096 魔眼のバロル5:立ち上がる
巨大な玉座が壊れ、バロルは立ち上がる――。
座っていても巨大だったが、立ち上がった今、その頭部が霞みそうなほど遠くに感じられる。
はるかな高みから、虹色の双眸が俺たちを見下ろしていた。
「ようやく、本気になりやがったか?」
「いえ、まだよ。バロルが本気を出すのは、額の目が開いてから」
「ほう」
バロルは厭らしい笑みのまま。
まだまだ、本気だとは思えない。
「くそッ、ナメやがってッ!」
「目が開いた後は、私とロイルがなんとかする。だから、みんなはそれまでに全力を出し切って」
「策はあるようだな?」
「ええ、聖女を信じて」
「おっけー。オマエら行くぞッ!」
バロルは立ち尽くし、俺たちを見下げたまま動かない。
ヴォルクたちは先制攻撃――バロルの脛より下に攻撃を集中させる。
ヴォルクの爪が肉をえぐり、オルソのモーニングスターが叩きつけられる。
そこにルナールの火炎魔法とサンディの雷魔法が加わる。
ラカルティは精霊に祈祷を捧げ、攻撃力を高めるバフをかける。
反撃がないままに、バロルの傷はどんどんと広がっていく――。
「ロイル、魔力はどう?」
「けっこう……減った。で、も……残り……わかん、ない」
魔力はかなり減っている。
それ実感できる。
だが、俺は魔力を使い切ったことがない。
どこが限界かわからないのだ。
魔法を使うたび、「これが最後の一発かもしれない」――その不安が頭をよぎる。
「目を開いてからが本番よ。今は温存。わかった?」
「わか……った」
じれったい思いだ。
できるなら、なにも考えずに魔法を撃ちまくりたい。
でも、ディズがこう言う以上、今は我慢だ。
俺は、拳を握り締め、ぐっと堪える。
『紅の牙』が参戦してからは、こっちが優勢だった。
だが、戦況はここで一気にひっくり返される――。
指輪が光ると、バロルの傷は癒え、今まで見下ろすだけだったバロルが腰をかがめ、地面すれすれまで顔を下げる。
二つの虹色の瞳で俺たちを凝視し、その笑顔はよりいっそう醜悪に歪む。
「――殺ス」
バロルが初めて口を利いた。
鼓膜の奥に不快感がこびりつく。
いつまでも残響が心の底を引っ掻き続ける。
世界中の悪意を凝縮した声だった。
ヴォルクの赤い毛が逆立つ。
サンディが短い悲鳴をあげる。
俺も背筋に嫌な汗が伝った。
刹那――物凄い風圧に襲われ、目を閉じる。
空間が歪んだのかと錯覚した。
自分の居場所がズレたように感じられた。
一歩、後ろに下がっていた。
目を開けると、視界に飛び込んできたのは、巨大な塊。
それはバロルの拳だった。
ぬっと突き出された拳だった。
――ドシンッ。
後ろから聞こえる重たいものが落ちる音。
振り向いた先では、ヴォルクが地面に叩きつけられていた。
次回――『魔眼のバロル6:バロルの反撃』
明後日の更新です。




