093 魔眼のバロル3:爪弾
俺の魔弾が親指の爪と相殺し、ディズはバロルの右足の小指を思いっきり殴るッ――。
「足の小指は痛いからねっ。コイツにも効けばいいんだけど……」
バロルは相変わらずの不吉な笑顔だ。
「あんまり、効いていないね。だったら――」
連打。連打。連打――。
左右の拳を足指に叩きつける。
さすがに堪えたのか、いや、うっとおしいだけか。
バロルは小バエでも払うかのように、無造作に足を蹴り上げた。
「おっと」
ディズはバックステップで華麗に回避する。
「ダメージはあんま通ってないけど、イラつかせるのには成功だね」
右手の五本の爪はすべて失われた。
次は左手か?
そう思ったところ――右手の爪がニョキっと再生された。
「バカげた回復力。知ってはいたけど、これはしんどいなあ」
左手の指輪は光らなかった。
この程度の回復は指輪を使うまでもないのか……。
「どうしよっか? 私が攻めるか、ロイルが攻めるか……」
ディズが首をこちらに向ける。
俺の魔力効率を気にしているんだろう。
与ダメージ優先だったら、俺が魔弾で攻撃すべき。
だが、そうすると定期的にディズに障壁を張り直さないといけない。
【絶対不可侵遷移空間】は覚えたての魔法。
まだ最適化されておらず、魔力を無駄に使っている部分がある。
「ディズが……攻めて」
「おっけー!」
サンディはまだ詠唱中。
もう少し、時間が掛かりそうだ。
それまで、俺が守るッ。
バロルは右手を開き、五本の指をこちらに向ける。
同時に五発か……厳しいがやってみせる。
「親指は私が。後はお願い」
「わか、った」
――ドンッ。
――ドンッ。
――ドンッ。
――ドンッ。
――ドンッ。
「破ッ」
『――【すべてを穿つ】』
『――【すべてを穿つ】』
『――【すべてを穿つ】』
『――【すべてを穿つ】』
『――【すべてを穿つ】』
すべて、撃ち落とした。
気は抜けないが、対処可能だ。
集中しろ。集中しろ。
そんな俺たちを見て、バロルはオモチャを見つけた子どものような笑みを浮かべる。
「まだまだ、遊ばれてるね」
「う、ん」
こちらが命がけの真剣勝負を挑んでいるというのに、アイツにとってはただの遊び。
圧倒的な力の差を感じる。
――それからは撃ち合いだった。
二人がかりで爪を防ぎ。
ディズの障壁を張り直し。
合間を縫って、足の小指を殴りつける。
ディズが何十発も殴りつけて――ようやく、小指をへし折ることに成功した。
骨が砕ける鈍い音が響くが、バロルは痛みを感じていないのか、首を少しかしげただけだ。
「ロイル、大丈夫?」
俺の顔色でディズは察してくれた。
魔法の連発で魔力を消耗している。
こんなことは初めてなので、あとどれくらい魔力が残っているのかわからない。
これだけやっても、小指一本落とせただけだ。
先は果てしなく――遠い。
絶望しそうになるが、やるしかない。
ひとつずつ、少しずつ、削っていくしかない。
何度目か、バロルが五本指をこちらに向ける。
魔弾発射体勢で待ち構えていると――。
いきなり、バロルは右脚を上げ――踏み降ろす。
「あっ……」
地を伝わる衝撃。
地面が揺れ、俺はすっ転んだ。
俺だけではない、詠唱中だったサンディも倒れている。
無事だったのはディズだけ。
彼女は咄嗟に攻撃をあきらめ、後退する。
そのとき――五つの爪が発射された。
俺は急いで撃撃体勢に移る。
ディズが二つを殴り、軌道をそらす。
『――【すべてを穿つ】』
『――【すべてを穿つ】』
『――【すべてを穿つ】』
慌てて撃った三発。
そのうち二つが爪に命中したが、最後のひとつを撃ち漏らしてしまった。
爪がサンディに迫る。
起きていれば身を挺して守れた。
だが、転んだままではなにもできず――。
「サンディ!!」
詠唱に集中していたサンディは突然の事態に状況がつかめていない。
とても回避は間に合わない。
――守ってくれ。守ってくれ。守ってくれ。
俺は【絶対不可侵遷移空間】の力を信じるしかない。
迫る爪。
動けないサンディ。
そこに、赤い影が躍り出る――。
次回――『魔眼のバロル4:合流』




