WIP 26/? 王都周辺
1週間ほどという、行きに比べればだいぶゆったりしたペースで山脈地帯を抜けた。
平地に降り立ったシャルロットたち4人(タスさんを含まない数)は疲れ切っており、着ている服もどことなくボロボロに見えた。
「……おかしいわ。
ありえない数の敵に襲われた気がする……
あんな山脈地帯に、どうしてあれほどの数がいたのかしら……
行きは無人の野を行くがごとくだったのに……」
言うまでもなくタスさんが〝稼ぎ〟を開始したせいだった。
TASは乱数調整によってエンカウントを避けることができる。
その逆で、同じように乱数調整によってエンカウントを発生させることも可能なのだ。
……TASがひとたびエンカウントをすると決めたのならば、その道のりは地獄となる。
つまるところ、TASにレベルを上げる対象とされたキャラクターは、地獄でレベルを上げて修羅に至るのだ。
今回、修羅となったのはもともと人外に片足を突っこんでいるタスさんと、主要装備が飛び道具というだけの理由でレベル上げする羽目になったヤイヌである。
ヤイヌは拾いもの(山賊から略奪した)の複合合成弓を片手に、ひきずるような足取りで歩いていた。
「……タスサン。
ヤイヌは感じる。とてつもない疲労。
狩りには慣れていた。
しかしヤイヌは感じる。ここまでの忙しさはなかった」
「ヤイヌはがんばっていたものね……
というか、ほとんどヤイヌとタスさんで敵を片付けていた気がするわ。
私も何度か馬を走らせたけれど……
攪乱とか陽動ばかりで、抜いた剣を交えた記憶がないわ」
あくまで成長させるキャラクターがとどめを刺してこその稼ぎである。
それ以外のキャラクターたちは削りや陽動こそするものの、まともに戦闘をするようなことにはならないのであった。
ヤイヌが誰へというわけでなく問いかける。
「ヤイヌは望む。休み。
目指しているのはすごい街と聞いている。
まだか?」
その質問にはオデットが答えた。
「ヤイヌさんのおっしゃった通りの場所で山を抜けたならば――
そろそろ見えてくるはずですわ。
大きな石の城壁に囲われた街なので、近付けばすぐにわかるはずですが――」
言っているあいだに小高い丘をのぼりきる。
すると――言われた通りの景色が見えてくる。
石壁で囲まれた四角い街だ。
やや高い位置から見ているのでさすがに全景がわかるけれど、それでも大きさには度肝を抜かれるようだ。
石壁の中には人々の営みが見えた。
今は昼時だ。街の中央付近には市場があり、そこで買い物をする人たちが目立つ。
また、街の中心から四方に向けて延びる目抜き通りに沿うように、宿泊施設などの大きな建物が見えた。
街の北方には王宮がある。
鐘楼のある大きな建物だった。周囲を水で囲まれており、跳ね橋が降りないと敷地内に入れない仕組みのようだった。
城壁も高く、堅牢そうだ。権力の象徴としての城というよりは、緊急時の防衛避難を考えられた造りのように見える。
「――見えましたわね。
さて……すんなり入れるでしょうか」
シャルロットが首をかしげた。
「そういえばオデットは、どのようにして城を抜けたのですか?」
「城を抜けるのは、王族にのみ知らされた通路からですわ。
いざという時に避難するため、隠し通路がいくつかあるのです。
王宮の敷地から街の外にも、そこを通って抜けられるのですが――
シャルロットの領地に行った時には、すでに宰相派の追手に追いつかれました。
……通路がばれている可能性もあるのではないかと考えておりますわ」
「国王が長く玉座を空けたことで混乱はないのでしょうか」
「そこは影武者を立てておりますので、ご心配なく。
宰相派は騙せなくとも、民への顔出しぐらいであれば可能な人材ですわ。
政務についてもうまいことしてくれているかと。
……わたくしの裁可が必要な仕事を引き延ばすという方法ですけれどね。
また、宰相派がいたずらにわたくしの不在を流布されたということもないでしょう。
不在のあいだに玉座をかすめとるというのは、政治的にうまくありませんもの。
わたくしの死が確認できれば、その限りではないのでしょうけれど……
