WIP 24/? ルート分岐
襲撃者を撃退した。
彼らは捕らえられ、背後関係を白状するまで尋問されることとなるだろう。
トリスタンの陣幕はむごいありさまになってしまったので、今はグレゴワールの陣幕に来ていた。
内部にいるのは先ほどのメンバー……トリスタン、グレゴワール、マルギット、オデット、シャルロット、タスさん――に加えて、ネージュとヤイヌだ。
トリスタンとオデットが対面するように木の椅子に座り、あとはその周囲で立っている。
トリスタンがシャルロットに告げた。
「……先ほどは、助けられてしまったね。
その子は、君の侍従だろう?
改めてお礼を言うよ」
シャルロットが困惑する。
「お礼などとそんな……
それに、侍従ではあるのですけれど……
その、不思議な子で。
私も彼女の行動を把握できていないと言いますか……」
「ああ、先ほどのは独断だったのか……
――では、お礼は君に言うべきかな。
ありがとう。
素晴らしい戦闘技能だね。
君がいるならオデットも安心かもしれない。
…………ところでさっきから黙っているけど、機嫌が悪いのかい?」
戸惑った顔だった。
シャルロットが慌てて捕捉する。
「すみませんトリスタン様!
タスさんは極度に無口なんです!」
「あ、ああ、そうなのか……
てっきり不機嫌なのかと思ったよ。
なんだか話をしている最中ずっと退屈そうな顔をしていたからね。
まあ、大人の話は子供には面白くないものだからね。
僕も覚えがあるよ」
「タスさんの場合は特にその傾向が顕著かもしれません。
どんなに重要な話であっても興味なさそうというか……
せっかちな子なんです」
「……つまりよくわからない子なんだね。
ま、まあ……子供のうちはそういうものかもしれないし。
ともあれ――
これで宰相派が潜ませていた連中は一掃できただろう。
ようやくグレゴワールを戦場に戻すことができそうだ。
ところで――
1つ提案があるのだけれど、かまわないかな?」
トリスタンがたずねる。
シャルロットが首をかしげた。
「どのような提案でしょうか?」
「うん、実は先ほどの戦いを見て思ったのだけれど……
君たちにも戦争に参加してもらいたいんだ。
とはいえ、前線の兵ではない。
僕の近衛としてね」
「トリスタン様の近衛ですか!?
そ、それはものすごく光栄なことですね……」
「というのも――
実は、なかなか落とせない砦があってね。
そこでグレゴワールに相手の補給線を断ってもらおうと思っているんだ。
けれど、補給を断ったぐらいで落ちるとも思えない。
なにせこちらの士気が低いんだ。
長く成果が出なかったもので、兵士たちから気力がなくなり始めている。
だから――僕が前線に立って陣頭指揮を行おうと思っている。
君たちには、僕のそばで警備をお願いしたい。
先ほどの陣幕越しに矢を当てる技術を見て、護衛として適任だと思ったんだけれど……
どうかな?」
「重要なお役目ですね……
しかしトリスタン様、我々は現在、オデット陛下に仕えております。
王都に戻り、宰相派の嘘を暴露しなければなりません。
陛下、並びにトリスタン様を暗殺の危険から遠ざけるためにも――
早急に完遂するべき任務と考えております」
「そのことなのだけれど……
実は君たちを引き留める理由はいくつかあるんだ。
うち1つに、今の君たちを王都に帰すのは危険だという判断がある。
……今回、宰相は今までになく本気だ。
なにせ王族に暗殺者を仕向けるぐらいだからね。
今までの政争も危険がなかったとは言わない。
でも、今回は段違いに相手が本気だ。
きっとただ王都に戻って僕の言葉を伝えるだけでは終わらない。
王都、王城は宰相派の要塞と化しているだろう。
……オデットにも言われた通り、僕は戦争が終わるまでここを離れられない。
しかし砦を落としてしまえば、少し余裕ができるだろう。
戦場をグレゴワールに任せて――
君たちとともに王都へ帰ることもできる。
僕が軍を率いて派手に戻れば、宰相派も手出しはできないはずだ。
なにせ、彼らが祭り上げようとしているのは〝僕の子供〟なのだからね。
だから僕が戦地を離れられるよう、君たちに手伝いをお願いしたいんだけれど……
どうだい?」
「……私1人では決めかねる問題です」
「ああ、今すぐ決めてくれということじゃないよ。
ただし、明日には砦攻略にかかろうと思っている。
返事は今日中に欲しいかな。
……今を逃すと、また陣中に宰相派が紛れ込みそうだしね。
あと、この提案はなにも君たちの身を案じているだけじゃない。
純粋に君たちの戦力に期待する部分もあるんだよ。
先ほどの手腕を見せつけられれば、当然だ。
情けない話だけれど、今は1人でも信頼できる兵が欲しいのも事実なんだよ。
そのあたりもふまえて、考えてくれると嬉しいな」
