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098 魔眼のバロル7:魔力回復ポーション

 魔力回復ポーションを飲むのは生まれて初めてだ。

 こんなにマズいとは思わなかった。

 独特の臭みと苦味とえぐ味を絶妙にブレンドし、最悪の口当たりに仕上がっている。

 一週間履き続けた靴下を煮込んだスープの方がまだマシだ。


 ポーション瓶に目をやる。

 まだまだ、たっぷりと残っている。


 ひと口飲んだが、魔力が回復した気配はまったく感じられない。

 全部飲み干さなきゃいけないのか……。


 覚悟を決めて、一気に流しこむ。

 途端、物凄い吐き気が襲ってくる。


 俺は懸命に堪える。

 ここで吐き出したら、苦労が水の泡だ。


 片手で口を押さえたまま、マジック・バッグをあさり、目当ての瓶を取り出し、急いで飲む。


 二日酔いや吐き気を押さえるフルーツジュースだ。

 強い酸味がポーションの味を上書きしていく。


「ふぅ」


 多少はスッキリしたが、口の中になんとも言えない後味が残っている。

 魔法使いはこれを普通に飲んでいるのか……。

 顔色ひとつ変えずに飲み干したサンディを尊敬する。


 人生最悪の初体験だった。

 できるなら、もう飲みたくない。

 だが、今はそんなこと言っている場合じゃない。


 俺だけでなく、多くの人の命がかかっているのだ。

 魔力を回復するためなら、なんだってしなければ。


 そう思うのだが……。


「回復…………した?」


 あれだけの苦痛を乗り越えたというのに、魔力が回復した気配はちっとも感じられない。

 いや、「ちょっとは回復したかな?」と思わなくもないが、「気のせいだ」と言われたら、「そうだよな」と同意してしまう。

 そんな感じだ。


 おかしい?

 一本で門番時代の俺の月収を超える値段だったのだが?


 俺の体質的な問題なのか?

 俺の魔力が大きすぎるからなのか?


 原因は不明だが、ポーションで魔力を回復するという選択肢はなくなった。

 こっからはますます慎重に魔力運用をしていかないとな。

 それでも……足りるだろうか?


 ――不安が鎌首をもたげる。


 そんな俺とは反対に、ヴォルクは生き生きと戦っている。


「おらっ、ここだ、ここっ!」


 先ほどまでは目まぐるしい速さで翻弄していたが、今は真正面で立ち止まり、バロルを煽る。


 立て続けに振るわれる巨大な拳。

 右へ左へ、紙一重でかわすヴォルク。


 業を煮やしたのか、拳は当たらないと悟ったのか――。


 バロルは左足を後ろに引き、大きく前蹴りを放つ。


「今だッ!」


 ヴォルクは身体を翻し、それと同時に合図を送る。


 背後から四人の攻撃。

 バロルの右脚に攻撃が集中した。

 それにより、ダメージを蓄積していたアキレス腱がついに断たれ――バロルはバランスを崩す。


「下がれっ!」


 ふらふらとよろけるバロル。

 俺はサンディを抱え、バロルから全力で離れた。


 その直後、バロルが転倒した――。


 ストンピング攻撃とは比にならないほど地面が揺れ、俺はサンディを抱えたまま倒れこむ。

 振り返ると、オルソ、ルナール、ラカルティの三人も倒れている。

 だが、ヴォルクとディズは倒れるどころか、飛び上がり、ここぞとばかりに一撃を叩きつけるところだった。


「逃げろっ!」

「退避ね」


 バロルに重たい攻撃を放った二人だが、深追いをせず一撃離脱。

 バタバタと手足をもがくバロルから離れ、安全な場所まで避難する。


「巻き込まれたらたまんねえ。一回退くぞっ」


 しばらく暴れたバロルだったが、攻撃範囲内に誰もいないとさとったのか、ゆっくりと立ち上がる。

 右脚は使い物にならなくなっており、左足だけでふらついている。


 バロルが左手を上げる。

 金の指輪が輝き、傷が癒えていく。

 すべての傷がふさがると、ピシリという音が響いた――。

次回――『魔眼のバロル8:指輪のヒビ』


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