彼らはよくも悪くもわたくしの生存を確信しているはずですわ。
最初に襲ってきた相手にも、監視役がついていたでしょうし。
彼らがタスさんにやられた時点で、襲撃失敗の報が宰相にとどいたかと。
……それにしては、旅の途中でそれらしい相手に襲われませんでしたけれど」
「これからの方針にかんしての質問ですが……
オデットが〝女王の帰還〟として堂々と街に入るか――
それとも、こっそりと忍び込むか。
どちらがいいでしょうか?」
「民にわたくしが不在だったとばれるのはよろしくありませんわ。
秘密裏に王宮に戻るべきと思います。
ただ――
秘密裏に戻るにしても、選択肢がございますわね。
正体を隠して街には入り、王宮での宰相派の動きを探りつつ行く方法……
それから、敵が張り込んでいるかもしれない隠し通路で一気に玉座まで戻る方法。
前者は時間がかかるけれど安全ですわ。
後者は……危険ですわね。
まずは1本道の通路で敵と遭遇する危険性。
そして、隠し通路を抜けたところで玉座――つまり敵の真ん中に出る危険性。
もちろん国王派の者も王宮内にはおりますが……
現在の情勢次第では、誰も味方してくれない可能性がありますわ」
絶望的な予測。
だというのにオデットの声は冷静だった。
ネージュがあきれたような顔をする。
「……誰も味方してくれないって。
すげえ人望だなあ……」
「必要があったとはいえ、王宮を秘密裏に抜けたのは事実ですからね。
国王が玉座を抜けてまで独自に調査を行なう――
それは、暗に〝味方の調査能力を信用していない〟と言っているようなものですわ。
自分を信用してくれない相手に、どうして味方しましょうか」
「でも、実際にあんたのまわりのヤツらはなんもつかめなかったんだろ?」
「それはそうですけれど……
王として正しい振る舞いは、それでも急がず周囲に任せることでしたのよ。
単独行動に踏み切ってしまったのは――
若さ、とでもいうべきですかしら。
……あなたたちに言ってもちょっと説得力がないかもしれませんが」
オデットはパーティ最年長である。
あんのじょう、ネージュは首をかしげていた。
シャルロットが話題を変えるように言った。
「それで、王宮への入り方だけれど――
――隠し通路を通る方でいいかしら?
タスさんならそっちを選びそうだものね」
たしかに〝安全だが時間がかかる道〟と〝危険で早い道〟ならば、後者を選ぶのがTASだ。
しかし――例外もある。
タスさんはシャルロットに耳打ちした。
「……」
「あら、『買い物がしたい』のね。
そうなると姿を隠して街に入る方になるのよね。
珍しいわね。時間がかかるけれどいいの?
……『結果的に早くなる』?
ああ、よかった。
あなたはやっぱりせっかちなのね」
なぜか安心したように笑みをこぼす。
シャルロットの言うとおり、タスさんは今まで早く終わるルートを選び続けてきた。
それはすべて短いタイムでのクリアを目指してのことだが――
重要なのは〝クリアを目指している〟という点なのである。
つまり、いくら早く次へ行けてもクリアできなければ意味がない。
レベルの〝稼ぎ〟もそのために行なった。
装備は充実し、資金はたまっている。
あとは店売りで必要な回復アイテムをそろえるだけだった。
そのためには買い物が必須だったのだ。
オデットが手を叩く。
「それでは、姿を隠しつつ堂々と王都に入りましょう。
これから買い物をするのですわね?
……不謹慎ですけれど、少しワクワクしますわね。
王都に住んで長いですけれど――
あまり街で買い物をするようなことはなかったですから」
嬉しそうな顔だった。
タスさんはシャルロットに耳打ちする。
「……」
「……『気楽でいいと思う』?
あなたが普通の感想を口にするのは珍しいわね。
でも、オデットは窮屈な立場なのよ。
買い物で喜ぶのも仕方のない――
……なんでそこで遠い目をするのよ」
……彼女たちはどうやら決定的な思い違いをしているらしい。
タスさんが〝回復アイテムを買う〟というのが、どういうことなのか――
その意味に気付くのは、しばらくあとのこと。
王宮であとに退けない戦いが始まり、そして終わる時になる。