「……わかりました。
――どうしたらいいかしら。
みんなの希望を聞きたいと思うのだけれど。
タスさんはなにか意見なり未来予知なり、ある?」
シャルロットがこちらに目配せする。
今問われているのは、いわゆるエンディングのルート分岐だ。
ゲームによってはマルチエンディングと呼ばれる形式をとっていることがある。
プレイ中の選択肢、場合によっては所持アイテムや味方生存数、戦闘内容などによってエンディングが変わるのだ。
そしてどのエンディングに行くかを決定付けるのが〝ルート分岐〟という概念である。
今回の場合は、2つのルートを突きつけられている。
1つは〝戦場に残って戦争を終結させてから王都に行く〟というもの。
もう1つは〝戦争を放置してさっさと王都に帰る〟というものだった。
……最近のゲームであれば難易度に細心の注意が払われているので、どういうルートを選んでも進行に問題はない場合が多い。
しかし昔のゲームになると〝初心者なのに経験者推奨ルートに入って詰んだ〟ということも起こりうる。
ルート選択によってはメインで使っていた回復役が急に抜けたり、いきなりステージの難易度が跳ね上がったり、違うルートでは10ステージあとぐらいになって戦うはずのボスが次ステージでいきなり出てきたりということが起こるからだ。
そして、現在TASっているゲームは〝ひと昔かふた昔前のゲーム〟である。
……つまりなにも知らずにやっていると〝詰み〟が発生するような難易度調整なのだった。
この場合、初心者が選ぶべきなのは〝戦場に残って戦争を終結させてから王都に行く〟ルートである。
こちらを選ぶと、トリスタンやグレゴワールが仲間になる他、ステージ数をこなせるのでレベルが上がる。
なので、タスさんが選ぶルートは決まっていた。
シャルロットに耳打ちする。
「……」
「……『早く王都に』ね。
また占いでなにか見えたのね?
……あなた、占いの話題になるととてつもなく面倒そうな顔をするわよね。
とにかく王都に行くというのがタスさんの決断ね。
みんなはどう思う?」
周囲をぐるりと見回す。
オデットとヤイヌは異論がないらしい。肯定するようにうなずいた。
しかし、ネージュだけが不満そうな顔をしている。
「……あたしは戦場に残った方がいいと思うけどなあ。
だってこれから向かう先って王都なんだろ?
それ、西方の領地からここに来るまでに、あえて避けたぐらいの危険地帯じゃねーか。
悔しいけどあたしら強くねーしさ。
せっかく王都に行っても殺されたんじゃ意味ねーだろ?
……それに、あたしのママを殺したやつも砦にいるだろうし。
あたしは残って戦争の手伝いをするべきだと思うけどなあ。
ま、私怨なのはわかってるから、どうしてもとは言わねーよ」
肩をすくめる。
タスさんはシャルロットにさらに耳打ちした。
「……」
「『そういうのはエンディングのあとでやればいい』?
……エンディングってなにかしら。
終了後?
ようするに、宰相派との問題を終えてからっていうこと?
……そうね。たしかに、そうだわ。
内憂と外患のどちらから片付けるかという問題で――
タスさんが内憂を先に処理すべきと言うなら、その方がよさそうね。
――トリスタン様。
そういうわけですので、申し訳ありませんが……
私たちは、王都にオデットをお連れします。
内部の憂いを先に断ちに行きます」
シャルロットが宣言する。
トリスタンは微笑みつつもため息をついた。
「そうか。わかったよ。
少し残念にも思うけれど……
たしかに、外と中、どちらを優先すべきかは難しい問題だ。
僕とてなにを先にすればいいか、間違いなく判断する自信はない。
判断の是非は後世の歴史家が決めるだろう。
じゃあ、少し待っていてくれないか?
僕には子供がいない旨をしたためた宣誓書をしたためよう。
言葉だけでは言い逃れされてしまうかもしれないからね。
それを持って、王都に帰るといい。
……くれぐれも気をつけてくれよ。
先ほども言ったが、今回の宰相派は普通じゃない。
あとに退かない覚悟を感じる。
そういった相手は怖いものだ」
「ご忠告痛み入ります。
では、宣誓書をいただいたら、さっそく発ちたいと思います」
「……慌ただしくさせてしまってすまないね。
戦争が終わったら、なんらかのかたちで労おうと思う。
オデットをよろしく頼むよ」
「はい。
トリスタン様もお元気で。
宰相派をどうにかして、必ずお手伝いにうかがいますので。
すべてが終わったあとみんなで――
――あら?
タスさん、なんですごい勢いで顔を背けるの?」
背けもする。
先ほどシャルロットには〝エンディングのあとで〟と言ったが――
TASに〝エンディングのあと〟など存在しない。
本編が終わったら終わりなのが、TASの原則なのだった。




