しになっていて、負の魔力を振り撒きまくっている。このままだと、すぐに他の魔物なんかも出現し始めるだろう。


 当初の作戦より逸脱しまくっている現状、色々と想定外が重なっているのは間違いないと思われる。


 ……まあいい、それでもやることは変わらない。


 援軍があろうがなかろうが、俺は奴をシバくだけだ。


『……体勢を立て直さねばな。パイロット、一度引こう。第二集合地点へ向かいたまえ』


 田中のおっさんの判断を、しかし俺は、止めた。


「立て直す必要はあるでしょうが、奴を野放しにしとく訳にもいかないでしょう。すみませんが、このまま一旦、ある程度まででいいんで、近付いてもらえませんか?」


『それは構わないが……パイロット、先程の指示を撤回する。彼の言う通りに頼む』


『了解』


 そうしてヘリは、五ツ大蛇へと徐々に近付いていく。


 バレないように大分高空を飛び、背後を取るように旋回しながら、三キロくらい離れた位置に――おっと。


 ビュン、とこちらに飛んでくる、砲弾のような巨大なヘドロ。触れたら金属でも簡単に溶かしそうだし、そのまま墜落コースだな。


 というか、めっちゃコントロール良いな。ピッチャーやれ、ピッチャー。


『ッ、回避します、しっかりと掴まって――』


「いや、大丈夫です」 


 俺はヘリの周囲に、防御結界を斜め方向で展開する。


 戦車とかに使われている、いわゆる傾斜装甲という奴である。わざと斜めにすることで、正面から攻撃を食らうよりも物理的に装甲が厚くなる上に、銃弾等をそのまま滑らせて弾く効果がある。


 刹那、衝突。


 ヘドロ砲弾は、結構しっかり魔力を込めて作った俺の結界を一瞬で半分くらい溶かしたが、そのままツルンと滑って明後日の方向に飛んで行った。


 これ以上は近付けないか。


「んじゃ、俺が降りたらすぐにこの場から離れてください。――キョウ、また後でな。あ、あと、扉閉めといてくれ」


『何を――』


『優護――』


 二人の言葉を聞き終える前に、俺はヘリの扉を開く。


 轟、と入り込む風。


 そしてそのまま、遥か上空のヘリから、飛び降りた(・・・・・)


 自由落下。


 空を切る音。


 その途中、小さな防護結界を空中に生成すると、そこに着地し、身体強化を最大で発動した足で蹴る。


 加速。


 垂直落下が、空を横切る軌道へと変化する。


 同じように途中で何度も足場を生成し、高度を保ったまま加速し続け、弾丸のような速度となったところで――俺は、五ツ大蛇の下へと辿り着いた。


「よう、デカいのッ! とりあえず首貰ってくぞッ! 俺、今日は蒲焼きが食いたい気分なんだわッ!」


 アイテムボックス式抜刀術で、緋月を取り出しながら、一閃。


 ――お? 意外と硬い。


 いや、硬いというか、抵抗があるというか。


 これは……肉体の周りに、水のように魔力を纏っているのか。


 恐らく、普通に斬ろうとすれば水中のような大きな抵抗があり、そして本体も『脅威度:Ⅴ』に相応しい強度をしているのだろうが……まあ、緋月には関係ない。


 最初にほんの軽い抵抗だけあったが、一度入ってしまえばその刃は止まらず、ぶっ飛んだ勢いのまま首の二本を両断する。


 ブシュウ、と爆ぜるように飛び散る、溢れ出る黒い血と悍ましい魔力。


 そのまま地面に激突する、という寸前で風魔法を発動し、減速しながら着地すると、すぐにその場から飛び退って距離を取る。


 次の瞬間、先程までいた場所にズドド、とヘドロ砲弾爆撃が行われるが、狙いが大雑把なので一つも俺には当たらない。


 こういうデカい奴らって、大体全員そうなんだよな。しこたま魔力を込めて、好き放題に魔法を放つだけ。


 まあ、大津波が来たら人間は逃げられないように、それで大体は殺せるだろうし、十分なのだろうが……俺は、お前みたいな魔法を放ってくる上に、精緻な魔力制御技術も持ち合わせた、本当の怪物と殺し合いをしてきたんだ。


 当たるかよ。そんな、技術の欠片もない攻撃に。


 焦れたのか、新幹線よりも太い、ビルみたいな首の一つが突進を仕掛けてくるが、俺はその場でポンと跳んで躱すと、回避と同時にグルンと回転しながら緋月を振るう。


 刻まれる、深い裂傷。


 突っ込んできた勢いのまま、断面に沿って首が千切れ飛び、ただ俺は結果を確認するよりも先に、再び距離を取って、正面から対峙するように五ツ大蛇を見上げた。


 ――斬った三本の首が、再生していた(・・・・・・)


 攻撃の痕などすでに無く、変わらぬ五本の首で、こちらを睥睨する蛇野郎。ムカつく眼差しだ。


「なるほど」


 コイツに再生能力があるということは、実は事前に聞いていた。


 無限にも思える大量の魔力で再生し続けるため、以前のシロちゃん達では倒し切ることが出来ず、封印するしかなかったのだと。


 確かにこの再生速度は脅威だな。御神酒をぶっ掛けるとその速度は落ちるようだが、再生自体を止めることが出来ないと、あまり意味はないか。


 一つでも回避が遅れれば、そのまま死ぬであろう奴の攻撃の嵐の中、どうしたものかと考えていると――。


「お?」


 キィン、と、我が刀が反応する。


 見ると、黒の刀身の奥に、燃え盛る炎のような赤が走り、仄かに周囲を照らしている。


 緋色の月(・・・・)


 コイツがこの状態になるのは、主に二パターンだ。


 俺が本気になった時と、その魔力を(・・・・・)気に入った時(・・・・・・)


 ふむ、どうやら五ツ大蛇の魔力は、我が愛刀のお気に召したらしい。


「緋月が気に入る魔力で、コイツは斬ってもすぐに再生する。つまり――食べ放題ってことか!」


 言葉尻と共に突っ込み、飛んでくる大小様々な魔法を切り抜け、斬る。


 その一刀で首の両断に成功するが、ピッ〇ロみたいに即座に再生が開始して新しい首が生え、そしてすぐにそれも斬る。


 斬って、別の首も斬って、再生して、その間に別の首を斬って、また再生して、斬る。


 我が愛刀に、大量に吸われていく魔力。


 コイツには、正も負も関係ない。全てが、ただのご馳走だ。


 心なしか、喜ぶように緋月の赤が、脈動しているように見える。


「ははは、よーし、いいぞ緋月! 付き合ってやろう! おかわりは幾らでもある、お前が満足するまで食っていいからなッ!」


 我が愛刀が喜んでいるのが、何だか嬉しくなり、俺は笑った。


 五ツ大蛇が、ジリ、と後退りしたように見えた。

 ヒロインレース、緋月参戦!(なお、人化はしない模様)

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― 新着の感想 ―
踊り食いじゃあ!w
唐突に始まった食べ放題(なお恐らく有限)、乗るしかないこのビックウェーブに!
パクパクですわー!!!
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